#97 霧慧への報告

遅れてすみません( ;´・ω・`)


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『──そう。ストーカーには逃げられたのね』


 風呂から出た眞矢宮が髪を乾かしている間、俺は脱衣所前の廊下で雨羽会長にストーカーが尾けて来たことを報告していた。

 眞矢宮の安全を優先して迎撃しなかったこと、通報を感付かれて逃げられたことの一通りだ。


 大木に絡まれたことは敢えて伝えなかった。

 どう考えてもストーカーとは無関係だし、仮にそうだったとしてもあんな堂々とナンパしている様子から今まで慎重振りと結び付かない。

 

 まぁアイツのことはどうだっていいんだ。

 

「俺、やっぱ動いた方が良かったですかね?」


 口にしたのは胸につっかえていた後悔の念。


 一刻も早く捕まえるのなら、背後にいると分かった時点で角で曲がって待ち伏せたりするべきだった。

 それをしなかったのは狙われている眞矢宮を守るためだ。

 あの時はそうするにが最善だと確信していたし、彼女の身に危険が及ばなかったから間違いでも無かった。


『康太郎君が無理をして怪我をするよりマシでしょう?』

「それは……そうですけど……」


 それでも俺がその気になれば、ストーカーを撃退することも出来たはずだと思わずにいられない。

 会長の言う通りストーカーを相手にして怪我を負ってしまえば、眞矢宮だけでなく独りで待っている星夏にも要らない心配を掛けてしまう。

 だが俺の前で無理に笑みを浮かべる眞矢宮を思い出すと、あの時に解決出来たんじゃないかと後悔が尽きないでいた。


 過ぎたことを悶々と考えてもキリが無いのは分かっている。

 けれども考えてしまうのは、もはや性分と言う他にない。


『とにかく! ストーカーが尾けて来たのなら事件性アリとして、警察による監視の目も付けられるはずよ』

「でもそうなったら警戒してますます捕まえられなくなるんじゃ……」

『あからさまな見張りがいたらそうでしょうね。けれど私服警官がそうだとバレることもないわよ』

「だと良いんですけどね……」


 通報しても間に合わなかったことを鑑みて、いよいよ警備が付くようだ。

 これで眞矢宮が危険に遭う可能性が低くなるはずだろう。


「──でも、配備はもう少しだけ待って貰えませんか?」

『え?』


 しかし、俺はそれに待ったの声を掛けた。

 予想していなかった返事だったからか、雨羽会長が電話越しでも聞こえる程の呆けた声を漏らす。


『……どうしてかしら?』


 少し間を開けてから、やや鋭い声音で理由を問われた。

 すぐに配備した方が良いのに待って欲しいだなんて、自分でも非常識だと分かっている。

 だが……。


「危険を失くすためだっていうのは理解しています。けど、眞矢宮と週末の夏祭りで打ち上がる花火を見ようって約束したんです」

『ちょっと待ちなさい。今は──』

「会場には行きません。花火が見える近くの公園までですから……」

『なるほど……彼女を気負わせず花火を楽しませたいからってことね?』

「はい」


 理解の早さにありがたかったが、会長の声音には幾分かの憤りが含まれている様に聞こえた。

 その怒りは状況を察しておきながら、呑気に花火を見たいと言ったことに対してじゃない。

 早くストーカーを捕まえて星夏と祭りに行く選択を捨てたことに対してだろう。


 俺と星夏が一日でも早く恋人になる様に気に掛けていたからこそ、彼女を選んだにも関わらず眞矢宮の気持ちを優先した不義理に怒っているのだ。

 ましてやストーカーが本格的に動き出している中で外に出るなんて、自分から火中の栗を拾いに行くようなものでしかない。

 

 だが、そんなことは眞矢宮と約束した時点で百も承知だ。 


『はぁ~……まぁ良いわ。警備の件に関してはナシには出来ないわよ。こっちからお願いしたことなんだから、康太郎君自身の安全も守ることが星夏ちゃんとの約束だもの』


 思うところがあるようなため息を吐いた後に、会長から警備を後回しに出来ないと告げられる。

 危険性がある以上、悠長に花火を見ている訳にはいかない。

 それは誰でもすぐに予想出来ることだ。


「もちろん俺もそんな甘い考えはしてません。だから眞矢宮には秘密で公園の周りに警備を付けるのが良いと思うんですけど……どうですか?」

『ふ~ん……そこはキチンと考えていたのね』


 故に折衷案を会長に伝えると、少し感心したような声音で返された。

 これなら会長の希望通り警備が付けられるし、俺達も遠くから花火を見ることが出来る。

 

「仮にストーカーが俺達を狙って来ても、警察が警戒してくれるわけですから」

『むしろ来たなら飛んで火に入る夏の虫……捕まえられるチャンスってワケね』

「事前に警備に引っ掛かれば良いんですがね」


 結局のところ俺と眞矢宮が囮になってしまうのだが、それでも警察の警備があるのと無いのとでは全く違う。

 まだ危険はあるものの、逆に刃物などの凶器を持っていけば必然的に挙動の怪しさが増す。

 そうなれば警察の目を掻い潜るのは困難だろう。

 完全に安全とは言えないが、俺が無理にストーカーに挑んだり眞矢宮が襲われる可能性も低くなるのでマシな方だ。


 そのまま会長と打ち合わせをしていった末に、私服警官による警備は明日から始まることになった。

 夏祭り当日は俺と眞矢宮が行く予定の公園周囲で、予め見張りを立てて厳戒態勢に当たるらしい。

  

 一通り決まったところで通話を切った。


 しかし、週末まで経ってもストーカーは一向に捕まらないまま、夏祭りの日がやって来るのだった……。


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 実はリアルの方で執筆の時間が取れなくなります。

 元々モチベが落ちてたのもあって、短時間では書ける気がしないですし、多忙なのも手伝ってしばらく更新は不定期になってしまいます( ;∀;)


 本当に申し訳ありません。


 安定した更新が出来るのがいつになるのか未定ですが、完結まで書き切る気持ちに変わりはありません。

 出来れば作品フォローはそのままお待ち頂けると幸いです。


 

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