第13話最終話・大丈夫、愛している。
あの夜から数日が過ぎた。空は曇り、風はもう年の終りを告げている。
世界ではクリスマスの夜に奇跡が起ると言うけれど、オレには奇跡は起らないだろう。
部屋の飾りを取り付けながら、窓の外、灰色の風景が頭を空にしてくれる。
「ああ、シンイチくん。そこの飾りは少し右だよ、後4㎝右に上げてくれ」
ハイ、こっちですね。脚立に登り、金や銀や赤や青や緑の輪をぶら下げる。
「こっちはどうですか?」オヤジはもみの木に星や玉・靴下や袋をぶら下げ、LEDの電球がチカチカと光る。
「ハイこれ」脚立の下で青いモールを手渡す澄んだ緑の瞳の少女、アイリス。
アリスでもイリスでも無い彼女はカプセルの中で眠っていた少女。
二人の記録を受け継いで目覚めた、最後のクローン。カプセルの中で最初に目が合ったオレに何故か懐いてしまった。その顔を見る度に胸が痛むと言うのに。
?「ちがうの?シンイチ?」
アイリスはオレが辛そうにすると直ぐに心配そうな顔になる、「大丈夫だよ」本当に大丈夫、オレは笑ってないと。
二人の記憶は無いが、記録はあるらしい。頭の中に広がる本棚に沢山のアルバム、 どれを開いてもオレがいて、楽しくて嬉しくなるらしい。
彼女が目覚めた時、叔父さんは涙を流し抱き締めて「いや」と突き飛ばした。
そしてオレをみて笑った。
カプセルの中で1度目を覚まし、しばらく目覚め無かった彼女は、オヤジ曰く。
「どうやらアリスは本当にイリスを起こそうとしているのか?」
データが彼女の中で混和し整理され統一される、記憶は混ざり合い自我が統合され アリス・イリスとは別であり同じ人格が誕生した、それがアイリス。
「それじゃあ、二人はどこに行ったんだよ」
統合された人格は元々二つであっても、生まれた人格は一つ。
「一つ器に二つの自我が存在すればいずれは自我が崩壊する。だからこれはこれで正解・・なのかも知れないな」。
「なにが正解だ!二人が、アリス達が消えて・・正解とか・・」
「ウルセぇよガキ、選ばなかったお前が言うな!」
・・そう、一番悪いのはオレだ。だからこの結果は全部おれの責任だ。
彼女が目覚めるまで桐山邸に滞在し、彼女の目覚めを待った。
おれはその時彼女達のどちらかが目覚めれば、そう僅かな希望に縋ったんだ。
「シンイチ?・・シンイチシンイチ!」叔父さんを押し剥がし、
オレの顔を見て手を伸ばす。抱っこを望む赤ん坊のような彼女を抱き締め、スリスリする頬の柔らかさがイリスを思いだす。
「・・イリス・・なのか?」
?「・・?、シンイチ?」涙を流すオレの頬を彼女が舐めた、渋そうな顔で涙を舐め続けた。「これが涙の味?・・泣かないでシンイチ、私は大丈夫だから」
アリスのような話方、オヤジ達は二人の人格は統合されて消えたと思っている様だが、彼女達はアイリスの中にいる。
「泣かないで、泣かないで、シンイチ、泣いちゃ駄目だよ、駄目だよシンイチ・・」
「なんで・あ・・アイリスが泣くんだよ、大丈夫だよ、だから・・だから・・」
子供のようなアイリスの中に彼女達がいる、これはなにも選べなかったオレに対する罰だ・・・・泣いているオレの口にヌルリと柔らかいナニ?目を開けたら唇に唇が重なっていた。
何度も何度も舌を舐め回し、気が付けば目を閉じてアイリスの口の中を舐めていた。
・・・「そろそろ止めようじゃないか」
叔父さんの声で今の状況が見えて来た、以外と力が強いアイリスの顔から離れる。
口から細い糸が引いた。「スキ・・シンイチの味?」
この時点でアイリスとの婚約が決った、叔父さんは御父さんになり、
「たった一人の娘と、こんな若さで離ればなれになるなんて」
と言う事で、彼女が成人するまで実家暮らしとなった。その間叔父さん・・御父さんの仕事を手伝い、後を継ぐ事を前提に扱き使われる事になった。
家族のイベントには必ず出席し、週一回は必ず彼女とデートする。
手を繋ぎキスをし、抱き締める。同衾と混浴は無くなったが、そこは惜しかったようなホッとするような。
肌を合わせ、手で触れ、舌で味わい、匂いを嗅ぐ。アイリスの積極性は気を抜くと一戦を越えてしまいそうになるから。
「ふふふ、楽しい?」本当に楽しそうな笑顔、すぐに彼女の笑顔に迷わされ彼女達の記憶が過去の物になったような気がして・・自己嫌悪だ。
大丈夫、私は私よ。愛してるわシンイチ。
顔を上げたオレは、その懐かしい声にアリスとイリスの顔を見た。
その笑顔はイリスのような真っ直ぐな瞳と、アリスのような優しい顔だった。
季節はめぐる、それでも月は夜空を照らす。 葵卯一 @aoiuiti123
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