#26 新手の羞恥プレイ(双方被弾)


 雨羽あまはね会長は非常に優秀な人だが、その趣味は他人の恋愛事情を観察するという酷く反応に困るモノだ。

 加えて純愛主義……そう、星夏と恋愛観はほとんど同じだったりする。

 だからこそ、アイツを気に入ってるんだろうが。


 そんな彼女はさながら少女漫画の熱狂的な読者の様に、現実で恋人になりそうな男女の行く末を見守っている。

 主義故に純愛を好み、そこに横槍を入れる連中を察知すれば持ち前の能力で排除し、男女の仲が進展しなければくっ付く様に手を貸すことも厭わない。

 

 そう考えると俺がされているのは後者で、星夏と合わせて生徒会長注目の男女ということになる。

 ハッキリ言って鬱陶しい。

 

 だが、星夏を守るためにはこの人の協力は必要だ。

 なのでこうして対価を支払う代わりに力を貸して貰っている。


 その対価というのは……。


「海森から助けたお礼として、星夏は俺に夕食を作ってくれました。作って貰ったオムライスはいつも通り美味しかったですね」

「うふふっ。助けたお礼にご飯を作ってくれるだなんて青春だわ~」


 星夏との間にあった出来事──特に恋愛面──を語ること。

 恥ずかしさはもちろんあるが、合法的に惚気られるので案外嫌いじゃない。

 

「夕食の後に風呂に入ってたんですが、そこに星夏が入って来たんです」

「ええっ!? まだ付き合っていないのに混浴したの!?」


 全く偽りのない事実を口にしたのに、顔を赤らめながら嘘を付かれたみたいな反応をされる。

 でも昨日本当にあったことなんだよなぁ。

 だが、ここからが本番だ。


「混浴はしましたよ。星夏がお礼にエッチなお願いをきいてくれた後に」

「……え?」


 思いも寄らなかったらしく、雨羽会長はポカンと呆けた。

 そこを俺は内心ほくそ笑みながら続ける。


「まず最初に胸で背中を洗って貰いました」

「む、胸で? 背中を……? そんなことが出来るの?」

「大きさは関係なく出来ると思いますよ」

「な、なるほど……」


 これはまだセーフみたいだな。

 それでも未知の世界を目の当たりにした様に、顔を赤らめながら困惑しているのが丸分かりだが。 


「ぶっちゃけると、気持ち良かったですよ」

「そ、そうなの……? わ、私も客観的に見れば大きい方だけれど、やってみせたらなお君は喜ぶのかしら……?」


 雨羽会長は赤い顔のまま自分の胸に手を当てて思案する。

 見る人によっては悶絶するかもしれないが、俺としては微塵も興味が無い。


「多分会長に遠慮してるだけで、アイツも興味はあるとは思いますよ。同じ男ですし」

「そういう、ものなのね……!」


 早く話を終わらせたい気持ちを押し殺しつつ、それっぽいアドバイスを伝える。

 友人間で猥談をする時は智則が一方的に話すだけなので、正直な話をすると尚也の性癖は知らない。

 というか尚也が話そうとすると決まって彼女会長のことになるから、智則が嫉妬して話にならないんだよなぁ。

 俺は一応童貞を装っているため、ヘタなことは言えず聞き流しに徹している。


 会長が決意を胸に秘めた面持ちを浮かべるのを余所に、そんなことを思い出していた。

 まぁそれはさておき、星夏との情事まで話す理由は当然ある。 

 一見セクハラにしか見えないし俺だって本当はイヤだが、これも対価の一つなので仕方が無いのだ。


 実はこの人、性的なことに対する耐性が微塵も無い、所謂『初心うぶ』だったりする。

 どのくらい初心かと言うと、セックスを始めとした性的用語を口に出来ないし、耳に入れるのも拒むレベルだ。


 彼氏尚也との間に経験はあるので一応処女ではない。

 勤勉家な彼女は俺から男がされて嬉しいことを学ぼうとして、情報の対価として話すように言われているのだ。

 なので星夏との情事も基本的に包み隠さず話しているものの、一向に耐性が付く気配が無い。


 だって恥ずかしがって途中から聞かないんだよ。

 俺もセクハラで訴えられる恐怖心からギブアップすることもあるので、この関係が始まってからも全然進歩は無いままだ。


 そんなに恥ずかしがるのに聴こうとするのは、ひとえに彼氏である尚也への献身に他ならない。

 なんでも二人は幼少期から付き合いのある幼馴染みで、その惚れ込みっぷりは両者共に本気だと感じられる。

 

 願わくば俺も星夏とそうありたいが、まずは向こうに恋愛対象として見られないと始まらない。


「雨羽会長。大丈夫ですか?」

「え、えぇ。ほんのちょっとだけ関心しただけよ。続けて頂戴」


 嘘付け、思いっきり困惑してたじゃねぇか。

 キリッと表情繕う姿に、そうは思っても口に出さない。

 この人に仕返し出来る数少ない機会を逃すほど、俺も寛大じゃないんだ。


「じゃあ続けます。結局星夏の方が我慢出来ずにそのまま風呂でセ「ストップ!!」ク……早いなオイ」


 秒で待ったが掛けられ、呆れながらも言い分を聞く。

 雨羽会長は顔から湯気が出そうなくらい恥ずかしがっていて、無性に罪悪感が胸を過る。

 でも向こうたっての頼みだし、仕方が無いと割り切っておく。


「その……男女のい、い、営みというのはね? ベッドで行うものでしょ?」

「まぁ、そうですけど……」

「それが分かってるなら、どうして浴室でせ、せ……したのかしら?」

「……星夏が俺を待たせたくないって言ったのと、多少汗を掻いてもすぐに洗えるから、ですね。四回は、しました」


 何気に俺もベッド以外でのセックスは経験がなかったので、改めて思い返すと恥ずかしくなってくる。

 そっちはただ恥ずかしいかもしれないが、こっちはセクハラでの起訴と星夏との情事を話す羞恥心に挟まれてめちゃくちゃ辛いんだよ。


「……相変わらずお、おさ……元気なのね」

「……まぁ、はい」

「「……」」


 正直に答えたのに、ついには無言になってしまった。

 一応話す内容としてはこれで終わりなのだが、果たして会長の反応はどうなるやら……。

  

「……わ」

「わ?」

「乱れてるわ!! 場所とか回数とか……そこまでやってどうして付き合ってないのよ!! 付き合ってないのにそんな、みだり極まりないわ!!」

「えぇっと……すみません?」


 涙目になって怒鳴られてしまった。

 だが言ってることは尤もなので、俺は何も言い返せず謝るしかない。


 羞恥心が限界を迎えて泣き喚く会長を落ち着かせるのに、それから三十分くらい掛かったのだった……。  

 

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