軌跡
Luculia
第1話
プロローグ〜拝啓、私〜
拝啓、未来の私へ
小さい頃、母が言っていた。
私には双子の弟がいて、その子は家で育てられないから孤児院に引き取られたんだよ…って。
だから私も、「その子の分も頑張らなきゃ」って思っていた。
自分の意志より親の言葉を優先させて、親の言いなりになっていた。今思えば、あの頃は辛かったな、毎日叱られて、殴られて、自分が自分では無くなっていって。
私って何なんだろう、どうして生きているんだろう。
こんなことを考えても、何も変わらない。本当に馬鹿だなぁ…。
未来の私、ごめんなさい。私はやっぱり駄目だったよ、何も出来なかった。だから今の私の分も頑張って生きてください。
グシャッ
私は手紙を握りつぶして溜息をついた。
なんでこんなもの残してあるの、こんな下らない手紙ーーーと呟いて、放り投げた手紙はそのままにして部屋から出た。
今更小さい頃のことを思い出したってどうにもならないのに…。今更考えたってもう終わったことなのに…。
終わったことを考えたって仕方がない。
足早に歩き、目の前にある部屋に滑り込む。
その部屋は私の弟、手紙に書いてある、世界でたった一人の肉親の部屋。
名乗り遅れたが私の名は風霧愛(かざぎり あい)。弟の名は命(みくる)。
この物語は私達の再会と、様々な状況の変化を描いた物語である。
それが私のもとに届いたのは7月のある夜。
施設の先生に勉強を教わっていたときだった。
「愛ちゃん!身内の方が1人見つかったらしいから今すぐ職員室まで来てちょうだい!!」
身内の方、というのが誰を指しているのかが分からなかった私は「行きたくない」と駄々をこねた。
泣きながら先生に手を引っ張られて職員室まで行ったのをよく覚えてる。跡がついたんだよなぁ…。
「愛ちゃん、落ち着いて聞いてね。愛ちゃんには生き別れの弟がいるの。その子は今、別の施設で暮らしていて、とても愛ちゃんに会いたがってる。だからーー会ってくれないかな?」
なんでそれを私にーー!!
「そ…れは、この施設から、天の川園から出ていかないといけない、ということですか?」
全身が震えて、上手く口が回らなかった。
先生は肯定も否定もせずに、ずっと私を見ていた。
「ーーー愛ちゃんは、ここから離れたくないよね、だけど、その子は愛ちゃんを頼りたいと思ってる。だから…どうかお願いします」
園長先生まで頭を下げてきた。
私はこの空気から逃げ出したくて、思わず言ってしまった。
「いい…ですよ。私も…会ってみたいし」
言った途端、なにかが込み上げてきて思わず目を伏せた。
気付くと、熱い液体が目から溢れ出ている。
「…にこれ、涙……?私泣いてなんか…ッ!!」
「愛ちゃん!!」
先生がいきなり抱きついてきた。なんだろうと思い顔を見てみると、先生も泣いている。
「私達の勝手で愛ちゃんの未来を決めてごめんなさい。ただ、私達は愛ちゃんを大切に思ってる、それはどこにいても変わらないから」
今まで誰のことも信じられなかった私にとって、その言葉はとても嬉しかった。
存在する意味を作ってくれた気がした。
私は右手で涙を拭い、先生に向き直った。
「先生、今までありがとうございました。私がここに来てから先生とした会話、行った場所、決して忘れません。」
言っているとまた涙が溢れそうになり目を逸らした。
先生達も涙を溢れさせている。
「…元気でね、弟さんにもよろしくって伝えて」
私は満面の笑みで、「はい!!」と答え、天の川園を卒園した。
「……ここどこ?」
私は知らない部屋の寝室で目覚めた。
今までのことを何も覚えていない。
額の汗を拭って溜息をつくと、何かを思い出せそうな気がして思わず辺りを見回した。
コンコン
ドアを叩く音がして、直後に「入ってもいいですか?」という声…男の子の声が聞こえた。
「ど…うぞ?」
反射的に返事をして我に返った。
……なんで返事しちゃったの…。
カチャン
「体調どうですか?楽になりましたか?」
入ってきたその子は私のことを心配しているのか目を伏せてそっぽを向いている。
「なんか…驚かせてしまってすみません。僕は風霧命です。貴女の…双子の弟です」
…え!?なに、双子の弟って言った…?
いやそもそもそんなことありえないし、こんな美少年と……!!
私は信じられないような目で彼を見た。
「嘘…ですか?私には姉弟なんてーー」
呼吸を荒くして詰め寄ると彼は私を憐れむような目で見て、涙目になった。
というか私は今まで何をしていたんだろう。
ずっとここにいた…とかは考えづらいよね。
「あのーー命くん、はどうしてここに?」
命くんは「それすらも覚えていないのか」という顔をして目を逸らした。
そんな態度じゃ分かんないよ…と思っていると突然話し始めた。
「貴女…愛さんは…今現在の時点で…記憶障害になっています」
「…え?」
軌跡 Luculia @Luculia_01
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