第8話 絶大なる力
俺は魔法学院の入学手続きを済ませ、誰もが最初に行うという大魔導グロース・ユニヴェルムという人間から体内魔力の検査をしてもらう為に、理事長の部屋へ続くとされる魔回廊のゲートに足を踏み入れた。
ゲートに入ると移動は一瞬で、それらしき部屋に入ると、視界にすぐに、肩から背中に掛けて大きく青いマントを羽織り、白髪が顎髭まで繋がりもっさりとした髭が下まで伸び、年齢は八十を超えているだろうか。老人が見えた。
その割に体格はしっかりで、まるで俺の事を待ち受けていたかのように、視線はずっと俺にあった。
俺の姿が見えるとその人間は硬い表情からにんまりとした笑顔に変わる。
「ほっほっほ。お主が今回の入学者、カオス君かな?」
「お前がグロースか。見ていたんだな?」
「あぁ、お主が学院に入ってくる時からずっと見ていた。して、どうして、此処の学院に入学したいと思っていたのかな?」
言葉の間に少し間を空けて、ゆっくりとした話し方。この反応から見るに、どうやら俺が神、又は人間では無いとは分かっていない様だ。
相手を見るだけ分かる程では無かったか……。
「理由は一つ。力を得たい。いや、ただ取り戻したいんだ。本来の絶大なる力を」
「絶大なる力……か。どうしてそんな力が得たいのかは、聞かないでおこう。さて、これから私が何をするかは、分かっておろう? 身体の力を抜き、楽にしなさい」
俺は言う通りに、一つ息を吐き、全身の少し強張った力を抜き、立った姿勢のまま目を閉じる。
すると、グロースは俺の胸に片手を置くと、なにか唸り始める。
「ううむ……これは……。良し、もう目を開けて良いぞ」
「もう分かったのか?」
「あぁ、これはなんと言うべきか。体内魔力の流れは一般の平均より遥かに薄い。ただし、まるで内側に正にお主の言う絶大な力が封印されている」
「封印? どうすれば取り出せるんだ」
それを聴くとグロースは難しい顔をして、その答えが正しいのか分かっていない様に、悩みながらゆっくりと答える。
「あぁ、この力はもし目覚める事が出来れば、それは真に絶大なる力。人智を超えるというべきか。
しかし、それは複雑な暗号で閉められ、幾ら訓練しても、その境地には辿り着けない。長い時間を掛けてもだ。
正に、人間では決して到達出来ない力。取り出す方法は……済まない。私でも分からない。これはあまりにも初のケースだ。人間であるお主が内側にそれを超える力を秘めているとは。
これは久しぶりに研究をするしかないのぉ……」
ゆっくりと混乱させない様に確実な言葉を紡ぐんで行く。そして自分の顎髭ふさふさと触ると、何か決意した表情になる。
「研究? そこまでしなくては分からないのか?」
「あぁ、不可思議で不可解。私でも見た事が無い力だ。しかし何も心配する事は無い」
グロースの難しい表情は、また優しい表情に戻り、俺の肩にゆっくり手を置いて話す。
「カオス君の目標は此処では達する事は非常に難しいが、君の力はまだ一般以下。
急激に成長する形でも、全く成長しない形でも無いから、まずはゆっくり此処で基礎を学び、君の満足する最大の力を目指さなさい」
「ありがとう。ずっと失ったと思っていたんだ。だが、確かに内側に存在する事は分かった。感謝する」
「ほっほっほ。私も久々に興味が湧いたわ。
確か君は戦闘科を選んでいたね? 存分に力を鍛え、その力を学院中に示すと良い。では、受付まで戻ると良い。魔回廊を受付前に変えておこう」
すると、グロースは俺が通って来た魔回廊に、手を入れると何か魔回廊の雰囲気がかわり、俺を前に立たせるとゆっくり背中を押して中へ通す。
すると、言っていた通りに受付の目の前に戻された。
直ぐに後ろを振り向くが既に魔回廊は消えていた。
「お疲れ様です。終わったんですね。どうでしたか?」
「あぁ、ずっと俺が疑問に思っていた事が分かってスッキリしたよ。
これで全力でこの学院での魔法訓練に励める筈だ」
「それはそれは。では、こちらが此処の制服とバッチになります。此処受付から直ぐ右隣にある更衣室で制服に着替え、こちらの時間割と学院内の地図を宛に自分の所属科目の授業に出てください。
授業中の教室には私から連絡しておきますので、入ったらすぐに紹介されると思います」
「分かった。では行ってくる」
俺は受付に声を掛けると、すぐに男子更衣室に入り、制服に着替え始める。
更衣室に入ると、丁度同じタイミングだったか、同じく此処の生徒だろうか。制服を私服から着替えている途中の男に出会った。
ただ着替えている間、何度か目が合うが、此処の学院は百万人以上の生徒がいるせいか、一言足りとも会話する事は無かった。
顔なんて一人一人覚えていられないという事だろう。
制服に着替え終わると、制服の襟にバッチを付け、更衣室出口に立て掛けてある姿鏡で全身を確認する。
髪色は兎も角、神だったという面影は一切感じない。というか完全に人間の子だ。
身長は高めで、ほっそりとした体付きをしながら筋肉構成はしっかりしている。
あぁ、これが人間の身体か。幾ら人間の身体に似せた作りをさせても、いざ動かすとなればこうも違和感が出るのか……。
鏡を見て漸く自分の無力さを理解した。最初は筋力が落ちたと勘違いしていたんだ。
神の力が有り余っていた時は、人間の身体を模しながら、ほとんど絶大な魔力で動いていたから、魔力の流れが薄くなってしまった今の俺は、筋力なんて元から無かったと言える。
そう、人間の身体構成である筋肉と骨の動きに元から慣れておらず、最初の狼に喰われそうになったのは、ただ単に魔力の助けが皆無だったからだ。
魔力の訓練も良いが、今は身体作りを集中しなくてはどうにもならないという事だろう。
俺は制服に特に問題は無いと確認すると、更衣室を出て、学院の地図を見ながら戦闘科が集まる教室に向かった。
……。
戦闘科教室の
教室に入ると、多くの約四十人の生徒が全員自分の席に座るなりして、その正面に立つ教師だろう人間が俺の方を向いて待っていた。
「君が、今日入学して来た新入生かな?」
「あぁ、そうだ」
「はい、じゃあみんなー、新入生が来たよー。席に座ってー。じゃあ、早速自己紹介をしてくれるかな?」
どんな自己紹介をするべきか。突然俺は神だと言えば今までの人間の反応からして、馬鹿にされるのは確実。普通に通行証に書いた事を話すか。
「俺はカオスだ。ノル村から来た。……一見、創造神カオスと同じ名前だと思うが、何も関係無いから気にしないでくれ」
自分が神である事を否定した。此処はもう仕方が無い。此処にいる全員に大笑いされるよりはマシだろう。
「はい、カオス君ね。じゃあ、そうだねぇ。そこの一番右端、窓側にある席がカオス君の席だ。これからよろしくねぇ」
「あぁ」
俺は教師に指さされた席に向かうと、何故か生徒達が騒めく。
「なんか感じ悪いな今回の新入生」
「敬語使わない人なんて初めて見たぞ?」
……。そうくるか。人間に対して
ただ俺はそんな周りの反応に一切動じない姿勢を見せ、ゆったりと席に座る。
すると教卓の前に立つ教師は生徒全員に声を掛ける。
「よし、じゃあ、丁度良いタイミングで休憩時間だ。是非新入生と話して、親交を深めると良い。次の授業は十分後、同じく此処でやるから、別の教室に行ったりして遅れない様に。では解散」
そういうと一斉に生徒は各々立ち上がるなり、教室を出るなりして、自由行動を始めた。
そして俺の隣に座る男が早速話しかけて来た。
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