#14 しゅきしゅきらぶゆー♡

海涼みすず視点】


 入浴を終えて、ようやく一息ついた私はベッドにうつ伏せになりました。

 

「──はぁ~……見事にフラれてしまいました……」


 柔らかい枕に顔を押し付けながら、深い嘆息をつきます。


 私──眞矢宮まやみや海涼みすずは今日、デートの最後に意中の男性である荷科はすか康太朗こうたろう君に想いを告げました。

 元々かなり可能性は薄いと感じていましたが、結果は玉砕……彼には既に想いを寄せる相手がいると知らされたのです。

 それも私と同じ片想いと言うではありませんか。


 羨ましい……あんなに素敵な人に好かれているのに、一体どんな薄情な人なのでしょう。

 私だったら絶対にそんな酷い事はしません。


 荷科君はとても魅力のある男性だと思います。

 短く切り揃えられた黒髪と目付きの鋭さで、一見するととっつきにくい様に思えますが、実際に話すと心優しくて真摯な人。

 身長は百七十台後半……ちょうど私と十センチ差になりますね。

 細めながらも鍛えられた身体は中学生の頃に不良さんだったからそうで、その強さは目の前で見たからこそ信頼出来ます。

 

 実を言うと最初は恐くて、でもバイト先の先輩ですから避けることも出来ませんでした。

 それが一変したのは一ヶ月前、バイト終わりの夜に以前から悩まされていたストーカーに襲われた時です。


 暗闇の中で突然顔も名前も知らない相手に襲われ、あろうことか服を脱がされた時は心臓が凍りそうなくらいの恐怖を感じました。

 もちろん助けを呼んだり手足をがむしゃらに振ったり、出来る抵抗を必死にしましたが男女の膂力差を覆す事は出来なかったのです。

 こんな事になるなら両親に相談していれば良かったと後悔した時、私に覆い被さっていたストーカーが殴り飛ばされました。


 それを成したのが荷科君です。

 自分達は愛し合ってるだの妄言をのたまうストーカーを一蹴した彼の姿は、今でも鮮明に思い出せる程カッコ良かった……。

 

 残念ながらストーカーには逃げられてしまいましたが、助かった安心感から涙が止まらなかったのはちょっと恥ずかしかったです。

 事件を知った両親には物凄く心配を掛けたので怒られました。

 でも無事で良かったと喜んでもくれたのは、次は心配を掛けたくないと反省した程です。


 またストーカーに襲われないように対策を話し合った結果、私を助けた実績のある荷科君がバイト終わりに家まで送ってくれる事になりました。

 最初は助けてもらった上にそんな図々しいお願いは出来ないと断ったのですが、両親が彼を気に入って信頼した事、何より荷科君自身が買って出てくれたので受け入れる事にしたのです。


 バイト先の同い年の後輩でしかない私のために、自分の負担と分かっていても引き受けてくれた彼の優しさに心を惹かれました。

 以来、自分なりにアプローチをして来たつもりですが……。


「うぅ~~……やっぱり悔しいですーー!」


 自分で言うのもなんですが、顔立ちは整っている方だと思う私の告白をキッパリと断るなんて、荷科君の好きな人は一体どんな人なのかとっても気になります。

 ですが流石に振った相手に教えてはくれないでしょう。

 それでも気になって気になって、胸の奥にモヤモヤが募るばかりで何も手が付かなくなりそうです。


 こんな不満を抱えたままでは、来週のテストに支障が出てしまい、最悪の場合バイトを止めさせられてしまうかもしれません。

 そうなってはもう荷科君との接点が無くなってしまいます。

 そんなの、絶対に認められません。

 

 となると、いつもの発散をする必要があります。


「今は夜の八時過ぎ……お父様とお母様は今日は仕事で遅くなるとのことで、大体十時頃に帰って来るでしょう……うん、よし」


 声に出して状況を確認し、今が絶好のチャンスであると判断しました。

 精神的なコンディションが悪いと集中出来ない性格の私は、中学二年生の頃にある癖が付いてから、メンタルリセットは必ずそうする様になったのです。

 特にテスト前はどうしても緊張してしまいますから、頻度が多くなってしまうのが悩みだったりするのですが。


 カーテンを閉めて部屋の照明を消し、机の電気スタンドの薄明かりだけで照らします。

 お風呂上がりに着た寝間着と下着を脱ぎ、一糸纏わぬ姿になってベッドの上に寝そべってからソレを始めました。


「あっ……ふ、ん♡ ひぅっ……!」


 あの夜、最悪ストーカーに奪われていたかもしれなかった私の『初めて』……それは性知識を学んだ時から好きな人に捧げたいと思っていました。

 それが荷科君。

 ここ一ヶ月の行為では、必ず彼と繋がった時を妄想するのが当たり前になっていました。

 

 あの大きな手で身体中をまさぐって欲しい……耳元で名前を甘く囁いて欲しい……そして初めてを奪ってたくさん気持ち良くなって欲しい……そんな空想ばかりです。


「はぁ、はぁ、荷科君……荷科君……っ♡」


 加えて今日は素材おかずに困りません。


 荷科君の手は大きくてゴツゴツしていました、電車で痴漢に遭わないように密着した時は鼻血が出そうになりました、モールですれ違う人にぶつからないように庇ってくれました。

 特に水着を見てもらった時の荷科君の視線は忘れられません。

 寄せて上げてやっと谷間が出来る私の貧相な身体をジッと見られた瞬間、背筋がゾクゾクして興奮のあまりうっかり濡らしてしまった程です……もちろん水着は買い取りました。


 まぁそれでも荷科君のズボンは平坦なままだったのは残念です……。

 もう最近はずっとそこが気になって仕方ありません……どんな感じなのでしょうか……?


 あぁ……荷科君は私の事を綺麗で真面目だって言ってくれたのに、本当はこんなエッチなことばかり考える悪い子なんて知られたら、きっと幻滅されて嫌われちゃいます……♡

 それは嫌なのに、ダメなのに……あの鋭い目付きで『清楚なフリをした淫乱』って軽蔑の眼差しを向けられると思うと、胸の奥がギュッて締め付けられて苦しいのに……♡


「あっ……ふ、ぁ……ごめんなしゃい、はしゅかくん……♡ みしゅじゅはエッチでぇ……はしたにゃいっ、わりゅいこでしゅ~……♡ だかりゃ、いつか……みしゅじゅにメッて、いっぱいおしおきしてぇ……♡」


 それでも私はこんな自分を止められそうにありません。

 だって、それだけ荷科君の事が好きなんですから♡

 だから……振り向かせて見せます。

 好き好きだ~~いしゅきです、荷科君……♡

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