#91 ココロニアイタアナ


 遅くなってすみませぇぇぇぇん(´;ω;`)


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【星夏視点】


 ふと眠りから覚めて時計に目を向ければ、時刻は深夜だった。

 そのまま眠る気にもなれず、両腕を上に伸ばして身体を伸ばす。


「はぁ……」


 大きく息を吐いて、目を覆うように右腕を乗せる。

 風邪を引いた時みたいに悪夢を見たワケじゃないけど、どうにも眠りが浅い様な気がした。

 風邪は引いてないけど身体が怠いし、家事をしても課題をしてもボーッとして集中できない。 

 過ごし慣れた部屋が無意味に広く感じるのも相まって、アタシの心はただひたすら寂しさで塗りたくられている。


 理由は至極単純……こーたがアタシの傍に居ないからだ。

 海涼ちゃんをストーカーから守るために向こうの家に泊まりに行って、もう四日が経過しようとしている。

 メッセージで連絡は取っているけれども、未だに手紙が送られてくるだけでそれ以上の動きはないみたい。


 明日──もう日付が変わってるから今日か──の買い物で外に出た時に、何かしら進展があると良いなぁ……。

 もっと言えば警察が早く捕まえてくれたら、こーたも帰って来てくれるのに……。

 

 メッセージ上ではこーたに心配を掛けたくなくて強がってるけど、本当は今すぐにでも電話をしてこーたの声が聴きたい。

 だけどもし盗聴されて会話を聴かれたら、恋人のフリがバレるリスクがあるって会長から釘を刺されている。

 こーたに会えない代わりに色々と付き合ってくれるとは言ってくれたけど、一秒でもストーカー逮捕に尽力して欲しいと断っておいた。


「こーたが居ないとダメダメだなぁ、アタシ……」 


 自分以外の誰も居ない部屋でそう愚痴った。

 こーたを好きになる前より、感じる寂しさが強くなっている様な気がする。

  

 共依存だって良いじゃんみたいな話をしたけれど、この有様ではアタシの方がこーたに依存しているんじゃないかな?

 だって今まで付き合ってた元カレ達と別れたら、こーたの家に行ってエッチしては愚痴ってなんてことをしてたし……。


 今にして思えば相当えげつない真似してるなぁ。

 あんまり考え込むと罪悪感で押し潰されちゃいそう。

 

「……シャワー浴びよ」


 このまま眠れそうな気がしなくて、鬱屈した気持ちを紛らわそうとベッドから身体を起こした。

 

 自分の家より使い慣れた浴室のシャワーから出るお湯を頭から浴びる。

 そこから髪を洗って身体も洗うけど、どうにも気分は晴れないままだ。

 

 何をしても頭の中はこーたが居ない寂しさがこびり付いて離れなくて、シャワーを浴びる前より心に寂しさが広がっていく。

 そのせいか、身体は温まっているはずなのに内側が酷く冷たい感じがする。

 浴室の湿気った空気を吸っても、異様に喉が渇いて落ち着かない。


 このままシャワーを浴び続けても水道代やら光熱費を無駄に増やすだけだと、変に冷静な思考が浮かんだので浴室を出ることにした。

 脱衣所でバスタオルを身体に巻いてから髪をサッと乾かす。

 だけどパンツは穿かないまま、そうするのが当たり前みたいに自然な歩みでこーたのベッドに背中から倒れ込む。


 ボフンって柔らかさが背中に伝わって間もなく、ベッドからこーたの匂いが広がった。

 それを嗅ぐとこーたが近くにいるみたいに感じて、内側で疼く寂しさが少しだけ和らいだ様な気がする。


 ……。

 

 …………。


 ……こーたに会いたい。こーたの声が聴きたい。こーたの身体に触れたい。こーたにギュッてハグして欲しい。こーたとキスがしたい。


「こーた……こーたぁ……」


 匂いを嗅いだことでスイッチが入ったのか、気付けばアタシの右手はお腹の下へ、左手は胸の方へと伸ばされていた。


 いくら寂しいからってこんな慰め方はダメだって理解しているのに、渇いた喉を水で潤そうとする様な衝動が止まらない。

 弄る度に奔る快楽で身体は完全に火照っている。

 

 静寂に包まれた深夜の部屋にエッチな水音と、悦に浸る淫靡な吐息が小さく響いていく。

 ベッドにある匂いだけじゃ満足出来なくて、枕を寄せて酸素代わりに吸って肺へ送る。


 汗っぽくて、でもクセになる好きで好きで堪らない人の匂い……。

  

「ん……はぁ、こー、たぁ……っは、~~~~っっ!!」


 まるで麻薬みたいに夢中になっている内に、アタシは簡単にイッてしまった。


 目の前が真っ白になって、全身を溶かしてしまいそうな程の強烈な快感が奔る。

 この瞬間だけは何も考えなくて良いから気が楽だ。


 でも三分もすればまた寂しさがぶり返して、満たされたはずの心にまた空白が生まれる。


「あっ、んん……はぁっ、ふっ……」


 その虚しさを埋めようと、達したばかりの身体に刺激を与えていく。

 確かに気持ちいいはずなのに、身体がもっともっとって快楽を求めてくる。

 今までこーたとしてきたエッチと比べると全く物足りないからだ。

 

 奥まで指が届かないもどかしさに苛立ちが募る。

 どんなに激しくしても、アタシの指じゃ一番触れたいところまで届かない。

 言わば痒いところに手が届かないのを掻いて貰える感覚と同じだ。


 自分で触れるより誰かに……こーたに触れられる方がずっと気持ちが良い上に、そもそもアタシは一人でするのに慣れていないというのもある。

 何かしらの道具を使えば良いんだろうけど、生憎とアタシはそういったモノに興味がない。

 憧れがあるらしい元カレ達からやたらと使いたいと要求された事があったものの、年齢と金銭を理由になぁなぁで断って来た。

 だからアタシは自分の手で触れることしか出来ない。


「はぁっはぁっ……こーた……グスッ、こーたぁ……」


 いつの間にか流れていた涙を拭いもせず涙声でこーたを呼ぶ。

 寂しさを紛らわすために始めたオナニーは、アタシの孤独をさらに増長させるだけになっていた。

 けれども両手の動きは微塵も鈍らなくて、止めようにも止められなくなっていく。

 

 最早、海水を飲んで喉を潤そうとする様な悪循環だ。


 脳裏にこーたとして来たエッチを浮かべる程に、心に空けられた穴から虚無感が溢れてやまない。

 

 ──寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい……。


「あっ、またイッ……~~~~~~~~っっ!!」


 ただひたすらに慰め続けている内に二度目の絶頂も迎えた。

 快楽で一瞬だけ思考が塗り潰されるけど、また孤独を感じるのが怖くて現実から目を背ける様に三度目のオナニーを始める。 


「はっ……はっ、ああっ、んっ……こーたぁっ、こーたぁ……!」


 シャワーを浴びて流したはずの汗を拭う気にもなれず、寝落ちするまでアタシは無我夢中に自分を宥めるのだった……。


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 次回の更新は8月26日です。

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