#61 良からぬ企み?
放課後。
星夏が眞矢宮と会っている間、俺は雨羽会長に呼び出されていた。
近頃は彼女の手を借りる程大きな事は起こっていない。
にも関わらず呼びされた理由には大体想像が付く。
十中八九、夏休みの間にどう過ごすのかって訊かれるだろう。
夏休みなんて恋愛イベント目白押しの時期に、恋愛脳と言っても良いこの人が見逃すはずが無い。
星夏が彼氏作りを控えた今、俺という存在をアピールするには千載一遇のチャンスだとか考えているんだろう。
が、それはあくまで俺に積極性があった場合にしか成立しない。
何せ星夏に告白をするつもりは無いし、彼女にだって気になる人とやらが出来たんだ。
そんな状況で一体どうアプローチしろと言うのだろうか。
と思ったいたんだが……。
「ごめんね、康太郎」
「え……はぁっ!?」
生徒会室に入った途端、聞き慣れた声で謝罪の言葉が聞こえたと同時に背後から羽交い締めにされた。
「ナイスよナオ君!」
「ちょ、何してんですか!?」
しかも突然の出来事に動揺冷め止まぬ間、どこからともなく現れた雨羽会長にズボンのポケットに入れていたスマホを盗まれてしまう。
遅れて羽交い締めにしたのが尚也だと分かったのだが、俺の注意は完全に雨羽会長の手にある自分のスマホに向けられていた。
こちらの質問に答えず、彼女は人のスマホを勝手に操作し始める。
呼び出しておいてなんだこの仕打ちは。
本気で抵抗すれば尚也の拘束くらい簡単に解けるが、中学時代の反省から緊急時以外では手を出さない様にしているのでどうにもやりづらい。
ただ勘違いしないで欲しいのは相手が雨羽会長と尚也だからであって、スマホを盗ったのが見ず知らずの相手だったら迷いなく腹に一撃を入れていた。
でも何かロクな事にならないというイヤな予感は、残念ながら外れてくれそうにない。
「ふぅ、送れたわ。手荒な真似をして悪かったわね、康太郎君」
「彼氏と協力して力業でゴリ押すとか何考えてんですか……って、なんか俺が星夏と眞矢宮を旅行に誘ってる事になってる!?」
盗られたスマホを受け取ってから目を向けると、ありもしない旅行計画に参加しないかというメッセージが送られていた事に気付く。
一分と経たない内にこれを二人に送ったのかよ。
もっと別の事にそのタップ技術を使えば良いのに……。
「とにかく間違いだって言わないと──もうオーケーの返事来てるし。早くないか?」
「それだけキミと夏の思い出を作りたかったって事でしょ。その旅行にだって私とナオ君も同行するんだから、やっぱりナシなんて許さないわよ」
「いつにも増して横暴過ぎません……?」
人のスマホを盗んだり勝手に予定を埋めたり……しかもついてくるのかよ。
星夏と直接関わらないんじゃなかったのか?
突然の行動に疑問が尽きないまま、今度は尚也の方に顔を向ける。
「尚也も、彼女だからって何でも言う事聴くなよ」
「ごめんね。でも今回は康太郎にとっても良い事だと思ったから、霧慧ちゃんのお願いを聴いたんだよ」
「この旅行がか?」
どう考えても会長が俺達の三角関係を、間近で眺めたいだけにしか思えないんだが。
普段の協力の対価をこんな形でも払えって言うならまだしも、強引な旅行参加にはどんな意図があるのかと懐疑的になってしまう。
まぁどう考えても俺と星夏をくっ付けるためなんだろうが……それなら眞矢宮を参加させる意味が分からない。
彼女にもチャンスをってところだろうか?
きっと会長の事だ、自分は恋する乙女の味方とかドヤ顔で言いそうだ。
ともあれ旅行に参加する事自体は不満がある訳じゃない。
参加者は五人……俺と星夏と眞矢宮、会長と尚也になるわけで……ん?
「会長。智則は参加させないんですか?」
俺を中心とした人選であれば、智則も参加していておかしくないはず。
なのに妙にその存在に触れられていない事に気付いた。
参加させない理由があるのか尋ねたところ、雨羽会長はスッと真顔を浮かべて……。
「彼がいたところで邪魔でしかないわ」
ひでぇ。
薄々思い当たる節があったが、雨羽会長は智則を嫌っているみたいだ。
「どうせ付いて来たところで鬱陶しいだけだし、私達の水着をいやらしい目で見てくるに決まってるわ。むしろ私の計画を台無しにしかねない可能性もある。だからいっそ何も知らせない方が良いでしょ」
確かに海に旅行へ行くんだから当然というべきか水着にもなる。
会長としては彼氏以外にそんな目で見られたくないと。
星夏はまだ慣れてるだろうからあからさまに不満を口にしたりしないだろうが、ストーカー被害に遭った事のある眞矢宮だと怖がるかもしれない。
彼女なりに二人を思って智則を遠ざけようとしているのか。
もう半分くらいの割合で、会長自身が智則を嫌っている面もあるだろうが。
そこは俺がとやかく言える事じゃない。
ただ……。
「アイツの性格を知ってる身としては、連れて行かない方が面倒な事になると思いますよ」
「何よ。抜け駆けしたとか言って騒ぐの?」
「騒ぐだけならまだマシですよ。多分、ふて腐れて祭りとかイベントに執拗に誘って来るわ、嫉妬心に駆られてデートの邪魔とか余裕でするかと」
「害悪そのものじゃない! そんな陰湿な拗ね方をするから彼女が出来ないのに馬鹿じゃないかしら」
去年の夏休みで智則が起こした行動を羅列すると、会長は汚らわしいモノを見た表情でここにいない人物を罵倒する。
一年前に会長と尚也が付き合ってると知って、思い切りふて腐れたアイツのフォローには大分手を焼かされた。
俺だって星夏と一緒にいたかったんだが、その彼女から友達を慰めてやってくれと言われては首を縦に振るしかない。
『なぁ康太郎。今頃尚也のヤツ、あの美人な彼女とヤってんのかなぁ……ははっ。童貞卒業、先を越されちまったな……』
中でも一番哀愁を漂わせていた台詞がこれだ。
隣でそれを聴いた俺はひたすらに肩身が狭かった。
単純に童貞を卒業した時期の早さで言えば、尚也より俺の方が早かったからだ。
相手はまだ好きになる前の星夏だが、相手との関係はどうあれ打ち明けたら卒倒しそうだとは思った。
なので、未だにアイツの前では非童貞である事を隠している。
「はぁ……面倒だしイヤだけれど、そういう事なら同行を許可するしかないわね」
「それか会長の伝手を使って彼女を作らせるでもいいんじゃないですか?」
「無理よ」
ある意味で一番の解決策を提示するが、にべもなく一蹴されてしまう。
「私は演出家であって監督や脚本家ではないの。元から恋人になりそうな関係ならともかく、ゼロから恋愛関係を構築するなんて私からすれば邪道よ」
「だったら……」
「何度も言ってるでしょ? 星夏ちゃんが掲げる理想の相手には康太郎君が相応しいって。キミ以上に星夏ちゃんを想っている男子も人もいないわ」
「……」
その彼女に気になる人がいるっていうのに、そんなの知った事かと言わんばかりに俺の背中を蹴って来る。
そう言ってくれる事は嬉しく思うが、やはり星夏自身の気持ちが分からないとどうにも乗り気になれない。
「……直接星夏と関わらないって宣言はどこに行ったんですか?」
あからさまではあるが、居たたまれなさから逃れようと話題変えた。
「まぁ尤もな疑問ね」
雨羽会長は星夏の味方ではあるけれども、彼女と交流を持とうとしなかった。
その理由は学校で一番人気の彼女と学校で一番蔑まれている星夏が関わると、いらぬやっかみが星夏に向けられてしまう事を避けるためだったはず。
夏休みだから問題ないと判断したのだろうか?
ダメだ、考えても分からない。
「星夏ちゃんに気になる人が出来たんでしょ? だから今までとは方針を変えるべきと判断したまでよ」
「はぁ……」
「今回の旅行。キミが何かしらアクションを起こす必要はないわ。ただ普通に彼女達と夏の海を満喫する……それだけに集中しなさい」
「裏での企み事は自分でやるってことですか……」
言わずともそういう事だと悟れた。
背景にロクな事を考えない人が居ると知りながら、旅行を満喫出来るかは分からないが、今更行きませんはもう通用しないだろう。
そんな諦念を浮かべながら肩を落としている俺に、雨羽会長はクスクスと笑みを作る。
「えぇ、話が早くて助かるわ。思い出に残る楽しい夏にしましょうね」
楽しむのはどっちなんだか……。
そう内心で突っ込みながらも、否定する気力は沸かなかった。
そうしていよいよ、夏休みが訪れる……。
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次回は4月30日の夜8時に更新です!
近況ノートにも書きましたが、Twitterにて星夏のイラストを描いて頂きました!
↓URL
https://twitter.com/aonosekito/status/1386447219432165380?s=19
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