海辺のフロート

澄岡京樹

海辺のフロート

海辺のフロート


 朝の日差しが溶ける海。それを眺めてちゃぷちゃぷと。私は浜辺に座り込み、足を海に浸けていた。∞月も半ば。20001年の夏は、まだまだこれからだ。


 人類が電脳世界にその身を移して早幾億。とはいえ体感時間は引き延ばされており、そんなに経ったのかと驚く人はわりと多い。しかも私がいる場所は、常夏サーバ『無限夏エンドレスサマー』。体感時間を無限に引き伸ばし続けることができるそこは、他サーバにおける数日間で、数百年滞在したことになる。そのため、息抜きリゾートスポットとして大人気


 今は寄りつく人もなく、私はここでただ一人。

 ……あれはいつのことだったか。——そうだ。あれは我々を乗せた母船に外来種エイリアンが取り付いた時だった。防衛用巨大人型兵器〈フロート〉で迎撃に出たものの、そのエイリアンもまた電脳世界に干渉できる存在であったため、干渉を受けた私はそのまま無限夏サーバエンドレスサマーに誤アクセス。これを緊急事態ヤバいと見た政府、無限夏サーバから人をもうすぐ秋だと退避させ、無限会議室での擬似無限議事の末、無限夏サーバの切り離し夏の終わりを決定した。


 そんなこんなで幾百年。私はぼんやり海を見る。体感時間から察するに、そろそろ切り離しの頃合いだろうか。エイリアンは無限夏内部海上決戦で倒したけれど、脆弱性の観点から、このサーバはこのまま切り離されるのだろう。それはも同じこと。だからここでのんびり過ごすことにした。兵役は終わったのだ。


「こちらフロート5号機。永い夏季休暇を取得します。それでは」


 海辺で脚部をちゃぷちゃぷと、私は夏と共に散る。ガラクタマシンの夢の跡、真夏はどこへ過ぎるのか——


海辺のフロート、了。

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海辺のフロート 澄岡京樹 @TapiokanotC

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