第35話
それから、一応名前で呼び会うことになった。
俺は、日夏。日夏は渚くん、と。
なんだか、名前で呼ぶことにいささかな抵抗……よりかは恥ずかしさがあり、慣れる気がしない。
「じゃあ……またな、日夏」
「うん、渚くん」
お互い少し顔を朱くして、帰りの挨拶をする。
なんだか、甘酸っぱい空気が流れてるような錯覚に陥りながらも。
俺は見送ってくれると付いてきた日夏と一緒にマンションを出た……のだが。
ドッシゃーん! バリバリバリ!
という音ともに大雨と雷が降り注いだ。
「…………うそん」
びしょ濡れになる、俺と日夏。
俺は急すぎる天気に呆然としてしまう。
横を見ると、日夏も固まっていた。
とりあえず固まる日夏の手を引っ張り、マンション内に戻る。
急いでスマホで、天気予報を見ると、幸いなことに積乱雲の発達によるゲリラ豪雨だったらしく、止む予定。
だが、二時間は急な豪雨に見舞われる可能性がある、と書いていた。
なんて、テンプレな……
「えーと……」
意識を取り戻したらしい日夏が外を見て困った顔をする。
「仕方ないか……幸い近いし、走って帰るよ」
「いやいや、それはだめ! 危ないよ。……だから、さ。もう少し家にいよ?」
恥ずかしそうにモジモジしながら提案をしてくれる。
俺はさすがに外出たらやばいなと思ったので、有り難くその申し出を受ける。
「ごめん……ありがと……」
☆☆☆
「タオルと服、置いとくね」
「あ、あぁ、ありがとう」
俺はびしょ濡れの体で冷えていたため、日夏に促され、シャワーを浴びていた。
……日夏の使ってるお風呂……。
いや、変態思考やめようか。
本当は日夏も濡れているため、先に入った方がいい、と言ったのだが、私のお風呂は長いから、と言われなかば無理やり入らされてしまった。
俺は温まり、風呂場から出る。
脱衣場には綺麗に折り畳まれたタオルと、服が置いてあった。
間違って前に持ってきた父親の服があったらしいので、それを使わせてもらうことにした。
そして、日夏が次に入る。
リビングでいても聞こえる、ジャーというシャワー音からいやがようにも想像してしまうものを気合いではね除ける。
「気にしない気にしない気にしない気にしない気にしない気にしない気にしない気にしない気にしない気にしない気にしない」
呪文ように呟きながら、気をまぎらわせるため、勉強をする。
意外にも勉強に集中でき、これはもう大丈夫だ! と思った矢先に、日夏の湯上がりを見て、覚悟も気合いも全て霧散する。
風呂上がりで火照った体に、あったまったことによる顔の弛緩。
それに見とれる俺がいた。
……これは破壊力マックスだ……!
「今、上がったよ……」
その顔は少し朱い。
風呂による、火照りだけではなく、恥ずかしさもあるのだろう。目が左右にうろうろしていた。
とりあえず、何か言おうとした時、バリバリという音が聞こえた。
「きゃっ!」
日夏であろう、悲鳴が聞こえた数秒後、この家が完璧な暗闇に包み込まれた。
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