#88 看板娘のスキャンダル?

更新遅れてすみません。

まだ体調は良くなってませんので、ゆっくり休みます( ´-ω-)


=====


「ほい。三番テーブルオーダーのエスプレッソとロールケーキだ」

「了解です。これ二番テーブルのオーダーです」

「キリマンジャロとパフェな。六番のが先に仕上がるからそっちが終わってからになる」

「分かりました」


 午前十一時……昼前とあって店内には客足が集まっていた。

 喫茶『ハーフムーン』は真犂さんの作るコーヒーの旨さが常連からの口コミで評判が広まり、幅広い世代の人達が訪れて来ている。


 最近……というか眞矢宮がバイトに来てからは、彼女目当ての男性客も増えて来ているが。

 ストーカーの事件が起きてからは常に同じシフトになったんだが、その前の頃に眞矢宮が休みの日は露骨に肩を落とす男性客がよく居たモノだ。

  

 閑話休題。

 

 そうしてオーダーされる飲食物の調理は全て真犂さんが担っており、俺達バイトは専ら注文を聴いて届けることがほとんどだ。

 一番忙しい時間帯でも調理の速度が落ちないので、いつ見ても凄まじい技量だと感服する他ない。


「眞矢宮ちゃ~ん。コーヒーのおかわり頼めるかい?」

「分かりました」


 俺が三番テーブルに注文の品を持って行ってからカウンターに向かう途中、眞矢宮が常連の男性に呼び掛けられていた。

 その後ろを通った際……。


「あ、康太郎くん。一番テーブルのコーヒーおかわりを伝えて貰っていいですか?」

「了解。なら海涼は五番テーブルの片付けを頼んで良いか?」

「はい、任せて下さい!」

「……ん?」


 眞矢宮からオーダーを引き継いで、手が空く彼女には清掃を依頼した。

 笑みを浮かべて快諾してくれた彼女は、飲み干されたコップが残っているテーブルへ向かっていく。

 

 そんな俺達の様子を常連さんが何か訝しげな面持ちで首を傾げる。

 敢えて気付いていないフリをしつつ、カウンターにいる真犂さんの元へ向かう。


「真犂さん。五番テーブルからコーヒーの追加です」

「りょー」


 オーダーを聴いた真犂さんの返事こそ軽いが、実に鮮やかな手際でカップにコーヒーを注いでいく。

 芳醇な豆の香りが何ともそそるが、今は勤務中と自嘲しながら手渡されたコーヒーを先の常連客の元へ運ぶ。

 

「お待たせしました。おかわりのコーヒーです」

「お、おぉ……」


 注文通りの品のはずだが常連の男性はどこか浮かない表情だ。

 季節的にアイスコーヒーの方が良かったのだろうかと思ったが、コーヒーにミルクを混ぜ始めたので違うらしい。


 腑に落ちないものの店員が客の心情に首を突っ込むのは野暮だと割り切って、業務に戻ることにした。

 ちなみにこういった不可解な客の様子は、午前中だけで既に十人以上を超えている。

 そのいずれもが常連客──特に眞矢宮目当ての男性客──である点から察する通り、勤務中の俺と眞矢宮の会話に聞き耳を立てているようだ。


 中には来店して二時間以上の人もいるのに、一向に帰ろうとしないのはよほど気になっているのかもしれない。

 物見遊山にしても、あんまり居座られると他のお客さんの邪魔になるんだが。

 コーヒーをどんだけおかわりするんだよ。

 血圧とかカフェイン中毒とか色々心配になって来る。


 内心で呆れを覚えずにいられないまま、数えるのも億劫になってきたコーヒーのおかわりのためにカウンターへ向かった。

 そんな時だ。


「……なぁ康太郎。勤務中に悪いんだが一個だけ聴いて良いか?」

「? まぁ良いですけど」

「「「!?」」」


 突如質問を投げ掛けて来た真犂さんは、ニヤニヤと何やら邪推するような表情を浮かべる。

 対して俺は何の気なしに先を促すと、店内がにわかにざわついた。


 反応を示したのはいつまで経っても帰らない男性客達。

 なんというか『やっと訊いてくれた』って感じの期待が透けて見える。


 そんな客達の心情を知ってか知らずか、許可が下りたことに真犂さんはさらにニヤつきを増した笑みのまま……。


「お前と海涼って付き合い始めたんだろ?」

「え?」


 半ば確信めいた言い回しで俺と眞矢宮が交際関係に至ったと尋ねて来た。

 その問いに思わずといった風に目を丸くしてしまう。


「……なんの根拠があってそんなことを訊くんですか?」

「お~しらを切るつもりか。けど残念。二人とも前まで苗字呼びだったのが名前呼びになっただろ? これで何も無いわけがないよなぁ?」

「別に仲良くなれば名前で呼び合うくらいよくあるじゃないですか」

「なら訊く相手を替えるまでだ。海涼、実際のところはどうなんだ?」

「えっ!?」


 追及を躱し続けられることに煮えを切らしたのか、真犂さんは矛先を眞矢宮へと切り替えた。

 唐突な標的の変更に眞矢宮は、手に持っていた配膳用のお盆を反射的に抱き締める。


 何せ、真犂さんの声に釣られる様に店内の客の全員が彼女の方へ視線を向けたからだ。

 授業中に名指しされてクラスメイトの注目を一身に浴びる様な感じ……とでも言えば想像し易いだろうか。

 眞矢宮が置かれた状況はまさにそれと言って良いモノだ。


「ウチの女子店員で一番人気の海涼ちゃんが康太郎にの字なのは周知の事実なんだ。さっさと言った方が楽だぞ~?」

「ええっ!?」

「鬼かアンタは」


 そんな必要以上に煽らんでも良いだろ。

 真犂さんの言葉に本心から呆れてしまう。

 自身の気持ちをさり気なく明かされた眞矢宮の顔は、それはもうリンゴも負けそうなくらいに真っ赤だ。

 

 動揺のあまり右往左往している桃色の瞳に見つめられるが俺からは何も言えない以上、是か否かでも彼女にどうにか答えて貰うしかない。

 責任を被せた様な罪悪感を胸に抱えながら、客達と一緒になって眞矢宮の返答に耳をから向ける。


 そうして彼女はお盆で口元を隠しながら……。


「──その……察して頂けるとありがたいです……」


 イエスともノーとも取れる、曖昧ながらもイエス寄りな返答を口にした。

  

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!?」」」


 そしてその言葉に男性客達は一斉に悲鳴を上げた。

 信じたくない気持ちが妙に伝わって来る嘆き振りに、当事者の俺は何とも言えない複雑な心境を懐いてしまう。


「ウソダドンドコドーン!」「眞矢宮ちゃんは俺らのアイドルだったのにー!!」「明日から何を生き甲斐にすればいいんだ!?」「海涼たん、お幸せにー!」「ちくしょう、やけ酒ならぬやけコーヒー確定じゃい!」「海涼ちゃんを泣かせたら許さないからなぁー!」


 祝福より悲嘆の声が勝っているのは、きっとそれだけ眞矢宮が人気だったという証拠だろう。

 

 反面、俺への風当たりはだいぶ悪くなりそうだ。

 逆恨みで襲い掛かってこられても返り討ちに出来る自信があるが、今はバイト中なのでどうにか見逃して貰いたい。

  

 まぁでも……。


「うっっせぇ! それ以上騒ぐなら店から叩き出すぞ!」

「「「はい、すみませんでした」」」


 和やかな雰囲気が売りの喫茶店で騒げば、店長の真犂さんが黙っているはずもない。

 現に喧噪に憤慨した彼女に男性客達は瞬く間に黙らされた。


 そもそも真犂さんが俺と眞矢宮の関係を問い質したのが発端なのだが、言っても無駄だと思うので敢えて指摘しないでおこう。

 何はともあれ店長の叱責を切っ掛けに、俺達は通常業務へと戻るのだった……。

 

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大変申し訳無いのですが、ストックがもう心許ない状態です。

よって更新頻度が週一話に下がります。


遅筆ですみません。


次回は8月5日に更新します。

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