第34話
「へ? じゃなくて。目立ちたくないってことは見つかるのが嫌だってことじゃないの?」
朗らかな雰囲気から一変、険悪な空気になった俺は、なぜか春風に詰問されていた。
「いやいや、前にも言った通り花ちゃんとは付き合ってないよ」
俺はもちろん、否定する。
そもそも釣り合ってないし、あり得ない。
「は? 花ちゃんってなに? あだ名で呼ぶほど仲良いいじゃん」
た、確かにあだ名は疑われるか……。
こんなに怒った春風は見たことない。
ん? てか、
「なんで春風はそんなに怒ってるんだ?」
「へ!? いや、その……」
俺の問になぜか少し顔を朱く染め、狼狽える。
顔に手を当ててあたふたする姿はなんか、かわいい。
てか、どうして狼狽えるんだよ……。
「あ……! そう! 私と勉強してたら浮気みたいなるでしょ!? そしたら、それが原因で別れちゃうかもしれないでしょ? それが心配なだけ!」
俺はそれに納得する。
やはりな。俺が前に思ったことはやっぱり当たりだったのか……。
さすが『大天使』! 性格まで天使級だな!
俺はそんな春風に心配をかけないように説明する。説明する、といっても花ちゃんのプライバシーの関係上、簡単にだが。
「そのだな。花ちゃんは幼稚園、小学生が同じで仲良かったんだけど、中学で離れて高校で会ったって感じかな。お互い性格とか違ったから最初は気付かなくてさ」
「ふ、ふうーん」
なぜか頬をピクピクさせ首を縦に振って肯定する春風。
そして、ぶつぶつと俺に聞こえない声で呟く。
「どう考えてもライバルじゃん! 好き好きオーラ全開だったし! ぬぬぬ。油断した……まさか最強のライバルが登場するなんて……!」
最近色々な人がぶつぶつ呟くため、馴れてしまった俺がいる。
どうせ、俺に関係ないことだろうし。
「そ、そっか。付き合ってなかったらモンダイナイヨネ、ウン」
「そ、そだね」
最後がカタコトになった春風に狼狽えつつ、答える。
「これ、完全にキスしたことが、再会で上書きされてるじゃん! あー、もう最悪!」
な、なんだ!? 今度はぶつぶつ言いながら頭を抱え始めたぞ!?
まあ、よく俺に聞こえない音量を調節して呟けるよな。逆に才能だな。
俺が春風の奇行に驚いていると、ふいに俺を見つめこう言った。
「私のこともあだ名で呼んで?」
「いや、どうしてそうなった!?」
急に何を言い出すのかと思ったら……。
女子にあだ名とかハードル高すぎでしょ。いや、花ちゃんは別。慣れてるし。
あ、でよそう考えると花ちゃん呼びも少し恥ずかしくなってくるような……。まあ気にしない、気にしない。
「だってさ。名字って堅苦しいじゃん。距離感じるし」
「いや、ほとんどのクラスメート、名字で呼ばれてるじゃん……」
「仲の良い人以外には呼ばせないよ? だからさ……つべこべ言わずに呼んで!」
なんて暴論な……。
最終的には身を乗り出して、言ってくる。
なぜにそこまで拘るんだか……。
「わかったよ……ただ、あだ名はハードル高いから名前で頼む……」
せめてもの妥協点として、そう提案する。
受理してくれるか? と春風の様子を見ると、案の定不機嫌だった。
「ふーん……白海さんは呼べて、私は呼べないんだ……ふーーーん」
「いや、そういうわけじゃ」
俺が不機嫌の春風にしどろもどろになっていると、フッと表情を和らげる。
「ごめんね? 白海さんに狭山くんが取られたみたいで嫉妬しちゃった♪」
ペロッと舌を出してポーズを取る春風。
相変わらず嘘か本当かわからない……。
「いや、勉強仲間取られて嫉妬も何もないでしょ」
俺が笑いながら言うと、そういうわけじゃないんだけどなぁ、と呟く。
今度は俺に聞こえるような音声で呟かれた声。
いや、意図的に聞かせたのかもしれないが。
「ん? どういうこと?」
俺が意味を聞くと、
「鈍感……」
と、睨むように言ってきたのだった。
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