第3章 ミートローフ派~陸空ver~
「りーく?」
ふと我に返ると、彼女が自分のことを間近で見つめていた。
「うわっ」
「うわっ、じゃないよ。何考えてたの?ぼーっとして」
心配そうな表情で顔を覗き込まれる。彼女は、同級生の
終業式が終わり、部活の始まる時間が遅くなったので、2人でゆっくりと教室でお昼を食べてるところだった。
「どうしたの?今日なんか変だよ。お弁当作り忘れるし」
彼女は、俺のコンビニ袋の中を覗きながら、首を傾げる。
「今朝、ちょっと色々とあって」
「お姉さんたちと?」
「うん、何で分かったの?」
時々、彼女は勘が鋭い。下手に隠し事はできないなとつくづく思う。まぁ、隠すほどのことは何もないけど。
「いつも1日1回は、お姉さんやお兄さんの話をするのに、今日はないから」
「え、俺そんなに話してた?」
「自覚なかったの?毎日、話してるよ?」
「まじか……」
自分でもシスコン·ブラコン気質なのは自覚があった。が、毎日話していたのは無意識だった。まだ陽愛になら、引かれることはないが他の人たちなら普通に引いているだろう。新たな事実の発覚に、ついため息がこぼれる。
「こらー、幸せが逃げるぞー」
陽愛は、いつものようにクリームパンを半分に千切って、俺の方へ差し出す。
彼女の家は、自営業でパン屋を営んでいる。どのパンもとても美味しくて、我が家でもよく買っている。中でも1番は、名物のクリームパンの味は格別だ。甘すぎず、くどすぎないのだ。料理担当としては、いつかパン作りにも挑戦してみたいと密かに思っている。
彼女から半分に千切られたクリームパンを受け取り、頬張る。
「やっぱ、旨い」
「お粗末様です。話、聞くよ?」
そう言って、彼女はきちんと座り、聞く態勢を整える。律儀にちゃんと聞く姿勢を作るところも好きだ。クリームパンを食べ終えてから今朝あった話をする。相槌を打って聞いてくれるので、話しやすい。
「そっかぁ。お姉さんたちのチキン争いか。陸空は、何でミートローフなの?」
「作るのが、簡単だから」
「本当にそれだけ?」
彼女はしっかりと目を見てくる。この真っ直ぐな瞳には本当に敵わない。
「ミートローフは、俺が初めて作った料理なんだ」
「へぇ!それは思い入れがあるね。ミートローフって初めて聞くけど、どんな食べ物なの?」
「ハンバーグの材料で作れて、丸めないでそのまま皿に入れて、オーブンで温めるだけ」
「思ったより簡単!」
「けど、2人はチキン派だから」
彼女は少し考えるように顎に手を当てる。そろそろ部活が始まる時間だ。俺はお昼のゴミを集めて、ビニール袋に入れていく。その時、同じ部活メンバーの1人が部活が無くなったことを知らせに来てくれた。
「顧問が体調崩して、早退したから今日は部活なしだって」
「え、まじか。おけ、サンキュー」
メンバーが教室を出て行った後に、やっと陽愛が口を開いた。
「陸空、ミートローフ作りなよ」
「え?」
「思い入れのある料理なら、作った方がいいよ」
「でも……」
彼女の提案に戸惑う。今朝、料理をしないと啖呵を切った手前、作るのに抵抗がある。だが、陽愛はその気持ちを察したのか、俺の手を握る。
「仲直りしたくないの?」
その言葉に思わず目を見開く。その時になって、やっと自分の気持ちに気が付いた。仲直りしたかったのだ、自分は。それに彼女は気付いて、背中を押してくれた。
「陸空は仲直りしたいんでしょ?」
もう一度彼女が言う。俺は彼女の手を握り返し、頷く。
「だったら、陸空がやるべきことは決まってるじゃん」
そう言って、笑う。いつも彼女は言って欲しい言葉を必ずくれる。本当に自慢の出来た彼女だ。
「陽愛、いつもありがとう」
「明日のデートで、たくさん甘やかしてくれたらいいよ」
「分かった。楽しみにしてて」
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