#146 クリスマスイヴデートの後は……



 ベストカップルコンテスト及び文化祭が終わってから二日後、冬休みに入って早々にクリスマスイヴが訪れていた。

 紆余曲折を経てようやく正真正銘の恋人となった俺と星夏にとって、初めてのクリスマスデートの日でもある。

 尤も、こうして思い返している時点でデートは終わって帰宅してる途中なんだが。


 隣を歩く星夏は腕を伸ばしながら満面の笑みを浮かべていた。


「ん~! 付き合って初めてのデート、めっちゃ楽しかったぁー!」

「ホントか? 星夏的には何点くらいだ?」

「えっと、百点満点中……二百点!」

「過大評価過ぎる」

「だって今までのデートでいっちばん楽しかったもん!」


 そうは言っても遠出じゃないし、特に当てもなく街中を歩いて少し高い外食をしただけだぞ。

 俺としては隣に星夏が居てくれるだけで、何物にも替え難い充実した時間を過ごせた方なんだが……。


 いや、恐らく星夏も同じ気持ちなんだろう。

 ついクセで卑屈になりかけたけど、ちゃんと彼女を楽しませられたのならそれでいいか。

 彼女に恋をした時といい、世の中っていうのは気持ち一つで簡単に受け止め方が変わるもんだ。


「ベストカップルコンテストが終わってから忙しかったから、すごくスッキリしたしねー」

「あ~……」


 晴れ晴れとした星夏の言葉を聴いて、脳裏に優勝した後の出来事が次々と過る。


 壇上での公開告白が多大に評価され、俺と星夏は圧倒的な支持でベストカップルコンテストを優勝した。

 なお審査員からは……。


『あれでまだ付き合っていなかったとは思わなかった』

『まさかここで告白するとは思わなかった』

『どう見てもバカップル一直線です。本当にありがとうございました』


 ……と、色々と言いたい放題言われたが。

 過去に壇上で告白するペアがいない訳じゃなかったが、成功したのは俺達が初めてらしい。

 一連のやり取りはしっかりと録画されており、後日校内新聞にも大々的に掲載されることになっている。


 こうなったら事前の懸念通り、冬休み明けにはバカップル認定を受けていそうだ。

 まぁ何はともあれ、この優勝で以て星夏の悪評はほとんど静まったと言える。


 そしてあの場に居たらしい眞矢宮から、メッセージで祝福の言葉を贈られた。


『おめでとうございます』


 たったそれだけの文章だったが、余計な言葉は敢えて省こうと気遣ってくれたんだろう。

 俺達の事情を知っているからこそ、シンプルな言葉に留めたに違いない。

 思うところがない訳じゃないが、変に気にしては眞矢宮にまた叱られてしまう。

 だから返信もただ『ありがとう』と簡素に送ってある。


 会長と尚也からは口頭でおめでとうと伝えられた。

 特に会長は裏で色々と動いた苦労が報われたからか、それはもう目から滝を流すように号泣していたが。


 本当、会長には借りを作ってばかりだ。

 いつかちゃんと返すようにしないとな。


 ある意味で不安だった智則は、意外な程に冷静に祝福された。

 作戦の過程で俺達の気持ちを察したことから、遅かれ早かれ付き合うだろうと予測していたらしい。

 だがそれはそれとして、俺も彼女持ちになった事実は妬ましいとも言っていたが。


 冬休み前に彼女作ると意気込んだものの、終業式での告白は敢えなく玉砕した。

 そろそろ本格的に誰か紹介した方が良いのかもしれない。


 回想を終えて程なく、俺達は家に着いた。


「たっだいま~!」

「おかえり~……って、俺も一緒だったけどな」

「細かいことは気にしなーい! はい、こーたも」

「はいはい、ただいま」

「ん、おかえり!」


 デートを終えても星夏のテンションは高い。

 ちゃんと付き合うようになってから彼女はいつも笑顔だ。

 一切の憂いを絶ったことで、やっと羽を伸ばせたんだろう。


 もちろん、俺もかなり気が楽になっている。

 何より星夏の恋人を名乗れることが嬉しさを感じつつ、ベッドの脇に腰を降ろす。

 星夏はいつものように俺のベッドに横たわり、後ろから抱き着いて来る。 


「はぁ~……落ち着く」

「だな。外に出るのも良いけど、やっぱこうして二人きりの方がずっと良い」

「あっはは。この体勢も付き合う前からの定位置だもんね」

「人のベッド占領しておいてよく言う」


 俺の家に居る時の星夏は、いつもベッドの上でくつろいでいる。

 合鍵を渡した当初は遠慮しまくって床で寝るだなんて言っていたのが、気付けば我が物顔で占拠されていた。

 ベッドに残った星夏の匂いを意識して寝れなかった苦悩は、今でも鮮明に思い出せる。


 今になって指摘されたことが気に障ったのか、星夏は頬を膨らませて不満を浮かべ出す。


「だって楽だしすぐにエッチ出来るし……」

「セックスの度に洗濯する方の身にもなってくれよ」

「たまにアタシだって洗ってたじゃん」

「そうだけど、多分もう俺らの匂いが染み付いて落ちなくなってるぞ」

「え~。アタシはこーたの匂いしか分からないんだけど」

「俺も星夏の匂いしか分かんねぇよ」


 ……。


 ……。


「っふ、くくくく……」

「あっははははっ!」


 変な感想の言い合いに、堪らず揃って噴き出してしまう。


 こんな様子じゃ、バカップルだなんて言われても仕方ない。

 でもしばらくは自重は出来なさそうだ。

 何せ、恋人と過ごす時間があまりにも楽しすぎる。


 それは星夏も同じ気持ちなのか、抱き締める腕の力が少しだけ強くなった。

 当然、背中に柔らかな感触が伝わって来る。


「ぎゅ~……」


 それだけに留まらず、星夏は俺のうなじ辺りに顔を埋める。

 甘えたがりな彼女らしく、全身を存分に使った甘え方だ。


 んで、この後の流れはというと……。


「ね、こーた」

「ん?」

「今からエッチしない?」


 だと思ったよ。

 やっと恋人になれて、クリスマスイヴデートも終わって、家で二人きりとなれば星夏から誘われる予感はしていた。


「前にしたのは口論する前日だから……一週間以上前だったよな?」

「うん……ダメ?」

「ダメじゃない」


 星夏が不安げな眼差しで問い掛けて来るので、そんなことはないと星夏の頭を撫でる。


 あれから色んな問題が片付いているし、特に疲労している訳でもないから応えるくらい容易だ。 

 それに何より……。


「せっかく彼女から誘ってくれたんだ。応えなきゃ彼氏失格だろ」

「! えへへ……」


 恋人になった星夏としたい気持ちは俺にもあるしな。

 破顔する星夏だったが、ふと妙案が浮かんだような表情をする。


「そだ。せっかくだし、こーたの好きにして良いよ」

「俺の好きに?」

「よっぽどアブノーマルのじゃないなら、こーたのしたいエッチに付き合うってこと。もっと分かりやすく言うなら、アタシの身体を自由に使って良いよって意味」

「なるほど……」


 なんとも魅力的過ぎる提案に、思わず逡巡してしまう。

 今までは星夏のしたいことに付き合うことが多く、俺が希望したのは精々が胸で背中を洗って貰った時くらいなモノだ。


 だからいざ大抵の要望が通るとなると、一つに絞れずに悩んでしまう。


 さて、どうしようか……?


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