#番外編 キスの日SS


キスの日にTwitterで投稿した、キスの日SSです。

康太郎と星夏がキスをするだけ。本編の時間軸だと第一章のテスト直後になるので、星夏に彼氏がいる時なんですが、矛盾するのでパラレルってことで。星夏の好感度は三章の状態でお送りします。


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 それは日曜日の昼前のことだった。


「こーた。今日がなんの日か知ってる?」

「今日?」


 相も変わらず俺の家で休日を過ごす星夏が、占領しているベッドから身を乗り出していきなりそんな質問を投げ掛けて来たのだ。

 その表情はどこか浮わついたモノで、今日という日が彼女に取って何かしら意義のある日なのだと察せられる。


 だが、俺には五月二十三日という日の何が特別なのか解らなかった。

 カレンダーを見ても日曜日を示す赤字があるだけで、何らかの定義付けがされている様には思えない。

 

「全然分からん」

「そう言うと思った。こーたらしいけどね」

「へいへい、無知で悪かったな。で、結局何の日なんだ?」


 素直にギブアップを宣言する俺に、星夏は苦笑を浮かべながら、ある程度答えを予測していたと明かした。

 わざとらしく開き直りつつ、質問の答えを促す。


 すると、星夏は右手の人差し指を唇に当てるポーズを取り出し……。


「今日は……キスの日でしたー!」

「キスの日……?」


 朗らかに正解を口にする。

 勿体振った割りには、なんだか若干拍子抜けする内容で呆れてしまいそうだ。

 でも女子は好きそうだよなぁ。


 特にキスが好きな星夏は無視出来ないだろう。


「なんで今日なんだ?」

「確か……日本で初めてキスシーンのある映画が公開された日と同じだからなんだって」

「ほぉ~ん」


 今の映画ではキスシーンなんて然程珍しくもないから、わざわざ記念日にする程とは思えない。

 だが、当時の人達にとっては衝撃的なことだったんだろう。

 二十年前の人にスマホを見せた様な感じに近いかもしれない。


 とりあえず、今日がキスの日というのは理解したのだが……。


「で? それがどうしたんだ?」


 いくらキスが好きとはいえ、星夏が俺にその話題を振った理由が分からない。

 そんな疑問を口にすると星夏は……。


「えと、だから……さ、察してよ……」

「……」


 頬を赤らめながら目を逸らしつつそう返した。

 そのいじらしい様子に、胸の高鳴りを覚えつつどうしたモノかと逡巡する。


 ホント、告白を断る時の気になる人はどこに行ったんだよ。

 何とも疑念が尽きないが、それはそれで腑に落ちない点はある訳で……。


「キスがしたいならいつもみたいに言えば良いだろ? 今さら何を恥ずかしがって──」

「ちょっと、口に出して言わないでよ!? こーたは乙女心検定失格! 世の中にはこういう日でこじつけでもしないと、キスをしたくても恥ずかしくて出来ない女の子がいるんだよ!」


 どうやら乙女心の地雷を踏み抜いてしまったらしい。

 難しいな乙女心……。

 もう少し言葉選びに気を付けてないといけない様だ。


「わ、解ったよ俺が悪かったよ」

「ダメ! 女の子に恥を掻かせておいてそんな簡単に許せないからね!」

「えぇ……」


 反省したと解る様に両手を上げて降参のポーズを取る。

 だが星夏は矛を収める様子は無い。

 どうしたら許して貰えるのかと頭を悩ませる中、彼女はベッドから降りて俺の隣に腰を掛けた。

 そしてそのまま無言で目を閉じて、ほんの少しだけ顔をつき出す。

 

 それは誰がどう見てもキス待ちの顔だった。


 どうやら黙ってキスしたら許してくれるらしい。

 安いのか高いのか分からないがここで余計なことを言ったら、もっと怒られるのは日の目を見るより明らかだ。

 

 まぁキスの日って言われているんだし、あれこれ細かいことを言う俺が悪いのだろう。

 こんな流れで良いのかと疑問に思いつつ、キスをするために星夏の肩に手を乗せる。


「っ」


 瞬間、彼女の細い身体が小さく身じろいだ。

 目を閉じているから視角以外の情報に頼らざるを得ない分、他の感覚が鋭敏なんだろう。

 だから肩に触れただけでこんなに緊張しているのかもしれない。


 その反応がいじらしくて可愛いなんて思いながら、その桃色の唇に自分の唇を重ねた。


「んっ……」


 舌を入れた訳でもないのに、星夏が僅かに声を漏らす。

 けれども俺を突き飛ばすことはせず、むしろ腰に腕を回して来た。

 まるで離れたくないという意思がある様で、心の底から愛おしさが込み上げてくる。

 堪らず肩を抱き寄せたことで、星夏と密着する形になった。


 きっと何も知らない人から見れば、俺と彼女は恋人同士に見えるかもしれない。

 それを正しいとも間違っているとも指摘する人がいないのをいいことに、一旦は唇を離してからどちらからともなく再び重ねる。


 長く触れ合わせたり、刹那の間隔で触れては離したりを繰り返し、時にはわざと音を立てたりして何度も口付けを交わす。


「ん、む……ちゅる、はむ……」


 終いには互いの舌を絡ませて、淫靡な雰囲気を作り出していた。


 する前はなんだかんだ言っていたが、いざ始めるとこんなにも熱中してしまうのか。

 理性ではバカみたいだと貶すが、星夏とキスをする度に幸せと愛情が沸き上がっていくばかりで歯止めが利きそうにない。


 これは、まるで麻薬だ。

 滾り上がった高揚感が脳髄を甘く溶かして、身体と心が潤う端から渇いて仕方がない。

 もっと星夏とキスをしたい、もっと星夏に触れていたい、もっと星夏を感じていたい……キスをしても飽きるどころかそんな欲求が溢れ続ける。


「はぁ……こーたぁ、ん、もっとぉ……」

「ふぅ、せな……」

 

 いつの間にか星夏の目は開かれていて、濡れた空色の瞳にはキス以上の欲求が宿っていた。

 舌も入れていたし、彼女の中のスイッチが入ってしまったのは明らかだ。

 だけどそれを拒否するつもりはない。

 したくないのもあるが、何より好きな子が俺を求めてくれている事実が嬉しかった。


 こういう日も悪くない。

 最後に残った理性で、そんな感想を浮かべるのだった……。


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この二人がキスだけで終わるはずがなかった( ;´・ω・`)

本編の更新は変わらず、本日の夜8時です。

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