第54話 ふるさと防衛戦④

 村の前で、ミシア・セイバは立ち止まった。俺達は崖に伏せて身を隠しながら、彼女の様子を伺うことにした。その距離は十メートルほど。余計な音を立てれば、バレる。俺は息を殺した。


「ここ、か」


 彼女は村の様子をその場から眺めていた。


「……いい村じゃないか。嫌いじゃあ、ない」


 そういうと、彼女はその肩に担いだ大剣を地面に突き立てた。切っ先が大地につきささり、ビクリとも動かない。


 ――あの剣。なんて質量だ。それに、あの強度……高ランク武器に違いない――


 その音を聞きつけたクラスの女子が、顔を出す。


「今なにか音がしたような……ひっ!」


 しかしその女子の表情は、ミシアの姿を見るなり恐怖に歪んだ。


「よう。この村の代表はいるか?」

「……ひ、……ひぃ!」


 女子は転びそうにながら村の奥へと消えていく。


「……シカトとはな。こりゃあ、マトモじゃあないかもね」


 そう言ってミシアは両手拳をゴリゴリとならしている。


 ――クソ、あいつ、何やってるんだよ! 普通に対応すればいいだけなのに!


 俺はその危なっかしい対応を見て心臓がバクバク言っている。しくじれば、あの大剣の餌食になってしまうというのに!


 そんな俺の心情を察してか、ユーリィンが俺の肩に優しく手を置いた。我慢しろ、ということらしい。もちろん、そんなことはわかっているが……


 やがて、村の奥から続々とクラスメートが出てきた。その構成は戦闘中心のメンバーで、その中には、武重たけしげと、あの東条とうじょうがいた。


 ――東条。クラス委員で、俺を追い出した、中心人物。変わらずクラスをまとめているのか――


「お、おい、人だぞ……?」

「この世界にも人がいたのか……?」

「あいつ、武器もってるぞ!」


 その一団がミシアを認めてざわつき始めた。

 無理もない、彼らはこの世界の人を見たことが無いのだから。

 それにしても、その最初の人がミシアとは……あいつらも、運が無い。


「よう。この中に代表はいるか?」


 そのミシアの一言に、一団は戦慄した。


「しゃべっ……た……!」


 武重が指を指して口をあんぐりしている。


「おいおい、随分な挨拶だな。人なんだから喋るに決まってんだろうが。ゴリラかなんかと思ってんのか?」


 ミシアがそう言いながら一歩前に出ると、その瞬間、クラスの連中は一気に戦闘体勢を取った。


「く、くるな!」


 武重が恐怖のあまり、剣を構え、切っ先をミシアに向けている。ミシアは半眼で武重に睨みを効かせている。


「なんだ? その剣は。喧嘩売ろうってんなら、あたいにも考えがある」

「う、っくっ!」

「まて武重! 手を出すな!」


 そこで、ようやく東条が口を開いた。


「お前、何者だ」


 東条は腰を深く構え、いつでも斬りかかれる体勢を取っている。


「――ミシア・セイバ。そんだけ言えば十分だろ?」


 しかしミシアの問に、だれも答えられない。クラスメート達は顔を見合わせている。


「なんだぁ? あたいを知らないってことは、相当な田舎もんか、世間知らずってもんだ。――話にならないな。早いところ、代表を連れてきてれ。こちとら、暇じゃないんでね」


 その言葉に、東条が剣を構えながら、一歩前にでた。


「お前は?」

「――東条だ。ここのまとめ役をやってる」

「まとめ役?」


 そういうと、ミシアはしばらくして、盛大に吹き出した。


「冗談はよしておくれよ。村のまとめ役に、お前みたいなガキに務まる訳ないだろう。そういえば、どいつもこいつもガキばかり……同い年か? 大人はどうした、中にいるんだろう?」


「……大人はいない」


「あ? 狩りにでもでかけてんのかい? だが全員でって訳じゃないだろう?」


「――この村には最初から僕達しかいない」


「……おふざけがすぎるね。それとも、何か、隠したいものでもあるのかい」


 その問に、誰も答えない。


 ――彼らは嘘は言ってない。

 だが、コミュニケーションが絶望的にうまく行っていない。ミシアの気迫にすっかり怖気づいてしまっている。ミシアもミシアでそれを和らげようという配慮は見られない。


 一触触発。まさにそんな状況だ。


「悪いけど、あたいはガキの遊びに付き合ってやるほど、暇じゃあないんだよ。早いとこ、お前達の代表にあって、話をツケなきゃならないんだよ。そういう訳で、通らせてもらうよ」


 ミシアは大剣を地面から引き抜き、肩で担いで歩き出した。

 村の入り口付近にある、一番大きな建物。いかにも村の中心的に見えるそれに、ミシアは真っ直ぐに歩き始めた。――おそらくあの中には、戦闘が得意ではないクラスメートが隠れているはずだ――


「まて!」


 武重と東条がその進路を塞ごうと前にでる。


「それ以上進むと……斬るぞ!」


 しかし、ミシアは進むのを止めない。

 

 ――まずい――。

 そう思った、次の瞬間だった。



「ファイヤーボール!」

 


 その声は、クラスの魔法スキルの得意な女子が発していた。

 一瞬のうちに小さな火球が生成され、それはミシア目掛けて真っ直ぐに飛んでいく!


 ――命中する!



 しかし次の瞬間。

 ミシアは大剣を構えたかと思うと、その火球を大剣の腹で受け止めたのだ。


「――!」

 

 火球はそのまま弾けるようにして上空に飛んでいく。


 ――そしてそれは、村の粛清が決定したことを意味していた。


「なんだい、今のは。それであたいを殺そうってのなら、随分となめられたもんだね」


 ミシアはそういった後、魔法を放った女を睨みつけた。


「――だけど、殺意は伝わったよ。どうやら、やるしかないみたいだね」


 そしてすごい気迫がミシアから放たれる。



「最初に死にたい奴からかかってきな」



 ミシアが大剣を肩に担いだまま深く腰を落とし、片手で挑発している。――そして最初につられたのは、武重だった。


「うわぁああ!」


 武重が斬りかかる。恐怖に支配された幼稚な攻撃は、ミシアの大剣によっていとも簡単に防がれ、そして剣は真っ二つに折れると共に、武重の手から吹き飛んでいった。その衝撃で、ミシアのすぐ前で仰向けに転倒してしまった。 

 そこへまさに今、ミシアの大剣が、振り下ろされようとしていた。


「わるいな。これも仕事なんでね」


 ――だが次の瞬間。


「!!」


 ミシアは咄嗟とっさにバックステップして距離を取った。ミシアが元いた場所には、矢が突き刺さっていた。


「誰だ!」


 ミシアはその矢の軌道から、すぐに放った相手を特定した。

 その視線の先には――崖の上で弓を構えるユーリィンの姿があった。



 ――そして。



「……あれはお前の連れかい」


 武重とミシアの間に、割って入るようにして飛び降りてきた男がいた。


「……名乗りな」


 俺はミシアの前に立ち、言った。


「――イツキ。悪いけど、この争い、止めさせてもらうよ」

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異世界美少女攻略紀 ~クラスで転生 俺だけランクアップが美少女攻略~ ゆあん @ewan

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