#24 お風呂でサービス!


「ふぅ……」


 家に着いて夕食を済ませた後、俺はシャワーを浴びて汗を流していた。

 おかげで心身共にスッキリして、今日はよく眠れそうだと思える。


 ちなみに夕食は星夏が作ってくれた。

 曰く助けてもらったお礼だとか。

 言葉だけで満足するとは思っていなかったが、好きな子の手料理を食べられたのは嬉しかった。

 

 しかし、海森が合鍵を渡したのは好意があるからって言ったの、あの場にいた星夏も聴いていたはずなのに全く意識されてなかったな……。

 まぁ……約束の事があるから、そっちだと思われたんだろう。

 

 今回のことで好かれる……なんて都合の良いことも考えられない。

 俺が星夏を守るのは約束したことの一つで、そのために苦手な人の手も借りただけ。

 だから何も特別なことじゃない。


 ただ好きな子を守りたい、そんなありふれた行動の一つでしかないのだ。


 そうやって浮かれそうになる自分を律していると……。



 ──ガチャ。



「こーたさんやーい。これからお背中を流させて頂きまーす!」

「──……は?」


 水着姿の星夏がのいる浴室に乱入して来た。

 目の前の光景を呑み込めず、驚きのあまり素っ頓狂な声が漏れ出る。

 

 星夏の水着は水色と白のチェック柄のビキニで、大胆に露出した大きな胸と張りのある尻が否応なしに目に入ってしまう。


 いやいや待て待て、なんで入ってきたんだ?

 

「星夏さん? 俺、まだ風呂場にいるんだけど?」

「知ってるよ? だってこーたにお礼をしようって思って来たもん」

「お礼って、さっき夕食を作ってくれただろ」

「それだけじゃアタシの感謝の気持ちが伝えきれてないのー」

「えぇ……」


 下半身をタオルで隠しながら理由を尋ねると、何故か拗ねられた。

 俺としてはあれで十分伝わっているのだが、星夏からすればまだまだ足りないらしい。

 

 まぁそこはまだいい、問題は……。 


「なんで風呂場に突入なんだよ……」

「え? 男子ってこーゆーの好きでしょ?」

「そりゃ嫌いなヤツはいないだろうがなぁ……」


 そんな何か変かみたいに言われても……。

 もう少し恥じらいとか、心の準備とか色々無視されると何とも言えない。

 いや水着を着ているのがせめてもの救いか。


「う~ん背中を流すのがダメなら、何かして欲しいことってある? アタシに出来る範囲でなら言う通りにするよ~」

「──っ」


 ズレた安堵をしている内に投げ掛けられた提案に、胸が一際大きく高鳴る。

 何かして欲しいこと……そう言われた瞬間真っ先に頭に浮かんだのは……。


 ──俺の恋人になって付き合って欲しい。


 たったそれだけだった。

 実際に口に出して言えば、星夏は少し驚いた顔をするかもしれない。

 そこでさらに二年前に救われてから好きだったと告白をすれば、変に勘違いされることもなく想いを伝えられるだろう。


 肝心の返事はどうなのかは分からない。

 とりあえず付き合ってみようとかそういう感じだろうか……まぁ付き合いの長い俺から突然告白されたら言いそうではある。

 

 ともあれ、形だけでも恋人に成れたのなら俺の望みは叶うことになるわけだ。

 すぐには難しくても、星夏に好きになってもらえるように頑張ればいいだろう。

 

 なんなら、今まで伝えられなかった分の想いで以って愛せると誓える。

 

 ……けれども、俺は星夏にそれを言うつもりはない。


 こんな助けた恩に付け入る形で付き合っても、俺は心の底から幸せだと言える気がしないからだ。

 その罪悪感を隠していても、いずれ星夏にバレて悲しませてしまう。

 自分でもバカだなとは思うが、仮に気持ちを打ち明けるならもっと彼女が好みそうなタイミングで言いたい。


 尤も、それがいつになるのか……本当に出来るのかは分からないが。

 少なくとも、今この場で告白しようとは思わない。


 さて、そうなるとどういった希望を口にするべきか……。

 何もいらないと言っても簡単には引き下がらないだろうな。

 かと言って無難な願いを言ったところで、今みたいに伝えきれていないと言われる。


 おかしなことに、どう転がっても俺に都合が良過ぎないかこれ?

 神の悪戯か何かは分からないが、ここはもう乗るしかないか。


 そう結論付けて、俺は星夏に顔を向ける。

 

「……む」

「い?」

「──む、胸で……背中を洗う、とかで良いか?」

「……」


 ……意外と口に出すと恥ずかしいなオイ。

 一人で羞恥心に苛まれながらも星夏の反応を窺う。

 

 何故だか彼女は空色の目を丸く見開いて呆けていて、やがて……。 


「──ぷっ……あっはははははははは! 背中を洗うにしても胸でって! いやぁ~こーたも中々なおっぱい星人ですなぁ。ぷっくくくく……!」

「わ、悪いかよ……」


 めちゃくちゃ笑われた。

 追い打ちのような反応をされて、ただでさえ心臓が張り裂けるくらいの羞恥心が、一層膨れ上がった気がする。

 あぁクソ、穴があったら入りたい……!


「はぁ~……こーた、そこのボディソープ取ってくれる?」

「え、あぁ良いけど……」


 笑い終えた星夏に言われるがままボディソープを渡す。

 すると彼女は手の平に乗せた液を自分の胸に塗りたくり出した。

  

 泡に包まれた胸の形が変わるのエロ──じゃなくて!


「せ、星夏?」

「何不思議そうな顔してんの? こーたのお願い通りおっぱいで洗ってあげるよ?」

「い、良いのか?」

「笑いはしたけど、イヤなんて思ってないもん。ほらほら、背中向けて座って」

「お、おぉ……」


 拒否されず了承してくれた事実を咄嗟に呑み込めず、指示通りに椅子に座る。

 

「それじゃ失礼しまーす」

「──っ、あっ」


 程なくして掛け声と共に身を寄せられ、背中に独特の柔らかさが押し付けられた。

 

「えへへっあててんのよ~。ね、どんな感じ?」

「……なんか凄い満たされた感じがした」

「まだ当てただけなんだから、満足するには早過ぎるよ~?」

「んなこと言われたってなぁ……」


 手で揉むのとは違った感触に加えて、泡による滑りの良さがアクセントになって気持ちいい。

 なんというか、女子の身体は色々ズルいと思えた瞬間だった。


「こーたの背中、アタシと違って大きくなったね。なんかすっかり男の子って感じ」

「……そりゃそうだろ。互いの裸を見せてから二年も経ってるんだからな」


 不意に、星夏が俺の背中に体重を掛けながらそう零した。

 小学校からの腐れ縁故に俺達は互いの成長を見ているし、特にセフレになった事で隅々まで把握している。

 そう思うと少し気恥ずかしさを覚えてしまう。


「あははっ、そうだね。こんな良い身体に抱かれたんだって思うと自慢出来そうだね」

「その言葉そっくりそのまま返すよ」

「ん。ありがとー」


 それは星夏も同様だったみたいで、彼女は照れ隠しから冗談めかした事を言い出した。

 透かさず返すも軽く流されてしまう。

 今までセックスした元カレ達が軒並み自分の身体に溺れて来たためか、あまり嬉しく無さそうだ。


 少し言葉選びをミスったと反省しつつ再度口を開く。


「大体、身体が成長したのは星夏も同じだろ?」

「主におっぱいがね」

「そうそ──って身長もに決まってるだろうが」


 思わぬ返しに乗っかり掛けたのに気付き、慌てて語気を強めて訂正する。

 でも身長以上に彼女の胸が成長しているのは間違いない。

 確か中三の頃にCカップだと言ってたから、二年で二カップ分大きくなってはいる。


 とはいえそれを男の俺から言ったらセクハラになるだろうに。

 そんな呆れの眼差しに星夏はケラケラと笑いながら、鏡越しでも判るニヤケ面を浮かべる。


「あれ~? おっぱいが大きくなってるのは否定しないんだ~?」

「ぐっ……」

「なんてね。それじゃそろそろ動くよ~」

「うっ……」


 図星を衝かれて動揺した隙に、星夏が密着したまま動き出す。

 決して強い刺激ではないものの、擦れる度にニュルリと奔る艶めかしい感触がクセになる。

 それこそ全神経を背中に集中させるくらいだ。


「んしょっ、んしょっ。こーた、きもちいーい?」

「っ、ぁ、あぁ……気持ち良い」

「良かった~。なんなら背中以外にもしてあげよっか?」

「っ! お前なぁ……」

 

 隙あらば誘惑して来る星夏に完全に為すがままの恥ずかしさを隠すために、素っ気なく返すが彼女は笑みを浮かべるだけで何も言ってこない。

 クソ、照れ隠しだってバレてやがる。

 

 強がりすら見破られて、羞恥心は既に崩壊寸前だ。

 顔を逸らして目を合わせないでいると、星夏が背中にシャワーを掛けてくれた。

 どうやら終わりらしい。

 

 少しだけ名残惜しい気持ちを懐くが、何故だか星夏は無言のままだった。

 どうしたのかと思って鏡越しに彼女の顔を見やる。 

  

 瞬間、察した。

 空色の瞳は色気を含んだ潤いを帯びていて、身体全体を小さく揺らしてどこか落ち着きが無い……完全にスイッチが入った証拠だ。


「ごめんこーた。お礼だけで済ますつもりだったけど、やっぱりムラムラして我慢出来ないや」

「だと思ったよ。ベッドに行くか」


 予想に違わず、星夏から発情したと気まずそうに報告される。

 今『やっぱり』と言ったように、自分が我慢出来ない可能性を見越していたらしい。

 仕方ないなと苦笑しつつ風呂場を出ようかと告げるが、彼女は無言で首を横に振って拒否し、入り口のすぐ傍に隠していたゴム入りの箱を取り出した。


 ……準備が良いことで。

 その用心深さに呆れを通り越して感心してしまう。


「アタシがシャワー終わるまでこーたがお預けになるじゃん。だから……」


 別に気にしなくても良いと返そうとするより先に、星夏は壁に右手を着いてこちらに尻を突き出す姿勢になり、俺が見ている前で空いている左手を使って水着のボトムをずらす。

 そこは汗でもシャワーの水でもない別の要因で濡れており、彼女がどれだけ興奮しているかを黙して表していた。

 

「……お願いこーた。──ここでしよ?」

「──~~っ、あぁ。分かったよ」


 エロい体勢かつ甘い声音でそこまで言われては、もう引き下がる理由なんて無い。

 結局俺達が風呂場を出たのは、四回もセックスをした後だった。

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