77話

「急性腰痛症です」


「はい?」


「つまり、ぎっくり腰です」


「はいぃ!?」


 やってきました病院。

 そして、なんとぎっくり腰らしいです。


「え、あれって、20歳以下だとならないんじゃ……」


「あくまで確率ですから」


「はぁ」


「鎮痛剤を一応出しておくので、痛みが激しい際に服用してください。基本的に安静にしていれば1、2週間で治りますので」


 え、まじで? このエグい痛みが2週間くらいで治るというのか……?

 人体ってすげぇぇ。


 俺が密かに驚いていると、では、ご安静にと診断が終わった。淡々としてるなぁ……。

 動くのが辛いが何とか診療室から出ると、付き添ってくれた花ちゃんが心配そうに駆け寄ってきた。


「なぎくん! 大丈夫?」


「あぁ……。ぎっくり腰らしい……」


「え!? ぎっくり腰って二十歳以下はならないんじゃないの!?」


 おーう、見事に俺と同じ考えだったようだ。てか、普通そう思うよな。


「どうやら、稀にあるらしい……」


「そうなんだ……。あ、タクシー呼ぶよ?」


「ごめん、よろしく……」


 女の子に世話されるなんて情けねぇぜ……。くそぉ! 俺の椎間板よぉ、もっと強くなれよぉ! 

 よしっ、冬休み中は鍛えよう。鍛えに鍛えて、ぎっくり腰なんて柔な炎症が起きないようにしなければ……!


 密かにそう決心して、俺は花ちゃんとタクシーで帰った。もちろん、お金は俺が払った。これが甲斐性というやつか。なに? 常識だって? ……確かに。




☆☆☆



「あ、すげぇ、本当に治った」


 安静にしてから、一週間と3日。すっかり痛みは消え失せ、死んでいた目は生き生きとし始めた。


 俺 氏 完 全 復 活 !!!


 本当に最初の3日は地獄だった。


 あれ、何しても痛いんだぞ?

 寝返りしたら痛くて起きるし、くしゃみは激痛だし、立ち上がったら叫ぶくらい痛いし。

 あまりに眠れない時は鎮痛剤を飲んだら少しだけ、痛みがやわらいだが、快眠とは程遠かった。

 あぁ、健康って素晴らしいなとしみじみと感じたよね。今の俺ならエベレスト裸で登れる。


 しかーしッッ! そんな素晴らしき時に! 世間はクリスマスムード一色ッッ!!

 けっ、と舌打ちしながら流れるクリスマスソングを濁った目で見てるよ、こちとら。


 ぐすん。別に彼女なんて欲しくないもん。


「くそぉぉぉぉ!! クリスマスのバカや……ってあれ?」


 防音性の高さをフルに使い、クリスマスへの怨嗟を叫ぼうとしたその時、手に持っていたスマホがブルッと震えた。


 む、誰だこんな時に。


 メッセージアプリを開き、確認すると日夏だった。


『12月25日にうちで渚くんと白海さんの三人(!!!!)でクリスマスパーティーしない?』


 うん、三人の部分に作為的な何かを感じる。あぁ、瞳さんを呼ぶな、と。

 さすがに、俺も、呼べば地獄の空気と化すことは目に見えてるからな。

 とりあえず俺は、了解の旨を伝えるメッセージを打ち込み考える。


 それにしても、本当に日夏と花ちゃんが仲良くなってくれて嬉しいなぁ……。

 あんなにいがみ合ってたのに。やっぱり話し合いとやらで何かを話したんだろうな。


 これだけ上手くいってるということは、その話し合いが上手くいったのだろう。やっぱり、俺がいない方がよかったんだ。女子同士の方が話せることってあるもんな。 


 いやぁ、なんかホッコリするし、ホッとするよな。自分の紹介でもっと仲悪くなったら泣いてしまう。

 え、瞳さん? ……ごめんなさいぼくが戦犯です……っ!


 時期尚早だったかもしれないし、第三者が何かするべきじゃなかったかもしれないよな……。……うん、とりあえず反省して、過ぎたことを言ってもあれだし、切り替えるしかないか。

 とりあえず目下のこと!



 クリスマス、楽しみだなぁ……


 これが手のひら返しって言うんだぞ!!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 次回は、日夏の家でクリパ編……にするか、一回ヒロイン視点挟むか迷ってます。



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