~エピローグ~

 部活もなくなったので、陽愛を家まで送り、急ぎ足で帰路に着く。

 家に帰ると、すぐに制服から私服に着替えて、早速料理に取りかかる。ケーキは今年は作る時間が少ないので、予めスポンジはもう買ってきていた。

 まずは、ミートローフを先に作る。オーブンで焼いている間にケーキの方も仕上げていく。肉のいい匂いが台所から漂う。お腹が空いてきた。

 時計を見ると夕方の5時。そろそろ上2人が帰ってくる時間だ。何とか間に合った。最後にサラダを作ろうと冷蔵庫を開ける。だが、頭の中が肉料理のことでいっぱいで、野菜を買うのを忘れていた。

「まずい……」

 つい独り言を言ってしまう。今から買いに行くには時間がない。どうしたものかと考え込んでいると玄関のドアが開く音がした。

「ただいまー。……あれ?陸空、帰ってるの?」

 スリッパのパタパタという音と共に、リビングのドアが開き、海未が顔を覗かせた。両手を後ろに隠して、不自然な体勢で入ってくる。

「おかえり、海未姉」

「ただいま。部活は?」

「顧問が早退して、無くなった」

「そっか」

 返事をしつつも、目線が台所の方へ向いている。ミートローフの匂いがリビングまで充満しているので、気付いているだろう。海未が困惑したような表情で言う。

「陸空、ごめん。作ってくれたの?」

「うん、美味しいもの食べさせたいと思ったから」

「ごめんね、ありがとう。実は……ローストチキン買っちゃった」

 後ろに隠していた袋を俺の前に出す。中には野菜とパックされた小さめのローストチキンが入っていた。

「あ、野菜。丁度サラダを作ろうと思っていたから、ありがたい」

 そう言って、袋を受け取る。彼女は少しほっとしたような顔をする。

「今朝はごめんね。くだらない喧嘩して」

「いいよ。好みは人それぞれだし」

「それといつも美味しい料理作ってくれてありがとう」

 しっかりと目を見つめられて、礼を言われると少し照れ臭い。つい、癖でふいと目をそらす。その時、また玄関のドアが開く音がした。

「ただいまー」

 蒼空だ。袋のガサガサとした音がやけに大きく聞こえる。しばらくして、リビングのドアが開く。

「あれ、俺が最後だったか」

「おかえり」

「おかえりなさい」

 蒼空は手にしていた大きめの袋をテーブルの上に置いた。海未と顔を見合わせて、袋の中を覗こうと近づく。

「フライドチキンの旨い店、友達に教えてもらって買ってきた。後、飲み物も」

 手を頭の後ろに置きながら、彼は言った。その仕草は、彼が照れている時によくやる。

 フライドチキンは出来立てのようで、いい匂いがする。そして、陸空の手にしている袋を見て、蒼空は目を見開く。

「もしかして、肉買ってきてた?」

「ああ、これは私が買ってきたの。ローストチキン」

「で、俺はミートローフ作ってる」

「え……」

 3つの肉料理が揃ってしまった。3人は顔を見つめ、次第に誰からともなく笑い出す。

 ひとしきり笑いあった後、オーブンの焼き上がり終了の音がした。

「今年は、盛大なパーティーになるね」

「だな。陸空、今朝はごめん。いつもご飯旨いよ。ありがとう」

 また、笑いが込み上げてくる。海未も口元を押さえている。

「え、俺なんか変なこと言った?」

「いや、姉弟だなーと思って」

 そう言って、2人の買ってきてくれた袋を持ち、台所に行く。自然と笑みがこぼれた。

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チキンかミートローフか 玉瀬 羽依 @mayrin0120

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