凡百ある異世界ものとはひと味もふた味も違うファンタジー。
「なぜ、その城は忽然と消え失せてしまったのか?」
その謎を調査すべく当地に赴いた道化師の物語です。
囁かれる凶暴な魔物の噂。失踪した大勢の人々。流れつく子供の遺体……。それらの奥に潜むのは、いったい何か? 未知の兵器か、偉大なる魔法か、それとも……?
『なぜ?』『どうやって?』の答えにじわりじわりと近づいていく過程━━ミステリーな展開も面白いけれど、道化師氏が個人的に記した報告書の形を取っているのもまた、楽しかった。行く先々で会う証言者の言葉を淡々と並べながら、でもその淡々としたトーンがかえって物語のミステリアスな怖さを引き立てます。
読み終わったら、もう一度、物語の最初の『追記』に戻って再読されることをお勧めします。ランサの花のなかでこちらを見た「それ」とは、なんなのか。道化師の私と「それ」の間に湧き起こっただろう感情が、読者の心にも一気に迫ってきます。読んでいる間中、私のなかを占めていた「恐ろしさ」は、そうして「哀しみ」へと静かに色を変えていったのです。
しかし、謎を追いかけるのが道化師(実は国の要職にも就いている。兵士としても強い!)というのはイイですね。絵になるなあ。
私、『ジェヴォーダンの獣』を思い出してしまいました。映画にもなったこの獣は、昔、フランスの地方で何十人という人を殺したといいますが、いまだに正体がはっきりしていないんだそうです。未確認動物説と陰謀説があるとか。当時、国から調査隊が派遣されたり、いろいろな人が調べたりしたという本を読んだ時に通じる面白さが、『宮廷道化師の報告書』にもあったからです。
島倉大大主さん、楽しいひと時をありがとうございました。