#3 未練タラタラ【改稿】
翌日の昼休み。
今日は
セフレ以前に
周囲の評価なんぞ気にしてないが好きな子たっての願いを断れるはずもなく、基本的に俺達は学校ではクラスメイト以上の関わりを持っていない。
そんな理由から星夏とも一緒に食べることが出来ないので、適当に屋上で食べることにした。
五月の快晴が眩しい中、広い屋上のどこに座ろうか考えていると……。
「なぁ星夏。別れるとか言わないで考え直してくれよぉ」
めちゃくちゃ知ってる人の名前を呼ぶ男子の情けない声が聞こえて来た。
その内容から声の主が誰なのかなんとなく察する。
どうやら昨日の放課後に別れたばかりの海森って野球部の元カレが、未練がましく星夏に復縁を求めているようだ。
面倒な現場に居合わせてしまった気まずさから、話が終わるまで踊り場に身を潜めることにした。
別れを告げられた元カレが受け入れないのは何も珍しいことではなく、過去にも何度かあったとは聴いたことがある。
せっかく出来た彼女と別れたくないと思うのは理解出来るし、それが星夏のような美少女なら尚更だ。
まぁ……人のことを言えた側ではないが、フラれたのなら潔く身を引くべきだとは思うがな。
そんな元カレに星夏は……。
「イヤ」
「っ!」
その未練をバッサリと切り捨てた。
あまりに冷然とした拒否に、海森が小さく息を呑んだ。
「な、なんでだよ! 俺は星夏を諦められなくて言ってるんだぞ!?」
「なんでって……昨日、別れる理由は言ったでしょ?」
「あんなので納得出来るかよ!」
「それって納得出来ないんじゃなくて、納得したくないだけの話じゃん」
「ぐっ……」
理解出来ないという風に食い下がる海森だったが、呆れを隠さない星夏の返答に図星を衝かれたことで息を詰まらせた。
フラれた理由を聴かされた上で復縁を望んだりしたら、そりゃ失望されて当然としか思えない。
昨日の夜に聴いた彼の自己中心的な性格からすると、恋情ではなく性欲の対象として彼女を手離したくないのだろう。
星夏は別れた相手を悪ざましに誇張したりしないので、概ね間違っていないはずだ。
「そもそも話の最初に謝りもしない時点で、どうしてやり直せると思ったワケ? そういう態度、アタシのことバカにしてるとしか思えないんだけど」
「ば、バカになんてしてねぇよ!」
「……はぁ。そういうとこなんだけど」
「はぁっ!?」
続けられた言葉を海森が反射的に否定するが、星夏は悩ましげにため息をつくだけだった。
彼女の内心は大方予想が付く。
海森はある意味で致命的なミスを犯した。
自分をバカにしてると思ったと口にした星夏を慮らず、無意識レベルとはいえ自己保身に走ってしまったのだ。
あそこは彼女の言葉を否定するのではなく、ごめんの一言だけでも謝るべきだった。
そうしなかった結果、海森の本心が性欲で星夏とやり直そうとしているのが浮き彫りになった訳だ。
まぁ複雑過ぎる女心を男に悟れなんて若干ながら無理難題に近いだろう。
特に海森みたいな、自分のことしか考えていないヤツには。
俺だって腐れ縁かつ好意を懐いている星夏相手だからこそ察しが付いただけで、他の女子だとこうはいかない。
「とにかく、やり直すとかないから。誰と付き合うか選ぶ権利くらいアタシにだってあるの。話はこれでおしまい」
「……」
結局元の鞘に収まらないまま話の終わりを告げられて、海森はいよいよ絶句したようだ。
そうして星夏が校舎に戻ろうと歩き出した瞬間だった。
「ふざけんなよ!」
「きゃっ!? 放してよ!」
逆上した海森が星夏の腕を掴んで引き留めたのだ。
星夏は振り払おうと抵抗するが、男女の膂力差からまるで効果が無い。
プライドだけは高い海森があれだけボロクソに言われて、大人しくするはずがないのは明白だ。
図らずも盗み聞きをしている間になんとなくこうなる予感はしていた。
だから……。
「ビッチの癖にモテるからって調子に乗りやがって! 俺を舐めたこと後悔させてや──」
「さっきからうっせぇなぁーー! フラれた癖にネチネチ鬱陶しいんだよ!」
「ひぃっ!?」
「えっ!?」
荒々しくドアを蹴りながら、向けてこれ見よがしに大きな怒声を放つ。
俺という思わぬ部外者の登場に、海森は驚きのあまり一気に顔を青褪めてビビり出した。
「な、なんだおま──」
「それはこっちの台詞だっつの。屋上で飯を食おうとしてんのに、いつまでもウダウダと話込まれてたら昼休みが終わっちまうだろうがぁっ!?」
「ひっ、く、クソ……!」
相手が二の句を遮って睨み付けながら、さも怒り心頭だという風に声を荒らげる。
その圧に屈した海森は星夏を身代わりにするように我前にと屋上を出て行った。
全く……元カノを盾にするとか、アレは別れて正解だったな。
まぁもういないヤツのことなんてどうでもいい。
そう思って改めて星夏に顔を向けると……。
「──っぷ、あっははははははははっっ!! さっすが元不良! ガンの飛ばし方が違和感無くてウケる!!」
「……助けてもらった第一声にしては随分と失礼だな、オイ」
危うく襲われそうになったというのに、腹を抱えて大爆笑してやがった。
心配して損した……いや、これ心配を掛けたことを気にしてはぐらかそうとしてんな。
俺が勝手にやったことだから、別に気にする必要なんて無いのに……。
まぁ、口に出して気遣いを無下にしたら余計に拗れそうだし、黙っておくか。
「はははは……はぁ~……フラれた腹いせに襲うヤツとやり直すなんて、一生お断りだっての」
「あれだけ言われたら逆ギレするくらい分かってただろうが」
「だってマジで無理だったもん! あんなデリカシーナシが相手だと、アタシじゃなくても同じ結果だったと思うよ。あ~ダメ、付き合ってたこと思い出したら余計に腹が立ってきた」
一方的な気持ちの押し付けによっぽどお怒りらしい。
星夏の場合、嫌いな相手にはとことん毒舌が出るところがあるから、物言いがキツくなるのはある意味避けられなかったんだろうなぁ。
「それで? こーたはなんで屋上に来たの?」
「今日は一人で食べることになってな。なんとなくで来たら……アレだ」
「まぁ聞かれてなかったらあんなタイミング良く助けられないよね。あ、助けてくれてありがと」
「どーいたしまして」
取って付けられた感謝の言葉に軽く返す。
しかし、たまたま助けられて本当に良かった。
違う場所に行ってたら星夏がどんな目に遭っていたか容易に想像出来る。
もしそうなったら、海森は確実に半殺しにしてた自信はあるな。
結果的にだが三者三様で運が良かったようだ。
……。
そういえば今って二人きりなんだよなぁ……。
基本的に屋上は人が来ないし……試しにアレを言ってみるか。
「……なぁ星夏。他に誰も居ないし、たまには一緒に昼飯を食べるか?」
「え?」
俺の言葉が予想外だったようで、星夏はキョトンとした様子で聞き返して来た。
ヤバい、流石に露骨過ぎたか……?
らしくない誘いをした緊張と羞恥が今になって全身を駆け巡って、何だか居心地が悪い。
やっぱり無かったことにしようと口を開こうとして……。
「うんいいよ。たまには悪くないね」
まるで動揺した素振りを見せずに星夏が誘いに乗ってくれた。
「……おう」
さっきまでの緊張が嘘の様に消え去り、心に残ったやるせなさを抱えたまま、俺は一言発するのだった。
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近況ノートに改稿前の旧3話を載せています。
違いを楽しみたい方は作者ページからどうぞ!
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