第3章 ミートローフ派~陸空ver~

「りーく?」

 ふと我に返ると、彼女が自分のことを間近で見つめていた。

「うわっ」

「うわっ、じゃないよ。何考えてたの?ぼーっとして」

 心配そうな表情で顔を覗き込まれる。彼女は、同級生のたちばな 陽愛ひより。そして、俺の彼女だ。彼女とは、同じ部活で知り合った。サッカー部に彼女はマネージャーとして、一緒に入部した。いつも笑顔で、芯の強い所に惹かれた。どことなく姉に似てるかもしれないと、ふと思った。身長は姉の方が高いが、髪がロングで目が大きいところや性格とかは似ている。

 終業式が終わり、部活の始まる時間が遅くなったので、2人でゆっくりと教室でお昼を食べてるところだった。

「どうしたの?今日なんか変だよ。お弁当作り忘れるし」

 彼女は、俺のコンビニ袋の中を覗きながら、首を傾げる。

「今朝、ちょっと色々とあって」

「お姉さんたちと?」

「うん、何で分かったの?」

 時々、彼女は勘が鋭い。下手に隠し事はできないなとつくづく思う。まぁ、隠すほどのことは何もないけど。

「いつも1日1回は、お姉さんやお兄さんの話をするのに、今日はないから」

「え、俺そんなに話してた?」

「自覚なかったの?毎日、話してるよ?」

「まじか……」

 自分でもシスコン·ブラコン気質なのは自覚があった。が、毎日話していたのは無意識だった。まだ陽愛になら、引かれることはないが他の人たちなら普通に引いているだろう。新たな事実の発覚に、ついため息がこぼれる。

「こらー、幸せが逃げるぞー」

 陽愛は、いつものようにクリームパンを半分に千切って、俺の方へ差し出す。

 彼女の家は、自営業でパン屋を営んでいる。どのパンもとても美味しくて、我が家でもよく買っている。中でも1番は、名物のクリームパンの味は格別だ。甘すぎず、くどすぎないのだ。料理担当としては、いつかパン作りにも挑戦してみたいと密かに思っている。

 彼女から半分に千切られたクリームパンを受け取り、頬張る。

「やっぱ、旨い」

「お粗末様です。話、聞くよ?」

 そう言って、彼女はきちんと座り、聞く態勢を整える。律儀にちゃんと聞く姿勢を作るところも好きだ。クリームパンを食べ終えてから今朝あった話をする。相槌を打って聞いてくれるので、話しやすい。

「そっかぁ。お姉さんたちのチキン争いか。陸空は、何でミートローフなの?」

「作るのが、簡単だから」

「本当にそれだけ?」

 彼女はしっかりと目を見てくる。この真っ直ぐな瞳には本当に敵わない。

「ミートローフは、俺が初めて作った料理なんだ」

「へぇ!それは思い入れがあるね。ミートローフって初めて聞くけど、どんな食べ物なの?」

「ハンバーグの材料で作れて、丸めないでそのまま皿に入れて、オーブンで温めるだけ」

「思ったより簡単!」

「けど、2人はチキン派だから」

 彼女は少し考えるように顎に手を当てる。そろそろ部活が始まる時間だ。俺はお昼のゴミを集めて、ビニール袋に入れていく。その時、同じ部活メンバーの1人が部活が無くなったことを知らせに来てくれた。

「顧問が体調崩して、早退したから今日は部活なしだって」

「え、まじか。おけ、サンキュー」

 メンバーが教室を出て行った後に、やっと陽愛が口を開いた。

「陸空、ミートローフ作りなよ」

「え?」

「思い入れのある料理なら、作った方がいいよ」

「でも……」

 彼女の提案に戸惑う。今朝、料理をしないと啖呵を切った手前、作るのに抵抗がある。だが、陽愛はその気持ちを察したのか、俺の手を握る。

「仲直りしたくないの?」

 その言葉に思わず目を見開く。その時になって、やっと自分の気持ちに気が付いた。仲直りしたかったのだ、自分は。それに彼女は気付いて、背中を押してくれた。

「陸空は仲直りしたいんでしょ?」

 もう一度彼女が言う。俺は彼女の手を握り返し、頷く。

「だったら、陸空がやるべきことは決まってるじゃん」

 そう言って、笑う。いつも彼女は言って欲しい言葉を必ずくれる。本当に自慢の出来た彼女だ。

「陽愛、いつもありがとう」

「明日のデートで、たくさん甘やかしてくれたらいいよ」

「分かった。楽しみにしてて」


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