#2 ビッチだけど純愛派
「
エッチを終えたピロートークとしては全く甘くない……むしろ塩辛な愚痴の連続が飛び続ける。
これも恒例の一つで、星夏は前の彼氏と如何にして別れたとか交際中の不満をぶちまけて来るのだ。
好きな女の子から他の男との情事を訊かされる状況……始めは中々辛かった。
だからといって星夏を責めるつもりはない。
彼女は俺の好意なんて知らないんだし、こんな内容でも話すことでストレス発散になるなら、と甘んじて受け入れたのは自分だし。
それでも、だ……。
「噂につられた男子が告白してくる理由なんて、大体そんなもんだよ」
「もぉ~~……」
一頻り続いた愚痴にそう返すと、星夏は呆れたように不満の声を漏らす。
「別にさ、男子がエッチなのはいいよ? 生存本能的なヤツだって分かってる。アタシも嫌いじゃないし……ただ」
「そうだな。星夏が好きなのは『イチャラブ』だもんな」
「そう! お互いが大好きで大事で、もうこの人しかいない! ……ってくらいの甘々なのが良いのにさぁ……みぃ~んな、回数を重ねたらアタシの体以外目に入らないみたいになってく」
そこまで言った星夏は盛大にため息をつき、俺の胸に顔を埋める。
急な密着に心臓の音が聞こえないか若干不安に駆られるが、ここで動揺しては彼女が安心して寄り掛かれなくなってしまう。
だからひたすら自分は壁だと暗示を掛けながら、慰めるためにその頭を撫でていく。
噂によって誤解されているが、本来の星夏は純愛主義の女の子だ。
一度だって快楽や金銭目的で男と付き合ったことは無い。
普通に手を繋いで、普通に抱き着いて、普通にキスをして、普通にセックスをする……幾人もの彼氏を経ても、星夏が夢見るのはそんなどこまでもありふれた普通の恋愛だけだ。
そのために彼女は、付き合った彼氏を生涯の相手として見合うかを審査する。
普段の会話から自分がいない時の態度、デートでの行動から、セックスすら審査基準に持ち込む。
今までフラれた男達の大半は、星夏が設定した審査で落第と判断された不合格者達なのだ。
特にセックスを審査基準にしている点にはかなりの批判が飛びそうだが、本人曰く『男はエッチの時に一番本性が剥き出しになる』らしい。
「ただ自分が気持ち良くなりたいだけのセックスなんて、オナホ使ったオナニーと何も変わらないよ」
全員が全員そういう訳ではないと思うが、少なくとも星夏の中ではそういう認識を抱かせる程に、元カレ達との情事は心無いモノだったようだ。
それもそのはずというか……噂につられるような男子は単にヤリたいだけか、童貞を捨てたいの二択しかない気がする。
かなり少数かもしれないが純粋に星夏を好きになって告白したヤツもいると思う……が、洩れなく彼女のエロい身体の虜になって心を蔑ろにしてしまうのがパターンだ。
あぁ、本当に──今まで彼女と別れた男達はバカばっかりだな。
どうしてこんなに可愛い星夏を、ただ自分の性欲を満たすためにしか見れないんだろうか。
彼女にも気持ち良くなって欲しいと思えば、あれだけエロ可愛く応えてくれるのに、我欲で突っ走るから嫌われるなんて、どうしようもなく勿体ないなと思った。
でも同時に、エッチで甘々な星夏を誰にも見られないで欲しいと願ってしまう。
あんなエロい星夏の姿を見るのは俺だけであって欲しい……他の男に身体を許さないで欲しい……。
そんな独占欲がどうしても湧き上がって来て、だけども知られてはいけないと蓋をする。
「皆がとは言わないけど、こーたみたいにちゃんとしてくれる人がいれば良いのになぁ~」
「……」
狙って言ったわけじゃないと解っていても、今の言葉に動揺してしまうのは恋心故だろう。
一瞬だけだが、今告白すれば念願が叶うかもしれないという考えが過った。
でもすぐに引っ込める。
星夏を好きな気持ちに嘘は無い。
ただ……噂のせいで俺の告白もヤリモクだと勘違いされそうな気がする。
それで俺も他の男と同じなんだと思われるのは嫌だ。
加えて今のようにセフレの俺は恋愛対象に思われていないだろうし、誤解されなくてもやっぱりまともに意識されないかもしれない。
そして何より告白が出来ない理由は……この関係が壊れて星夏がこの部屋に来なくなることだ。
俺は星夏と過ごす時間が幸せだと思っているからこそ、彼女がいなくなることに耐え難い恐怖を予感している。
いずれ星夏が望みを叶えたらそうなると解っていても、やっぱり嫌だと思ってしまう。
もちろんこれらが『女々しい』の一言で片付けられると理解している。
今のぬるま湯のようなセフレ関係ですら奇跡に等しく感じているからこそ、自分が星夏の恋人になりたい気持ちを高望みで留めているのだ。
「そういえばこーたは誰かいい人とかいるの?」
「なんだよ急に……」
だというのにコイツは平然とこんなことを尋ねる。
仮にここで『お前だよ』と言えたら、俺は女々しく悩んでないんだよ……。
大体、彼女を作ったらお前はここに来れなくなるだろ。
そんな呆れと、まだ好意に気付かれていない安堵に苛まれながらも理由を問う。
「ん~ふと気になったから。アタシから見て、こーたってかなり優良物件なわけ」
「なんだそりゃ」
本当にそうだったら目の前に節穴の持ち主がいるんだが。
「無愛想だけど聞き上手だし、女だからって決めつけたりしないし、何よりエッチがめっちゃ丁寧」
「最後。それってお前に色々仕込まれたからなんだが?」
「アタシが育てた! なんか良い響き!」
懐疑的な俺とは違い、星夏はやたら確信めいた面持ちで続ける。
しかし最後のは果たして素直に喜んで良いのだろうか。
いや、好きな女の子に褒められてるんだから、喜ぶべきなんだろうなぁ……。
「後ね、海森と違って本物の硬派っていうか、好きになった子を一生大事にしそう!」
「……それ、何の根拠があるんだ?」
「これまでの付き合いとアタシの勘!」
「……」
──あぁもう……彼女はどれだけ俺の心を揺さぶるつもりなのだろうか。
そこまで的確に人の性分を見抜く癖に、一番肝心なところが察せられていないポンコツっぷりがどうしようもなく可愛い。
こんな風にただ一緒に居られることが堪らなく幸せだ。
だから余計に告白出来ない気がするのだが……その信頼が心地良く思えて頬が緩みそうになる。
「……お褒めに与り光栄だな。まっ、今はそういうのに興味無いがな」
「え~勿体ないなぁ~」
──正確には、星夏以外の女子と恋愛する気は無いって答えだけど。
伊達に二年間片想いをしてきたわけじゃない。
そんな簡単に目移りするようじゃ、今頃セフレを続けられていないって。
心の中でそうぼやきつつ、日付が変わるまで星夏との談笑は続くのだった。
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