第4話 名残

 俺は異常な疲れと空腹からノルドの前で倒れ伏せてから、魔物を自分で倒せるまでという条件の元にノルドの家で寝泊まりさせてもらう事になった。

 俺は毎朝起きて、毎日体内魔力の純度を高める訓練をやった。


 そうして一週間が経った。


 その時点では漸く体内への魔力の流れを感じる始めた。まさに、力がどんどん漲ってくるようで、少し感動もした。

 しかし、一つ問題もあった。これも神の力の名残のおかげか魔力の流れを感じるようになり始めてから、どうやら普通の人間より異常に魔力の流れが速く、その魔力の流れを感知し、魔物が頻繁に襲ってくるようになった。


「カオス! そろそろ訓練の成果出始めたんじゃ無い!? 魔物が仕切りなしに襲って来るんだけど! 普通はこんなんじゃ無いよ」

「まだだ、この程度では無い」


 横でノルドがほぼ常に休む事なく魔物を倒し続けている。襲ってくる魔物自体はノルドにとっては弱くほぼ一撃で倒しているが、流石に疲れが蓄積しているようだ。

 息が荒く、これを毎日続けていたら身体が保たなくなるだろう。


 そこでノルドは一つ俺に提案をして来た。


「カオス、そろそろ交代しないか? 俺はいつまでも魔物倒し続けてるから実質訓練にはなってるけど、休憩もしたい。今のカオスならこの辺りの魔物なら倒せるんじゃないか? 無理ならまだ戦うけど」


 確かにノルドの言う事は理解出来た。ここ一週間で魔力の流れは無しから確実になった。後はどれだけの魔力をこの身体に蓄えられるかだが。

 此処で一つ腕試しもいい所だろう。


「わかった。そうしよう」


 俺はノルドの提案を承諾し、ノルドの休憩の間を守る事を決めた。いや、この態勢こそが神と人間の関係と言うべきか。

 神は人間を見守り、世界の均衡わ保つ。人間は神を崇め、信仰を捧げる。


 ただし、ノルドがどうやら無信仰の為その態勢とはまた少し違うが、人間を守ると言うのなら、この提案は俺の本望とも言える。


 俺はノルドが地面に座り込み休憩し始める事を確認すると、鉄の剣を構え、周辺に意識を集中する。

 その場から軽く探索魔法を発動すれば、俺の魔力の流れを感知した魔物がそこら中から狙っている事が分かった。

 ふうと一つ息を吐く。すると、早速最初に襲われた時と同じ、狼型の魔物が正面から襲って来た。


 俺が今までやり続けた訓練はあくまでも魔力の流れを体内で感じる事であり、筋力とは別だ。

 だから、この魔物に対して筋力で勝負しようともまた同じ結果になる筈だ。

 俺は今まで蓄えた体内魔力を少しだけ鉄の剣に移し、飛びかかって来た狼に向けて、勢いよく剣を振り下ろす。


 すると、狼は一撃で縦真っ二つに切り裂かれ、断面が俺の横を挟む様に通り抜ける。


「驚いた。これ程とは。良し、ノルド。今日は夕方まで俺がお前を守ろう」

「おうよ。頼もしい限りだぜ。じゃ、よろしく〜」


 ノルドはなんの警戒も無しに、俺の前でいびきを立てながら胡座の姿勢で眠り始めた。

 そうして俺は言った通りに夕方まで休憩するノルドを守った。長い時間守り続けたおかげか、襲ってくる魔物達も漸く脅威を理解したらしい。時間になるとピタリと止んだ。


 それから訓練を始めてから二週間、三週間と経ち、遂に一ヶ月が経った。今ではノルドと良く訓練に行く中として、友情まで芽生えていた。そして村の人間からは魔物狩りとして信頼される。

 物は試しと、俺はノル村に創造神カオスの信仰体系を作ろうと決めた。もしこの信仰が俺の力に一切影響を与えないと分かれば、俺は本当に人間の身体としてこの世界に降り立ったと決め付ける事が出来る。


「ノルド、たしかお前は無宗教だったな? 何故なのか答えられるか?」

「あぁ? いやぁ、別に完全否定している訳では無いんだけど、現実味が無いというか、あと信徒って良く道を外した人の事を糾弾するじゃん? ああいう人間にはなりたく無いなー的な」

「あぁ、確かに。そんな信徒もいるにはいるな。なら、カオス信仰はどうだ? というか是非なって欲しい」


 俺はノルドに無宗教の理由を聞いて、ノルドの言う自由人の生き方はカオス信仰にぴったりだとさり気なく勧誘する。が、ノルドは難しい表情になる。


「なに? 宗教勧誘のつもりか? 嫌だね。神の存在は信じるけど、宗教に入るつもりは無い」

「あぁそれで良い。カオス信仰は特に宗教団体と言うものは存在しない所が聞いた事がない無い。

 俺は出会った頃にも言ったが、創造神カオス本人だ。信仰を集まれば力が戻るかもしれないと思ってな。特にカオス信仰は、ただお前の様に、神を確固たる存在だと信じればそれで良い。

 俺はその為にこのノル村にカオス信仰を広めたい。祭壇や生贄も必要ない。ただ存在を認め、理解すればいいんだ」


 ノルドは俺のカオス信仰についての話を聞くと少しだけ表情を和らげ、「まぁ、それくらいなら」と言って承諾してくれた。


 カオス信仰とは、創造神カオスの存在意義である知的生命の『思考』を主体とする信仰の為、他の神の様に祭壇や生贄を捧げる必要は無く、又供え物や団体を作る必要も無く、ただ信じて理解する事が必要な信仰である。

 だから、ノルド言う『存在は信じるけど、信仰する気は無い』は、正にカオス信仰に置いてぴったりだ。


 そうして俺は、ノルドと共に村全体にカオスとはどんな神なのかを伝えた。中には神の存在すら認めない人間もいたが、少しは広まっただろう。村が小さかっただけに今日一日で全体に広まった。


……。


 たったの五十人未満の信仰者。これだけでは力の増幅はされないだろうとは薄々分かってはいたが、それも間違いで、信仰によって俺の力は増幅する所か何も変化が無かった。どうやら本当に俺は人間になってしまったらしい。これからどうやって力を蓄えようか。

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