#LAST 比翼連理の幸せは続く
【星夏視点】
バイトが終わって帰宅したのは、午後九時前だった。
交代で風呂に入った後、アタシはこーたのベッドへうつ伏せに倒れる。
はぁ~この柔らかさが心地良い~……。
一気に強張っていた力が抜けていく~……。
「あ゛ぁ~つかれたぁ~……」
「お疲れさん」
ベッドの脇に腰を降ろしたこーたが、そう言って頭を撫でて労ってくれた。
温かい手の平が気持ちよくて、猫みたいに目を細めてしまう。
アタシがこんなにくたくたなのに、こーたはなんかいつも通りだ。
「ん~……こーたはあんま疲れてない?」
「まぁ星夏が来る前より動き回らなくなったからな。そもそも俺の方が体力あるし」
「もうちょっと運動頑張った方が良いかなぁ? ちょっとお腹もぷにぷにして来た気がする……」
ちょっとだけ。
本当にちょっとだけだから。
いわゆる幸せ太りってヤツだからね?
「俺的には気にならないけどな」
「ありがと。でも女子的にはやっぱ太ってるのは気になる」
「なるほど」
こーたはそうフォローしてくれるけど、女子としてのプライドが引くことを許さない。
それに体力を付けるに越したことは無いよね。
まぁ今日は疲れたし明日からにするけど。
「だったらサボらないか監視も兼ねて俺も一緒に運動するか」
「こーたはそのままで良くない?」
「いや、これでも中学より筋肉落ちてるぞ」
「えぇ~うそぉ? 腹筋とか割れたまんまじゃん。うりうり~」
「うわ、いきなり触んなよ」
ベッドから上体を乗り出して、服の裾から両手を突っ込んでこーたの腹筋を弄る。
唐突に触られたこーたは身を捩って逃れようとするけど、後ろから抱き締める形になってるから全然動けていない。
ちょっとだけぷにっとしてるアタシのお腹と、ゴツゴツして硬いこーたのお腹は全然違った。
違うからこそ、夢中になってぺたぺたと触ってしまう。
変な感じ。
エッチする時にこーたの裸を何度も見て来たのに、触っても触っても全然飽きない。
むしろもっと触っていたくなる。
「お~い。星夏~? いつまで触ってんだよ」
「ん~……眠くなるまで」
「目、ギンギンに冴えてるのに?」
「あはは」
こーたとそんなやり取りをしたのを皮切りに、腹筋から両手を離す。
ただ離れるワケじゃなくて、こーたの後ろから抱き着く体勢に変える。
はぁ~落ち着く。
「文化祭で付き合ってから色んなことあったよねぇ」
「大晦日に爺さん達に会いに行ったら、星夏を見てびっくりしてたよな」
「そりゃそうでしょ。一人暮らしを始めてから定期連絡しか寄越さない孫が、いきなり彼女連れて帰って来たんだから。二人ともすぐに歓迎してくれたから気にしてないけど」
「星夏を凄い気に入ってたからな。絶対に離すな、なんて言われたよ」
「言われなくたって離さないくせに~」
実際、こーたのお爺ちゃんとお婆ちゃんはとってもいい人で、こーたがアタシを大事にしてる姿を見て凄く安心した顔してたっけ。
ここだけの話、こーたが居ないとこで二人からお礼を言われたりもしたんだよね。
今のこーたが笑ってるのは、アタシのおかげだって。
出来たらこのまま、こーたのお嫁さんにもなって欲しいってことも。
アタシの答え?
当然、はい一択に決まってるでしょ。
そんな秘密を脳裏に思い返しながら、話を続ける。
「バレンタインデーもホワイトデーもお互いに贈り物を渡し合って、こーたと付き合ってから本当に毎日が楽しいよ」
「……そっか」
「うん……」
「……」
「……」
「急に黙ってどうした?」
不意に沈黙が訪れたことに、こーたがキョトンとしながら尋ねた。
その声がとても優しくて、心が温かくなりながら口を開く。
「ん……なんかね、幸せすぎて夢を見てるんじゃないかなって思っちゃうんだ」
「……」
なんとなくだけど、不意にそんな気持ちが頭を過った。
こーたから返事はなくて無言のまま。
今に不安や不満があるワケじゃない。
この幸せだってずっと続くように頑張るつもり。
けれども、一度考えちゃうと止まらなくなってモヤモヤしてばっかり。
そんな風に考えていると、こーたが立ち上がってアタシの隣に座って……。
「ほれ」
「んにぃっ!?」
急にお腹を突っついて来た。
不意打ちで齎されたくすぐったさと驚きに、堪らず呻き声を上げてしまう。
それだけに留まらず、こーたは両手でアタシの脇腹をくすぐり始めた。
「ちょ、ま、ぁ、あははははははははっ! ヤダ、も、あははっ、あっはははっはははは!!」
逃げようとしてもベッドに押し倒されて、抵抗も出来ないままやられ放題になってしまう。
くすぐったさから何も考えられない。
笑い過ぎて涙が出たくらいで、ようやくこーたが手を止めた。
「はぁ……はぁ……ぃ、いきなりなにすんの……?」
「アーホ」
「へ?」
息を整えながら意図を尋ねたら、何故かそう言われた。
思わず目を丸くしちゃうけれど、こーたは真剣な表情のまま続ける。
「幸せが続いて何が悪いんだよ。んな陰気くさいこと考えてる暇があるなら、明日の献立でも考える方がずっと良いだろうが」
「あ、明日の献立って……」
「俺が星夏を幸せにして、星夏が俺を幸せにする。それだけ忘れなきゃ問題ねぇんだよ」
「ぁ……」
こーたのその言葉で、アタシは自分勝手に難しく考えていたと痛感させられた。
彼だって将来のことで悩んでるのは、海涼ちゃんとの会話で知っている。
でもそれは不安からじゃなくて、アタシとの幸せを真剣に考えているからこそなんだよね。
今のアタシが考えるのは幸せがなくなった時のことじゃなくて、こーたとどう幸せになるかだ。
改めて先を見据えた瞬間、脇腹に再びくすぐったい感触が走る。
「ふぇっ、や──あはっっははは! きゃははははははははっ! な、なん、でっまた……!?」
「単に俺が星夏の笑ってる顔が見たいだけだ」
「だ、だからって、ふふっはははは! やめ、ってってばぁ!」
言ってくれたことは嬉しいけど、この方法はちょっとだけなくない?
ていうか待って。
流石にこんなに擽られ続けたら、お腹が敏感になってそろそろヤバい。
脳裏に過った警鐘に従って、こーたの手をどけようとするより先にソレが奔る。
「──ぁんあっ!」
ビリッと電気が走ったような快感に堪えきれず、嬌声が漏れ出てしまう。
慌てて口を塞ぐけれど、間近にいたこーたに聞こえないはずがなく、目を丸めて茫然とした表情を浮かべる。
「……今、感じたのか?」
「~~~~っっ!」
分かってるクセに聞き返されて、恥ずかしさから顔が熱を帯びていく。
「ゃ……やめてって、言ったのに……!」
「わ、悪い。調子に乗りすぎた……」
震える声で非難すると、こーたは本気で申し訳なさそうな顔をする。
からかう余裕がない辺り、割と深刻に受け止めてるみたいだけど簡単に許してなんかあげない。
こーたの頬の手を添えて、ジッと目を合わせながらアタシは言う。
「……許して欲しい?」
「そりゃもちろん」
「じゃあ、アタシのお願い聞いてくれる?」
「俺に出来ることなら」
「今からエッチしてくれたら許したげる」
アタシがそう言うと、こーたはビックリしたのか目を丸くする。
そんなことで良いのかって顔してるねぇ。
でもしょーがないでしょ。
さっきのせいでスイッチ入っちゃったんだから。
「それ、罰になってるか?」
「うん。アタシが満足するまでとことん付き合って貰うもん。あ、言っとくけど生エッチだからね?」
「……りょーかい」
後出しの注文に何か言いたげな眼差しを浮かべるけど、仕方ないなって調子で了承してくれた。
久しぶりの生エッチに胸を躍らせながら、スルスルと互いに服を脱いでいく。
生まれたままの姿になったこーたが、アタシに覆い被さると同時にあることを尋ねた。
「そういえばバイトで疲れてたんじゃなかったのか?」
「エッチは別腹なの」
「なんだそれ……」
アタシの言い分に呆れながらため息をつくけど、すぐに優しい顔になって唇を落として来た。
触れるだけのキスは暖かくて、正直に言うとこれだけでも許してしまいそうになる。
「ちゅるっ、ん……あむっ……ちゅっ、んむぅ……」
そのまま舌を絡ませて、わざとらしくピチャピチャとエッチな音を立てる。
脳が甘く蕩けそうな快感に痺れる度に、身体の内から火照っていく。
クリスマスで初めて生エッチをしてからも、色んなエッチを試しては来た。
その中でもやっぱりアタシ達は、こうしてたくさんキスが出来るこの体勢が一番気持ちよくなれる。
やがてこーたが唇を離すと、アタシの唇との間に唾液の糸が掛かる。
程なくしてプツンって切れた。
「はぁ……セフレの頃よりマシになるかと思ったら、全然そんなことないよな」
「むしろ増えてるもんね。でも気持ち良いでしょ?」
「それでも時間さえあれば、すぐにヤりたがるのはどうかと」
「一秒でも繋がってたいんですぅ~。それともこーたはエッチなアタシは嫌い?」
そんな問い掛けをするとこーたは鼻で一笑して、ゆっくりと顔を近付けながら言う。
「アーホ。普段の星夏も今みたいにエロい星夏も好きに決まってる」
「──えへへ。アタシも大好きだよ」
嬉しさから微笑みを浮かべて、こーたへキスをする。
両腕を彼の首に回して、ギュッと抱き着いたまま耳元へ囁く。
「だから…………い~っぱい気持ちよくしてね、こーた♡」
そのお願いを合図に、アタシ達は繋がった。
〈完〉
======
最後まで読んで下さってありがとうございました!
近況ノートに裏話等がありますので、そちらもご覧頂けると幸いです!
また次回作でお会いしましょう。
ではでは~。
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