76話

「「おぉ……!」」


 俺も花ちゃんも目を輝かせてパンケーキを見る。

 花ちゃんの頼んだものは、シンプル故に食欲をそそるもので、フカフカのパンケーキと少し溶けたクリームの匂いが漂い思わず身を乗り出す。

 続いて俺の注文したものが届く。


「うわっ、すげぇ」


 散りばめられた夕張メロンが光に反射してキラキラと光り、クリームとメロンソースが絶妙な化学反応を起こし、匂いだけで味が想像できる。


 俺たちは、顔を見合せ、パクりと食べる。


「「はぅ……」」


 突如暴力的な甘さが口の中を蹂躙して回る。

 美味しい。これほどまでに美味しいパンケーキを食べたことのない。


「ねえ、シェアしよう」

 

「あ、忘れてた」


 半分ほど食べてそう声をかけられた。

 あまりの美味しさにシェアなんて言葉を忘れていたほどだ。あー、これは麻薬だな。中毒性がある。


「もぅ、ほら、口開けて?」


 忘れてた発言に口を尖らせて抗議すると、次に、一口サイズに切ったパンケーキをフォークで俺の口に運ぼうとした。


「ちょ、花ちゃん!?」


 これは俗に言うのあーん、というやつでは!? 待て、ハードルが高い。しかも、この現場でやったらカップルみたいじゃん!!


「ほら! 良いから口開けて!」


 よく見ると、フォークはプルプルと震えていて、花ちゃんの顔も赤い。

 

「恥ずかしいならやらなければ良いのに……」


「は、恥ずかしくなんかないから!」


「説得力ゼロだぞ」


「うっ……。ほら! 良いから!」


 すると、無理やり距離を詰めてきた。危な!? 君、フォークなの忘れてない?

 ……仕方ない。食べるまで止まらなさそうだし……


 恥ずかしさを押し殺してパクりと差し出されたパンケーキを一口。

 おいこら、クララが立った! みたいな表情してるんじゃねぇよ。

 達成感か何か知らないけど嬉しそうだから、一先ず良しとしよう。


「どう?」  


「美味しい」


「でしょ。じゃあ、ほら私にも」


 口を指差しす花ちゃん。

 え゛。俺にもやれと?

 驚くまもなく、ほら早くと口を開ける花ちゃん。こ、こんなだったっけ、花ちゃんって!?


 くっ! ええいままよ!


 意を決してパンケーキを口に放り込ませる。

 花ちゃんは満足そうに微笑むと、唇に付いたクリームをペロッと舐めて言った。


「うん、ご馳走さま♪」


「ぐはっ……!」


 その仕草にやられた俺は、カフェのテーブルに突っ伏す。

 きょ、今日の花ちゃんは何かおかしい……!

 危険だ……実に危険だ……


 具体的に何が危険かというと、やることなすことあざとくて可愛いんじゃ!

 女人耐性無い俺を殺す気かよ……


 そんな俺の心境を知るわけ無い花ちゃんは、俺を見てずっとニコニコとしていた。



☆☆☆




 パンケーキを食べ終わり、店から出ると、花ちゃんがショッピングに行かない? と誘ってきたため受けた。


 雑貨屋に行ったり、服を見たり、ゲームセンターで遊んだりして、相変わらずあざと可愛い花ちゃんには少しドキドキした自分がいたけれども、何とかやり過ごし時間が経った。



 夕方になり、もうすぐ帰るかという頃。事件が起こった。


 ベンチに二人で座り雑談していたのだが、時計を見た花ちゃんが残念そうな顔をしながら告げた。



「あ……。そろそろ時間だね……。帰る?」


「そう、だな。帰るか」


 と、思って、よしっ、と思い切り立ち上がった時だ。


 ビキッ。

 腰から鳴ってはいけないような音が鳴った。

 そして、激痛が走る。


「ぐっ、お、おぉ……こ、腰が……」


「え!? なぎくん、大丈夫!?」


 慌てて心配してくれたがそれどころじゃない。伸ばした状態で腰をヤっちまったせいか一切曲げることができない。

 というか、立ってるのもツラい。


 こ、これは……ぎっくり腰か……? いや、そんな年じゃないだろ。俺の椎間板はそこまでやわじゃねぇ!


「ど、どうする!? 救急車呼ぶ!?」


「だ、大丈夫……。少し休んだらタクシーで病院行くから……」


「でも、休むとこなんてないよ?」


 確かに……。

 ショッピングモールの中だが、休憩室は見かけてないし、あったとしても動きたくない。


「べ、ベンチに横になるしかない……」


「えぇ!? でも、硬いしもっと酷くなるよ?」


「カバンを腰の下に入れれば……」


 買った服も中に入ってるし、ちょっと柔らかいからギリギリいけるはずだ。


「でも、それじゃあ頭が……。うーん。そうだ! なぎくん。今すぐ横になって!」


「あ、あぁ」


 元よりそうするつもりだったし、俺は指示に従う。

 四人用で、かなり幅はあるから安心して横になれる。占領してしまうのは申し訳ないけど。


 俺はゆっくりとベンチに横になり、カバンを腰に入れる。


「ぐっ……」


 やはり痛い。

 内部から骨をトンカチで叩かれるような痛みが広がるが、完全に寝転ぶとほんの少しよくなった。


「よしっ、なぎくん、頭をこっちに……」


 花ちゃんもベンチに座り、俺の頭を持ち上げ自分の太ももに……って、膝枕……だと……?

 男子の憧れ第二位のあれ、か?


 どうしていきなり!? と思ったが、腰に入れたカバンのせいで下になっていた頭が均等になり、腰の痛みも軽減された。


「ごめん……ありがとう……」


「大丈夫だよ。それに私も……役得だし……」


「ん? ごめん。何か言った?」


「な、なんでもない!! 良いから休んで!」


 何かボソッと言ってたけど、気のせいだったのだろうか。

 

 とりあえず俺は、しばらく膝枕の多幸感と腰の痛みの板挟みに苦しむことになりそうだった。



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花ちゃんに膝枕してほしい!と思った方は、☆☆☆やブクマ、ハート、コメント、お願いします!

欲を言えば久しぶりにランキングに載りたいです。


……膝枕って憧れますよね……?

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