最終章 キミとヒヨクレンリの幸せを

#107 雨羽霧慧のレポート④


【霧慧視点】


 はぁい、こちらで会うのはなんだか久しぶりね?

 雨羽霧慧よ。


 夏休みに入った折に向かった二泊三日の海旅行が終わったと思いきや、なんと以前から海涼ちゃんを付け狙っていたストーカーが動き出したの!!


 ……。


 …………。


 ……分かってるわよ、茶番は良いから早くあんな真似をした理由を話せって言いたんでしょう?


 えぇ、簡潔に白状すると海涼ちゃんの家のポストにあの手紙を入れたのは私よ。


 勘違いしないで欲しいのは、彼女を悪戯に傷付けるつもりはなかったこと。

 言うまでもないでしょうけれど、私は海涼ちゃんのストーカーが捕まっていた事実を早い段階で知ったわ。

 具体的な時期としては、彼女の存在をナオ君伝手で知って近辺調査を行った時ね。


 海涼ちゃんが嘘を付いていた理由も容易に察しが付いたから、ひとまず静観を決めていたのだけれど……。


 星夏ちゃんが康太郎君に好意を懐いた以上、あのまま三人で仲良くなんていうのは難しいわ。

 だから状況を動かすために、あの手紙を仕込んでおいたわけ。


 旅行の間は星夏ちゃんの味方をした分、康太郎君がけじめを着けるまでは海涼ちゃんの味方をするようにしていた。

 そのためにストーカーがいるように装って、夏祭りの後に捕まったことにしようと思っていた矢先に、まさか他でもない彼自身に悟られるだなんて思わなかったわ。

 まぁ康太郎君がキチンと向き合ったおかげで、二人は互いの関係にけじめを着けられたものの……。


 後日に康太郎君から電話が来て釈明も虚しく、ナオ君に今回の件をリークされてしまった。

 ナオ君ったら、いくら友達の頼みだからってあんな……!

 ……でももう一回くらいなら──ッハ!?


 ゴホン!

 とにかく、海涼ちゃんの恋路に関しては無事に解決したわけ。


 そして夏休みが終わって二学期が来たら、いよいよ星夏ちゃんの噂を失くしていくための作戦が動き出し始めたわ。


 最初に出した指示はズバリ『二人が浅からぬ関係だと匂わせる』ことよ!


 噂自体、元を辿れば星夏ちゃんが浮気を迫ったという悪評が広まったことが原因だった。

 それを否定するには時間が経っているし、何より彼女自身の行動によって実態を伴ってしまっている。

 流石にそこまでとなると、もうゼロにするのは不可能と言って良いわ。


 え?

 それじゃ意味が無いだろって?

 あら、早合点は良くないわね。


 ゼロには出来ないけれど、ゼロにことは出来ないとは言ってないわよ。


 そのために一番重要なのが、噂とは異なる言動をすること。

 空想を否定する最も大きな要因が紛れもない事実だからこそ、かつての振る舞いをしない点が何よりの証拠となる。


 今の星夏ちゃんなら康太郎君以外の男子に靡くことは無いから、告白されても付き合うことは絶対にしない。

 これだけなら、夏休み前にも行っていたけれどね。


 懸念を挙げるとすれば学校では表立って関わりが無かった康太郎君に、星夏ちゃんの身体目当てだなんて印象がついてしまうこと。

 物事の受け取り方は人それぞれ……穿った見方をする人が出て来るのは避けられない。

 今まで接点が無かった分、突拍子な繋がりを見て疑いの目を向けられるでしょうね。


 特に康太郎君の性格上、星夏ちゃんに構いまくるでしょうから尚更だわ。


 でも安心して頂戴、私の考えた計画ならそうならない。


 まず、動くのは康太郎君じゃなくて噂の張本人である星夏ちゃんよ。

 これまで付き合っていた男子達にも受け身だった彼女が、自分から康太郎君と関わって行くことで、彼に向けられる疑念は大幅に減るわ。

 さらに星夏ちゃんが動く意味は他にもある。 


 それは彼女が康太郎君に好意を懐いてから、気になる人がいると言って告白を断っていたことが周知されている点よ。

 その正体が不明なまま、夏休みに入ったのはとても幸先が良かった。


 夏休み明けの教室で星夏ちゃんが康太郎君に話掛けた瞬間、クラスメイト達はどう考えるかしら?


 人は良くも悪くも、自分の色眼鏡を通して物事を見つめるわ。

 十中八九……星夏ちゃんの気になる人は、康太郎君のことだと勘繰ってくれるでしょうね。

 そこに実は二人が小学校からの腐れ縁という情報が齎されると……。


 ──街で咲里之が男とトラブルになっていた時に荷科に助けられた。

 ──それが切っ掛けで二人は昔のように話始めた。

 ──咲里之が荷科を好きになって、告白を断るようになった。

 ──夏休みの間にもちょくちょく会って、進展していっている最中だった。


 こんなシナリオが共有されるはずよ。


 その瞬間に星夏ちゃんの印象は、男遊びの激しい不良から、恋する女の子へと変わっていくことになるわ。

 だって康太郎君と話している時の星夏ちゃんはとっても可愛らしいもの。

 あの姿を見れば、身体目当てなんて邪推がただの無粋に成り下がるだけよ。


 そうなった時には、星夏ちゃんに対する女子の反応は劇的に軽くなるはず。

 敵対すると恐ろしいけれど、支持を得られると頼もしいことこの上無いわ。


 それでも実際に星夏ちゃんと付き合っていた男子の記憶は変えられないけれど、もしその過去を明かせば……女子からは未練タラタラな女々しい人と思われるでしょうね。

 だから元カレ達も大人しくする人が増えると思うわ。


 まぁこれでも星夏ちゃんを貶したり、復縁を迫ったりする男子が出てきたりするでしょうから、そこは康太郎君が守ることになるわね。


 長くなってしまったけれど、そろそろ次の段階へと進めて行きましょうか。

 康太郎君と星夏ちゃんの恋路も、遂に大詰めね!


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 セフ甘最終章スタートです!

 次回はなるべく早く公開出来るように頑張ります(;`∀´)

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