75話

 冬休み! ナウ!


 うちの学校は特殊で、夏休みが一週間しかない代わりに冬休みが長い。

 12月の始まりから1月の中旬までの期間ある。


 これを取り決めた学長曰く『冬は寒いじゃん。外出たくないじゃん? 冬休み長くするしかないじゃん!』

 と叫んでいたそう。

 

 うん、まあ、気持ちはわかる。


 北海道の人は特にわかる。札幌はまだましだけど、それでもたまに電車とバスが雪で止まる。

 公共交通機関は面倒だし、歩くのも寒いしダルい。


 これまた北海道人なら特に同意できると思うが、家の中はめっちゃ暖かい。二重窓&ストーブorエアコン。引きこもり量産機だからな、あれ。

 ぬくぬくとしながら、セコマで買ってきたガラナを飲むのが最近のマイブーム。

 

 え? 太るって? 


 毎日の筋トレを欠かしてないから安心してくれ。



「にしても暇だよなぁ」


 結局瞳さんに話は聞けなかったし、花ちゃんと日夏とも、あまり話せなかった。  

 そんなこんなでズルズルと時間が過ぎて、もう冬休みだ。


 現在三日目の冬休みだが、やることなくて暇で死にそう。

 家でゴロゴロしつつ、やることを模索していると、ぴろんと俺のスマホが鳴った。


「ん? 花ちゃんか」


『なぎくん! この前言ったパンケーキが美味しい喫茶店に行かない?』


 あー、ギスギスした頃に唯一盛り上がった話題のあれな。結局またギスギスしたはずだけど、なんでだっけ?


 ま、いっか。暇だし。


 了解、と返事を打つと、秒で既読が付いて喫茶店のURLが送られてきた。

 今から二時間後に喫茶店の前で集合らしい。


「場所的に一時間かかるし、早速準備しますか」


 さーて、と気合いを入れて勢いよく立ち上がると、腰がピキッと鳴って微かな痛みを覚えた。


「痛っ。運動不足かねぇ……。まあいいや。準備準備」


 

 

☆☆☆


「あ、なぎくん!」


 喫茶店の前にはすでに花ちゃんがいた。

 薄紫の縦筋の入った襟付きシャツに白いロングスカート。上品で清楚な服装だ。

 それにしても一応15分前に着いたけど遅かったか?


「ごめん。待った?」


「んーん、今来たとこ」


 ラブコメの待ち合わせのテンプレ会話みたいだな。

 そんなことを考えていると、花ちゃんは俺を見てにこりと笑った。


「なんか、デートっぽい会話だね」


 同じことを考えていたらしい。  

 なんだか恥ずかしくなって目を逸らすと、回り込んできた花ちゃんがまたも俺をじっと見つめて笑った。


 くっ、なんだこれは!

 いつもわりとあたふたしてる花ちゃんなのに、今日は余裕というかなんというか、大人っぽいぞ!?

 いつもと違う雰囲気に、少しだけ心臓が高鳴る。お、落ち着け、俺の気のせいに違いない。うん。


 ヒッヒッフー、とラマーズ法で精神を安定させると、俺は余裕の笑み(自称)を浮かべて先を促した。


「さ、中に入るか。あー、パンケーキ楽しみだなぁ」


「……そうだね」


 花ちゃんは余裕を取り戻した俺を、残念そうに見ていたのが印象的だった。  

 何がしたいのやら……



☆☆☆



 店内は、女性客で一杯だった。

 男性は遠目から見ても、付き添いで来たっぽい人がチラホラと見受けられるのみだ。しかも、居心地悪そうにしている。

 こりゃ、敷居が高いな……。


 間違っても男一人で来ようとは思わない。来れるなら相当メンタルが強い。

 すると、店内にいた一人の男性と目が合う。まるで、あぁ、仲間だと言わんばかりの表情だ。

 飛んで火に入る夏の虫ってか? いやいや、食虫植物の方がイメージ的には合ってるかもな。

 どのみち怖い。


 席に着くと、ワクワクした様子の花ちゃんがメニュー表を広げて、どれにする? と聞いてきた。


「うーむ。シンプルにいくか、挑戦してみるか……」 


「じゃあ、私は普通のにするから、なぎくんは好きなの選んで。シェアしよ!」

 

 おぉ、シェアか。パンケーキならでは、って感じがしていいな!


 一人で食べるとそんなことできないし、ケイヤとシェアなんてしたら3/4取られる。ニヤニヤ笑いながらな!

 あいつ、甘いものに目がないからって見境がないんだよ。


 よし、決めた!  

 花ちゃんも決めたようなので、店員を呼ぶ。


「私はこれを……」

   

 指差したのは、ドンと丸いクリームが乗っかっている王道パンケーキ。


「じゃあ、俺はこの、期間限定のメニューを」


 夕張メロンをふんだんに使ったパンケーキ。メロン好きの俺からしたら垂涎ものだ。


「あ、それ。私も気になってたんだよね!」


「お、よかったよかった」


 一応確認してから頼んだ方がよかった、と少し後悔してから、俺はワクワクしながらパンケーキを待った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


少し前にレビューで、主人公が表裏不同だ、とありました。 

恐らく、若草組脅す、でしょうかね?

主人公の性格として、本気で怒ったら、自分がされて嫌なことを全力でやります。

そもそも、そこまで全力で怒ることがないので、表裏不動というわけではないです。



 

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