#70 温泉で✕✕


【星夏視点】


 海水浴を終えてホテルに戻ったアタシ達は、夕食の前に汗を流そうということで温泉に入ることにした。

 色んな効能の温泉に加えて露天風呂もあって、明日も入る時の楽しみが出来て心が浮き立っちゃいそうだ。  


「はぁ~気持ちいい~……ん~~!」

 

 身体の奥底にまで染み渡る暖かな安らぎに、堪らず気の抜けた声を漏らしてしまう。

 少しでも凝りを解そうと両腕を上に伸ばす。


 すると隣から何か穏やかじゃない視線を感じて、なんだろうと思って顔を向けてみると……。

 

「……ホントに巨乳は水に浮かぶんですね」


 隣で湯に浸かっている海涼ちゃんの生気の無い眼差しが、アタシのおっぱいに向けられていた。

 その理由はきっと、海上アスレチックでこーたを取り合った時と同じかもしれない。 

 アタシとしてはスレンダーなのも彼女の魅力の一つだと思うんだけど、これが隣の芝生は青く見えるってことかなぁ。


「あら。眞矢宮さんは咲里之さんの胸が羨ましいのかしら?」

「雨羽さんのもですけどね。……もう少しあれば、荷科君に振り向いて貰えるかもしれませんし、使でしょうから欲しくて当然かと」

「色々……」


 なんだろう……海涼ちゃんの言い方にまた引っ掛かりを感じる。

 清楚で礼儀正しいはずなのに、こーたがテクいことに食い付いたりして変なとこがあるよんだよねぇ。

 あ、もしかして……。


「海涼ちゃん」

「はい?」

「海涼ちゃんって、まさかムッツリだったりする?」

「はぁ? 違いますよ何を言ってるんですか私は健全な女子高生ですからそんな謂われの無いレッテルを貼らないで下さいよ確かに男性経験はありませんがそれは自分を安売りせずに添い遂げたい人に捧げるためなんですからね」


 友達になってから募り続けていた疑問を尋ねた途端、海涼ちゃんは真顔のまま早口で捲し立ててきた。

 当たってるのが実に分かりやすい反応だ。


 自分で墓穴を掘る辺りがもう図星ですって白状しちゃってるし。

 あからさま過ぎて逆に当てた事が申し訳なく思えて来ちゃった。


「……」

「だから、その……えぇえぇそうですよ! 中学で性教育を受けてからエッチな事に興味津々ですし、毎夜に好きな人との情事を妄想する痛々しい処女ですよ! それが何か悪いことなんですか?!」


 アタシと会長の目を見て言い逃れが出来なかったと悟ったのか、海涼ちゃんは脆くなっていた清楚の仮面を脱ぎ捨てて、逆ギレ気味に自らの性事情を暴露した。

 

 対してアタシ達はどう返せば良いのか解らず、ただ困惑するばかりだ。

 好きな人との情事って、こーたとのエッチを妄想してるって事だよねぇ……。


 よくアタシがこーたとセフレだと知って怒らなかったなぁと、ズレた感想が浮かんでしまう。


「もののついでですから正直に言いますけど、星夏さんと荷科君がセックスフレンドだと知った時、お二人が肉体関係を持っていることよりも彼の童貞が貰えない方がショックでしたよ! どんなに想って妄想しても処女の私では漫画でしか知り得ない事柄を、恋人ではない星夏さんが致してるのを羨ましく思うに決まってるじゃないですか!!」

「ちょ、ストップストップ! そのまま行ったらなんか引き返せなくなっちゃう気がするから一旦止めよう!?」

「むがごぐ……!」


 隕石みたいな速度で清楚の格を落としていく海涼ちゃんの口を、慌てて両手で塞いだ。

 アタシとこーたのセフレ関係を知った時、そんな事を思ってたのとか色々と突っ込みたい事が多過ぎる。

 意外というか……こーたの家にあったラブコメ漫画で似た様なキャラが居た気がするけど、まさか目の前に実在するとは思わなかった。


 それも立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花って言葉が似合う海涼ちゃんがだ。


 落ち着いた頃合いを見計らって口から手を離すと、彼女は目に見えて肩を落としていた。

 

「ううっ解ってるんですよ……私のイメージに性的なモノが似合わないくらい……」

「そんなに落ち込まなくてもなんて言わないけど、アタシは別におかしくないと思うよ」

「え?」


 落ち込む海涼ちゃんに、アタシは思った事をそのまま口にする。

 動揺こそしたけれど、彼女が特別おかしいなんて事は全くない。


「確かにイメージにそぐわないだろうけど、女の子にだって性欲はあるんだからエッチな事に興味があっても良いじゃん」

「そ、そうなんですか……?」

「そうそう。ビッチの噂があるアタシに比べたら、海涼ちゃんは全然健全な方だって。むしろ好きな人とそういう事をしたいって思うのは男女問わず当たり前なんだから、難しく考える必要は無いよ」

「せ、星夏さん……!」


 励ましが効いたからか、海涼ちゃんの表情に笑顔が戻った。

 普通に恋をして好きな人とエッチしたいって思考は、何もおかしなことはない。

 それこそ今言った様に、アタシと違って良いと思う。


「なんだったら、ソッチの方で相談に乗れるくらいだよ」

「なるほど……でしたら、早速よろしいでしょうか?」

「うん、なになに?」


 同性かつ理解があると判断されたからか、海涼ちゃんは恥ずかしさを見せつつもアタシに質問を投げ掛けようとしてくれるみたい。

 友達の力になれる嬉しさと高揚感から、アタシは止めること無く先を促す。


 そうして、海涼ちゃんは口元に手を添えて赤い顔を近付けて……。


「その……荷科君のアソコってどれくらいあるのでしょうか? 海上アスレチックで落ちた時にうっかり触ってしまったんですが、一瞬だったのであまり覚えて無くて……」

「──ふむふむ」


 意を決して尋ねられた質問に、アタシは腕を組んで大仰に頷いて見せる。

 確かにエッチに興味がある女子なら気になる事だろうけど……。 


 ゴメン海涼ちゃん。

 初っぱなからそこを訊かれるとは予想して無かったよ。

 え、てか触ったの?

 こーたのアソコ触っちゃった?


 もしかしてあの時、それで気絶しちゃったワケ?

 そりゃこーたも気まずそうになるよ。

 

 さてと、答えられないワケじゃないけど、もっとこう……『実際のエッチってどんな感じ~?』とか、主に経験談を訊かれると思ってたなぁ。

 好きな人の事を知りたいって意図は分かるけど、よりによってアソコと来るかぁ~……。


 まぁ、うん。

 相談に乗るって言ったのはアタシだし、こーたには悪いけど正直に話すとしますか。


 この場に居ないアイツに謝りながら、アタシは海涼ちゃんに目を向ける。


「完全に主観の話になるんだけど、簡単に表すとこーたのは大体こんな感じかな」

「えぇっ!? 男性のってそんなにあるんですか!?」


 記憶にある大きさを両手の人差し指を立てて大まかに表すと、海涼ちゃんは顔を真っ赤にして驚愕を露わにした。

 エッチな漫画を読んでるならそれなりに知識はあるはずなのに、初心な反応がちょっと面白く思えてしまう。

 

 だって海涼ちゃんの視線が、アタシの両人差し指と自分のお腹を交互に行き交ってるんだもん。

 そんな趣味は無いのになんか楽しい気がして来た。


「ほ、本当にその大きさで入るなんて……信じられません」

「あっはは。気持ちは分かるけど案外イケるよ~。じゃないと赤ちゃんが出来ないしね」

「それもそうですが、う~ん……男性はみんなこんな感じなのですか?」

「あ~そうでもないかな。男子のココって女子で言うおっぱいみたいなモノで、大きさと形には個人差があるの。今までの相手を例に出すなら、こんなのからこ~んなのまでね」

「な、なるほど……」


 アタシの説明に海涼ちゃんは食い入る様に耳を傾けてくれる。

 妄想するばかりだった世界に触れているからか、きっと脳内ではドーパミンが溢れているに違いない。

 経験を踏まえた上での解説を真剣に聴いてくれているのが解るし、こっちも話し甲斐があって俄然面白くなって来た。


「そう考えると、荷科君のアソコは大きい方なんですね」

「まぁ平均よりあるかな。でも大きければ良いってワケでもなくて、実際のエッチで重要なのは大きさだけじゃなくて相手のテクと身体の相性なの。あんまり大きいと痛くて気持ちよくなれないし、テクが無いと奥まで届いても異物感が強くて結局気持ち良くなかったりするから、ここらへんは相手次第ってところだね」

「さ、流石ですね……」


 海涼ちゃんのアタシを見る目に尊敬の色が浮かぶ。

 こんな事で尊敬されてもって思わなくも無いけど、なんか気分が良いから今は甘んじて受け入れよっと。

 

「荷科君と星夏師匠さんは相性が良いとは聴いた事はありますが、やはり他の男性とは違うんですか?」

「それはもう段違いだよ! 鍵穴と鍵がぴったりっていう感じで丁度良いの。それでこれは最近解った事なんだけど、元カレ達は自分が気持ちよかったらそれで良いみたいなとこがあったのに対して、こーたはアタシがどうしたら気持ちよくなるか考えながらしてくれてるワケ! 気の利かせ方からしてこーたが一番って言えるね。いや~好きになってから前より気持ちよくって堪んなくて~。気持ち一つで感じ方も変わるなんて不思議だよね~」

「そ、そんなに気持ちいいんですか!? う~羨ましいですぅぅぅぅっ!」


 ぶち上がったテンションのまま訊かれた事を包み隠さず話すと、こーたとのエッチを妄想するしか出来ない海涼ちゃんに嫉妬されてしまう。

 流石にそんな反応をされると可哀想に感じちゃうなぁ……。

 ちょっとアレだけど、こーたに海涼ちゃんとエッチ出来ないか相談してみようかな?

 

 いや、それだと相手に失礼とか返されそうだし難しいかなぁ。

 こーたってやけに頑固というか硬派だから、ちゃんと彼女にならないと無理かも。


 そう考えたらアタシってよくセフレになれたなぁ~。

 いくら命の恩人で大切だからって、許容範囲が不自然に広過ぎじゃない?

 まぁ好きになった側としては、嬉しいっちゃ嬉しいけど。


「大体、荷科君のあの身体はなんなんですか!? 細身なのに微かに腹筋が割れているくらいの筋肉は反則じゃないですか!! 何度かハグされたことがありましたけど、抱かれ心地がハンパないですよね!?」

「わかる!! あの腕に抱かれるともう何も考えられなっちゃうもん!!」

「はわわ……普通のハグでさえキャパオーバーしそうなのに、エッチの時だったらもう耐えられな──」

「──ねぇあなた達? 隣の人が逆上せそうだけど大丈夫なの?」

「「え?」」


 続けられた質問に答えている最中に、横から割って入った人から告げられた言葉にアタシ達は揃って首を傾げた。

 そういえばさっきから雨羽会長が喋ってない気がする。

 

 湯あたりでもしちゃったのかなって思いながら、彼女の方へ顔を向けると……。


「あばばばばばばばば……」

「か、会長!?」

「雨羽さん!?」


 雨羽会長は両手で耳を塞いだまま、顔から温泉以上に濃い湯気を発していたのである。

 どうしてこんな状態になるまで黙っていたんだろう?

 

 話に入ってこなかったってことは、もしかして雨羽会長はエッチなことに耐性がないのかな?

 だとしたら間近で盛り上がってしまったのはとても申し訳ない。

 あとで謝ろうと心に決めて、海涼ちゃんと二人がかりで会長を外に連れ出すことにしたのだった。

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