ケンタロンランペイジ その5
駆け抜け一気に迫る相手の気配。全力の一撃を加える激しい衝撃。後からついてくる虹色に変色した世界。戦いに賭ける者だけが到達できる境地がそこにはあった。
「これが最後の一撃、ナベルタ秘険!
巨体の懐深くに飛び込んだ、きらめく無数の刃は長剣の斬撃をすり抜ける。歴戦の技で身を
「このぉ! わたしが勇者なんだって!」
ケンタロンは追撃の突きを引き込み、いなしながら、作り出したナベルタの隙に併せて長剣を振りかぶる。それでも怯まなかったナベルタが交錯する。
「しまった、殺してしまう!」
振り下ろす長険の挙動はもはや押さえられず、彼女の体に吸い込まれるように見えた。
その時、前後すら解らなくなるほどのまばゆく音の無い閃光が炸裂し、広場を包む。
「くっ、目くらましの魔術か」
不自然な波長の光は自然の物では無く、魔法科学、アルケミストテクニックと呼ばれる、魔術が作り出した光だ。
「待って! 待ってください勇者様! 殺してはなりません」
まだ光の衝撃から立ち直れない村人の輪をかき分け、ローブ姿の女が広場の中央に向かって進んでいく。
「フーラか、なぜおまえが、この目くらましもおまえが」
「宮廷魔術師、フーラ・パロイラです。勇者様、姉としてでは無く、希望公配下として参りました。ケンタロン十二候を殺してはなりません。十二候は忠臣として支える者。希望公の解放を果たした後も、必要な方なのです」
ナベルタの険がケンタロンの脇腹を貫き、
「もう終わったのです、これは姉として」
フーラはゆっくりと短刀の柄に手をかぶせ、ナベルタの姿勢を解く。
「フーラ……貴様何を……騎士ナベルタは……」
「どうか、勇者様、十二候を殺さないで」
「命乞いなどと、フーラいくらおまえでも無礼だぞ」
「わたしの、お姉さん……」
「十二候、ナベルタは私の妹ですが、騎士ではありません、エコーオブラストブレイズ。勇者ナベルタなのです。」
「貴様、命乞いなどと言っている」
さらに語尾を強め詰め寄ろうとするケンタロンだったが、ふらついたところを老剣士に支えられる。
「候、決着ありました。その怪我ではお命にも関わる。フーラの申す通り、候はここで
老剣士が持ち込まれた酒樽にケンタロンを座らせる。
「敗れ……たのか……そうか……友よ。だが気分は良い、ついに我らは見つけたのだな、そうか……勇者ナベルタよ」
胸甲の接合に当てられた手は、流れ出した血潮で濡れた。駆け寄る部下達を待ての合図で制止すると、控える老兵から一振りの両刃剣を受けとる。それはナベルタの持つ芋父の短剣よりも一回り太く、切っ先はずっと鋭かった。
「希望公に成り代わり、勇者の険を授ける。
強く促され、戸惑いながらもナベルタは
「魔法の険、これが勇者の証なの?」
「フォーレンヒーローズエグゼキューター。かつて世界を救った勇者二十五人の勇者の一人が使っていた険の複製品だ。それがあれば、越境橋を渡れるはず。勇者ナベルタよ、叶うならば希望公を救出、いやせめて解放して欲しい。あの魔の都たる王都の永遠なる責め苦から」
「希望公は王都北方城塞、閉ざされし時の回廊に捕らわれているのだな」
井戸の中から不器用に這い出しながら言った。
「貴殿何者だ? なぜ井戸の中から現れた。それに回廊の事はここにいる者でも数人しか知らぬはずだ」
「キノコの勇者様です、十二候」
フーラの助言に、広場の村人達も口々に声を上げ始める。
「あのキノコの、キノコ狩り名人だ」
「薬用魔法キノコのおかげで、元気が出たのよ」
「キノコ狩り名人。まさに我々にとってはキノコの勇者様だ」
「十二候、配下の者達の王都で受けた精神汚染が近頃弱まったのも、彼が大量採取した薬用魔法キノコのおかげなのです」
フーラは村人達を見回し、ケンタロンを仰ぎ見る。
「そうであったか、私からも礼を、キノコの勇者よ」
そして、村人達が落ち着くのを待ち、キノコの勇者は話を続ける。
「勇者が現れるとされた日、勇者は現れなかった。現れない場合は第一王子が継承する事になっていたけれど、勇者の険を授与する役割をもつ希望公は、第一王子への授与を拒否、
別の種類のざわめきが起こり始める。緩やかな動揺と、驚き、そしてかすかな期待が人々を包む。
「すべてを知り、我らを奮い立たせるため薬用魔法キノコを採取していたのだな。なぜ遣わされたのかはもはや聞くまい。で、キノコの勇者よ、希望公を救えるのか?」
「僕たちならば、きっと」
広場に歓声が上がる。それは村が建立されてから一度も無かった喜びのうねりとなった。
「うむ、また墓場までの距離はありそうだな! 希望公配下の者達よ、勇者ナベルタとキノコの勇者の出立を祝おうじゃじゃないか」
「候、まず怪我の手当を」
「そうですよ十二候。私がお薬をお持ちいたしますので」
「候の手当が終わり次第、おびえた羊亭で二勇者の宴を。お二方必ずおこしください」
老剣士とフーラは一礼し、巨体を担ぎながら広場を退場する。
「ちょっと、どういう具合になっているのさ、なんだか納得し切れてない感じがするのだけど。突然の姉登場とか、希望公が捕まっているとか、そんな事知っているなら最初に教えといて」
ナベルタが小声で詰め寄った。
「改変されているんだ。最終バージョンのアドベンチャラーズエンドの流れじゃないんだよ。フーラが宮廷魔術師としてスポウンするまで解らなかったんだけど、削除されたはずの、三沢さんが創ったドラマチック愛憎劇RPG要素が復活している」
「ドラマチック愛憎劇RPG要素、それ面白そうなんだけど」
「初期の頃、シングルRPGとして開発されていた時の企画だ。三沢さん、囚われの希望公のお話の思い入れが強くて、MMO路線に変更になった後もなんとか残そうしてたもんな。三沢さんは僕の先輩。僕が参加する前のレベルデザイナーリードだった人だ」
「で、希望公を救出できるの?」
「王都北方城塞はラストダンジョンにかなり近いステージだ。すごく厳しい戦いになる」
「ええ! 初期村から一気にラストダンジョン付近、わたしやれるかな……」
「王都北方城塞は僕がデザインして、ランチ前のパックまで僕がやったんだ」
不安になりのぞき込むナベルタを不敵な笑みで返す。
「なんだかもう嫌な予感しかしない。言わなくていい、もう聞きたくないから。ナベルタをグリッジに巻き込まないでよ」
「なんだよそれ、僕だってゲームが大好きなんだ。まるで悪者みたいじゃないか。ケンタロンとの一戦。あのときだって斜めチャージをすれば怪我をせずに済んだ。だいたいPvPじゃないんだろ? NPCならいいじゃないか。RTAのEスポ世界戦だってあるだろ? TASで完全に進んだっていいはずだ」
(注 RTA リアルタイムアタック:プログラム改変すること以外、バグ利用、ハードウエア改造チートまで許される早解きタイムアタックの事。
(注TAS ツールアシステッド:ソフトウエアチートなど外部ソフトウエアでゲームに介入し、人間では実現不可能なベストなプレイヤーキャラクターの動きを実現させる事。
「そんな事言ったって……もう平行世界は創造され始めてて。それに…」
早口でまくし立てるキノコの勇者に気圧され、たじろぐ。
「ケンタロン達も、スクリプトだって、神様的な能力で操作されているんだろ? ゲームコンソールの代わりにさ」
「ちがうよ…わたし……解ってよ」
「う……ごめんよ、強く言いすぎた。早く終わらせてこの世界を脱出しようって思っただけなんだ」
盾を持つ手の出血はまだ収まっていないことに気がつき、慌てて助けを求める。
「大丈夫かいナベルタ? 誰か手当を!」
近くの村人が治癒術士をであると名乗り出て、駆け寄って来る。
「まったくどうなっているんだ、この自世界は。最初から勇者の選択がされていなかった理由は何らかの改変干渉による異変だったとしても、インスト不足じゃないか」
「うっ……ごくり」
「転生前の神様の面接的なやつもなかったしな」
「んんもおおおおおぉ! わかったよ、わかったよもう。そんなに面接的なのが大事だったなんて思ってなかったから。後でやるから……わたしが悪かったよ。悪かった……よ」
「わわわっ、ナベルタっ」
言い切る前に
「すっすごい血だ! 大変だ、ナベルタ……うわぁ怪我がすごい……フッ」
肩を抱いたキノコの勇者だったが、普段見慣れない怪我を実感し、ひっくり返ってしまった。
「キノコの勇者まで気絶したぞ! 治癒術士はやくしてくれ」
中央広場はでの
◆次回予告◆
初期村スァラアシャを旅だった二人の勇者は、越境橋の結界を超え王都へと向かう。
神様の面接的なものを再現しようとするナベルタは、キノコの勇者に悪夢を見せてしまうのだった。
次回 中の人の自世界転生 【悪夢の王都 STG_330】
「エクスプロイトするとバンされちゃうぞ!」
つづく ★またみてね★
*感想・レビュー・評価など、少し思ったことでもかまいませんのでよろしくお願いします! 執筆の元気になります*
中の人の自世界転生 ~エクスプロイトで勇者となれ~ 々 六四七 @topologic_dream
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