Ep.1 Day

 薄く雲の架かった淡い青空を背景に、桜の花弁がふわりと舞う。


 葉涼浬大は小さな湖のほとりでヘッドフォンを耳に当て、鼻歌を口ずさんでいた。


 湖は空の色に染まり、円状のそれを囲むように桜の木が生えている。


 「ーー … ーーー♪」


 浬大の家は、住宅密集地から少し外れた高地にある。


 この湖は高地のさらに奥、小さな山のふもとに位置している。


 浬大は昔からこの湖が好きだった。


 静かな自然に囲まれて、歌う時間が好きだった。


 それは高校生になった今でも変わっていない。


 「…そろそろか」


 腕時計を見ると、時針はもうすぐ8時を指そうとしている。


 浬大は鞄を背負うと、自らの通う高校へと向かった。



 —————————————————



 正門へ足を踏み入れると、昇降口に掲示されているクラス表の前には多くの人集りができている。


 中でも、皴一つない制服を身に纏い、胸に花のブローチをつけているのは、恐らくこの後入学式を控えている新入生だ。慣れない環境だからか、大半の生徒が浮足立っているように見える。


 浬大も自身のクラスを確認するべく、喧騒の中へ足を踏み入れた。



 「浬大ー、はよっ」


 肩にドンッと衝撃が走る。


 「あぁ、海か。おはよう」


 振り返るとそこには、浬大の幼馴染 ― 逢坂海が立っていた。


 「相変わらずのノーリアクション…あぁそうだ、クラス表はもう確認したか?」


 「二組だった。俺もお前も」


 「マジか!またお前と一緒だな。もはやこれは偶然を通り越して運命…」


 「海ー、朝から変なこと言わないで。気持ち悪い」


 「千紗か…おはよ」


 深い溜息をつきながら二人の元へ割って入った少女 ― 石井千紗も、彼らと同じ中学の同級生だ。


 「まったく。いいよね毎年二人は同じクラスで。私なんて、去年も今年も唯と離れちゃったから心細いのなんのって…」


 「俺たちと離れたことは残念に思ってくれねえの?」


 「一緒のクラスにいたって、校内じゃあまり話さないじゃない。それに海たちとは嫌でも毎日顔を合わせてるんだから、寧ろ離れられて清々する」


 「千紗ちゃん俺にだけあたりがきついよー、ねえ浬大…って聞いてる?」


 「あそこにいるの、唯じゃないか?」


 「え?あ、本当!私会いに行ってくる」


 「俺の声聞こえてる!?」

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僕らのかたち Una @yunyanko

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