#148 病み付きなピロートーク
イヴを越えてクリスマス当日。
精根尽き果てる程にヤりまくった結果、なんと深夜を通り越して朝になっていた。
「……」
「……」
体力と精力が尽きた俺と星夏は全裸のままベッドで隣り合い、ボーッと天井を見つめていた。
シャワーを浴びたり着替えたり、やらないといけないことは頭で浮かんでいるのに全く動く気力が沸かない。
疲労はあるが、それよりも影響が大きいのが……。
「す……………………っっごかった……」
「あぁ……」
呼吸を整えて思考も気持ちも落ち着き、ようやく会話が生まれる。
だがその内容は先のセックスの感想だった。
星夏の要望で初めてゴム無しでのセックスをしたのだ。
そして彼女が言うように、生での行為はあまりにも凄まじかった。
普通の男女より経験を積んでいる俺と星夏でも、あまりの快感に病み付きになって互いを貪り合った程だ。
もう、なんだろうなアレは。
癖になるとかそういう次元じゃない……嵌まる。
底なし沼みたいなドツボに嵌まって抜け出せなくなりそうだ。
なんで妊娠や性病のリスクを負ってでも生でしたがるのか、身を以て筆舌にし難い痛感して止まない。
「やぁっっっっばぁ~~……ゴム無いだけであんなに変わるの……?」
「薄壁一枚程度って舐めてたな……」
毛布で身体を隠している星夏が、未だに衝撃から声を震わせていた。
その気持ちには同意するしかない。
たったの『0.01ミリ』が無いだけで、慣れていたはずのセックスが劇的に変わった。
それに恐らくだが、キチンと恋人になったことも関係しているだろう。
いずれにせよ、間違いなく過去一番の気持ち良さだと言い切れる。
「うわぁ……なんかもう元カレ達のしたエッチが全然思い出せないんだけど」
「そりゃ良かった」
「うん。アタシ、完全にこーたのモノになっちゃった♡」
「……おぅ」
そう笑う星夏の表情はとてつもなく色っぽく、不意打ちで心臓が高鳴ってしまう。
まぁ彼女にとって苦い記憶である元カレ達との情事を忘れられるなら、俺としてもそっちの方がずっと良い。
「ん……」
しかし笑っていたはずの星夏が突如驚いたような顔になる。
「どうした?」
「中に一杯貰ったこーたのが出ちゃっただけ。なんなら見てみる?」
「…………見ねぇよ」
サラッととんでもなくエロいこと言うなよ。
だが一瞬でも見たいと思ってしまった手前、強く断れなかった。
想像しただけなのに背徳感と征服感がハンパないな。
見たら多分、尽きたはずの性欲が復活するかもしれない。
そんな俺の葛藤を星夏が見逃すはずが無く、ニヤリと意地悪な笑みを浮かべ出す。
「ちょっとだけ想像したでしょ? こーたのエッチ」
「っ……そっちこそイク時に足でガッチリ捕まえて離さなかっただろうが」
「その方がくっつけるじゃん。てか待って、ホントにヤバい。今、奥にこーたのがあるってだけで、幸せ過ぎて頭がおかしくなりそう……」
「お前な……」
からかって来たかと思えば、今度はにへらとだらしのない顔になる。
一々反応するのも疲れそうだ。
内心でそんな呆れを懐く俺を余所に、星夏はどこか期待するような眼差しで見つめて来る。
……オイ待てまさか。
「あのさ、一ヶ月に一回で良いから……ゴム無しでしない?」
「すっかりハマってんじゃねぇよ」
「今まで通り生理に気を付けるし、ピルもちゃんと飲むから……ね?」
「ね、じゃねぇっての」
「むぅ~~……」
予想通りというか、一度知った快感をまた味わおうと言い始めた。
対して俺は当然ながら断固拒否するが、願いを聞き入れられなかった星夏は酷く不服そうに頬を膨らませる。
なんかバカになってないか?
俺が手綱を握っておかないと、寝込みを襲われかねない気がする。
「頼むからそのまま寝る前に掻き出すかピルを飲むかしろよ? でないと未来の俺が罪悪感で押し潰される」
「理屈ばっか捏ねて……もう少しこの感覚に浸らせてくれたって良いじゃん」
「俺はもっと星夏と恋人の時間を過ごしたいんだよ」
「ぇ……ぁ、そ、そう、だよね……」
俺の反論に対し、星夏は目を逸らしながら赤くなった顔を毛布で隠す。
確かに歯が浮くようなこと言った自覚はあるが、セックス後のクリアな心境の今ではまるで気にならない。
俺としてはいずれ星夏とそういう関係を築くつもりではいる。
一度手を掴んだ以上、離すつもりなんてもう微塵もない。
そんな気持ちを表すべく、星夏の手をソッと握る。
「焦らなくても俺はちゃんと隣に居る。ゆっくりと俺達のペースでやっていこうぜ」
「……うん!」
「ってなわけで、中のを出すためにシャワー行くぞ」
「むぅ……」
おい、さっき頷いたのに急に渋るな。
いくら危険日じゃなくてピルもあるっていっても、中に残ってたら意味ないんだっつの。
そんな後生大事に留めておく程のもんでも無いだろうに。
呆れを隠せずに息を吐いていると、星夏が毛布から手を離して俺の方へ伸ばす。
そのまま事後とは思えない程のとびっきりの笑顔を浮かべて言う。
「腰に全然力入んないから立てそうにないし、垂れて床に落ちたのを後で掃除するのも手間でしょ? だからこーたが抱っこして」
「それでそのまま一緒に入って手伝えってことか? 流れでラウンドツーが始まりそうな予感しかしないんだが」
「その時はその時ってことで」
「はぁ……いいけど、次は流石にゴム使うからな? じゃないと無限ループになりかねないからっ……と」
なんとも行き当たりばったりな返答に苦言を口にしながら、ベッドから降りて星夏をお姫様抱っこの形で抱え上げた。
互いに全裸のままだから肌の温もりが直に伝わる。
だがこれくらいはもう慣れてるから、今さら照れることは何も無い。
「あっはは。我慢出来ない前提なの? いやぁ~彼氏の性欲が強くて困っちゃうなぁ~」
「俺としては星夏の方が性欲に耐えきれないと思ってるぞ」
「へぇ~? じゃあどっちが我慢出来なくなるか比べてみよーよ。負けた方が勝った方の言うこと聞くってことで」
「上等だ」
そんな軽口の応酬を交わしながら、俺達は浴室へと向かうのだった。
ちなみに我慢比べは俺の圧勝に終わった。
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