#17 打ち上げと良くない噂
「テスト終わったぜイエェェェェイィッ!!」
「うるさいぞ智則。あんまりファミレスで騒いで追い出されても知らんからな?」
「まぁまぁ康太郎。やっとテストから解放されたんだし、店員さんが来るまで大目に見ようよ」
中間テストを終えた俺と智則に尚也の三人は、打ち上げとして学校近くのファミレスに来ていた。
開始からかなりやかましくなったが、他の席を見れば同じ学校の人の姿も見えるし似たようにはしゃいでいる。
ついバイト先の感覚で注意してしまったが、尚也の言う通り迷惑なら店員が来るだろうから、それまでは気にしない方が良いかもしれない。
「今回の中間テスト、康太郎としてはどんな手応えだった?」
「自己採点通りなら前の期末と大して変わらないな」
「流石だね。僕は少し落ちたかもしれない」
「二年になって内容が難しくなってるからな。多少の前後はどうしようもねぇよ」
俺と点数が変わらないはずの尚也でもそういうのだから、智則や星夏が苦戦するのもムリも無い。
その二人も自己採点では赤点を免れている様なので、教えた甲斐があるというモノだ。
欲を言えば平均点は超えていて欲しかったが、そこは当人達の日頃の努力を期待したい。
「おいおい、テストが終わったのにテストの話とかナンセンスだぜ? 二ヶ月後には夏休みだしな!」
尚也との会話に気付いた智則がやけにうざったい口調で言うが、俺はあからさまにため息をついてから目を細めて威圧する。
「いや夏休みの前に期末テストがあるだろ? その時に躓かないように予習と復習を──」
「やめろよぉぉぉぉっ! やっと訪れた自由を縛ろうとするのはやめろよぉぉぉぉぉぉぉっっ!?」
「だから日頃から勉強しておけって言ってんだよ……」
そんなに叫んだって、期末テストは無くならないからな?
テスト直前の詰め込み程無駄な勉強はない。
こうやって毎度注意してるのに、毎度の如く教えを乞いに来る胆力は本当に謎だ。
星夏だってテスト範囲が発表された段階で、自発的に勉強に手を付けるのに……。
「尚也は夏休みの予定はあるのか?」
「待て康太郎! 尚也にそれを聞くのは無駄だ!」
「無駄って……何も彼女とだけ過ごすわけじゃないだろ」
「その彼女と過ごす予定がある事そのものが羨ましいんだよぉぉぉぉっ!!」
僻みじゃねぇか。
こんなあからさまな嫉妬ほど醜いモノもそう見ないよなぁ……。
「あはは……それなら智則も彼女を作るしかないけど……」
「誰か紹介して下さいお願いします」
「テンションの落差がジェットコースター並だなお前」
まるで気にしてない様子の尚也の提案に、智則が手の平を返す勢いで懇願する。
どんだけ彼女が欲しいんだコイツ……。
呆れた眼差しで見てしまう。
「康太郎もな~んか良い感じの子が居るし、夏休みまでに俺だけ彼女ナシになりそうなんだよ~」
「ちょ、お前今それを言うか!?」
「……へぇ~。康太郎も隅に置けないね~」
暗に眞矢宮の存在を暴露され、案の定尚也の興味を引いてしまった。
別に告げ口するなとは言ってないが、よりによってここで言うのは最悪に近い。
何故なら、この時点で彼の恋人にも知られたようなモノだからだ。
あの人に眞矢宮の事を知られると、かなり厄介な事になる。
少なくともストーカーの事は知られたと諦めるしかない。
近い内に何か言われるのは明らかで、その事を想像するだけで鬱屈とした気分になりそうだ。
かといってもう否定するのも遅い……告白の件だけは絶対に漏らさない様にしないといけない。
「どんな子なの?」
「康太郎曰く、女子校に通ってる同じバイト先の同僚で、容姿は
「なんで一回見ただけでそんな分析出来るんだよ。気持ち悪い」
本気で頬が引き攣りそうなのが止められない。
的確なのが余計に酷いわ。
それだけ俺に対する眞矢宮の好意がダダ漏れだったというべきか……思えばモールでも生暖かい眼差しの方が多かった気がする。
話を聞いただけの星夏でも気付いた事に気付けなかったなんて、やはり俺は鈍感だったのだろうか……。
「ふぅ~ん……まぁその子と康太郎の恋愛に関しては当人達に任せようよ」
「そうしてくれると助かる」
大人な対応を返してくれた尚也に感謝しかない。
既に告白されて断った後だが、程よい関係を保てるよう祈りたいところだ。
そうしてひとまず追及を逃れて安堵した時だった。
「話は変わるけれど、最近海森が咲里之さんに復縁を迫ってるみたいだよ」
「は……?」
尚也が挙げた話題は、星夏と関係することだった。
それを聞いて心がざわつく。
おい待て、その名前に心当たりしかないんだが……。
「海森って……前に咲里之と付き合って別れた野球部のヤツか?」
「うん。テスト週間中に結構しつこく付き纏ってたみたい」
「……」
どうやら間違いないらしい。
あの屋上の一件があったにも関わらず、未だに諦めていないのか。
純粋な好意からならともかく、あの自分本意な性格から星夏の身体目当てなのは明らかだ。
身も蓋もない言い方をするなら、都合の良い性欲処理相手を手元に戻したい……ゲスな考え。
「おいおい、今の咲里之って彼氏がいるのに諦めの悪いヤツだなぁ。男なら潔く未練を断ち切れっての」
「ゴールデンウィーク前にA組の
「だって普通にフラれるならまだしも『女の子としか付き合えないの』なんて言われると思わねぇじゃん!? 男の時点で恋愛対象になれないとか絶望でしか無いって!!」
つい智則のトラウマを掘り返してしまったが、尚也の話は俺にとって気軽に流せるモノじゃない。
何かの間違いだと思いたいが確証の無い噂を話す程、この友人が頭の悪い性格じゃないのも知っている。
「尚也。その話は誰から聞いたんだ?」
「僕の彼女からだよ」
「……なら本当みたいだな」
それでも真偽を確かめたくて投げ掛けた問いに、逡巡する素振りも見せずに返された。
あっさりと明かされた情報源たる人物の顔が浮かんで、思わず眉を顰めながらも納得する。
彼女から出される情報の精度と早さは本物だ。
苦手な人ではあるがその点に関しては、全幅と言っても良いほどの信頼を置いている。
こうして尚也を通して俺に伝えているのも、あの人なりの忠告といったところか。
海森の行動が事実だと把握して、堪らず頭を抱えながらため息をつく。
──一言くらい相談しろっての。
星夏のことだ、どうせ俺を巻き込みたくないからって黙っていたんだろう。
ハッキリって余計なお世話だが、何も言われない方が心配だ。
何より……そうやって悩みを抱えていたのに、屋上での前例があったのに暢気に気付けなかった自分をぶん殴りたい。
後悔は山程あるが引きずって立ち止まる暇があるなら、さっさと解決に動いた方がマシだ。
気を引き締め直して、改めて情報をくれた尚也に無言で会釈して礼を伝える。
智則がいる手前、こうするのが精一杯だ。
……尤も、情報料代わりにまたあの人の所へ、顔を出しに行く必要が生まれたが。
あぁイヤだなぁ……眞矢宮の件も足して絶対に面倒な話になる。
行く前に憂鬱な気分になるが、いつも世話になっているのも事実なので仕方が無い。
本当に癪なのだが。
「相変わらず噂話が好きだよなぁ尚也って」
「彼女と付き合ってたら自然と気になる様になってね。頼られる彼氏でいたい見栄みたいなモノだよ」
「はいはい爆発しろよ」
その後も智則の彼女欲しい談義を適当に聞き流しつつ、海森の対処方法を逡巡するのだった……。
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