第4章 俺とチューハイと窒素

学校が終わった

そそくさと支度を済ませ、友達と教室でたむろする。

いつも通りだ

たわいもない話をする。

嫌いな奴の愚痴を言い合ったり最近あそこのコンビニで喧嘩をしてどっちが勝っただとかあの先生はハゲだとか…

まぁそんなしょうもない話だ。

でもそんな時間が学校生活においては1番楽しい



「学校生活においては」の話だが…



1番楽しいというか1番マシなだけだ




適当に話を切らせて先に帰宅することにする

帰り際の校門で誰かが言い争っている…いや…




「なぁなぁ!!ちょっと財布よこしてくれると助かるんだけどなぁ?」

「なぁ?俺らのお財布君?」

1人の男子が何人かに囲まれている…

いじめってやつだな…

俺は見て見ぬふりをする…














「違う…」

クラス全員で1人の女子を睨む…

「お前が給食費盗んだんだよなぁ?加古川!!」

その女子は黙って俺に睨み返す












変なことを思い出してしまった…

気にせずそのまま帰る。

メッセージアプリに通知が届く。

岸野からだ

「今日、お前ん家行ける?」

まぁ…いけるが…

「いいぞ、俺ん家来て何するんだ?」

単純に気になったのでそう聞いてみる。

「いや、久しぶりにお前と一緒に飲みたいなと思って...」

なんだ、そんなことか

「今日は親夜勤だから大丈夫だぞ!」

俺たちはたまに親の酒をパクって夜な夜な一緒にお酒を飲んでたりする。

まぁ高校生なんてこんなもんだ

たまに飲むからこそ楽しい

岸野とは幼なじみで高校からあいつは上の学校の方に行ったので別れてしまったが今でも週に1度は会うほどの仲だ。





そもそも家が超近所なのはあるが...




岸野はその高校では学級委員をやっているらしい

あの岸野が...

あいつもらしくないことをするもんだな...















「先生!加古川さんが給食費の入った封筒をこっそり取ってるのを見ました!」

岸野は叫ぶ























その岸野のカバンの中には膨らんだ封筒が入っている























ボーッとしているとまた通知が届いていた

「学校から帰って着替えてから行くからな〜!」

家が近いのでそこまで変わらないし別にいいだろう

「了解」

適当に返事をしてベッドにもたれ掛かる





静かだ...





親は滅多に帰ってくることは無い

母親は夜勤が多い仕事で

父親は他の女ときっとランデブーだ

母親は気づいてるのに何故か言おうとしない

「なんで言わねぇの?」と聞いた事はあるが

「見捨てられそうで...言えない...」

夫婦同士なのにそうも信用出来ないのかとその時思い知った





人は「嘘」をつく生き物だ

だからこそ縋ることの出来る「真実」が必要だ

それは自分の事を愛していると信じれる人

それは画面の中に必ず居続けてくれる人

それは俺が演奏すれば必ず答えてくれるギター

いい人ってのはいるかもしれないがそいつは必ずどこかで嘘をついている

仕方ない

それが人だ

ベッドの脇にあるギターを見ながらこんなことを考える




着信だ

もう来るらしい

菓子を適当に用意しながら待つことにする。




そうこうする内にチャイムが鳴った

インターホンを覗くとおどけたあいつの顔がありつい吹き出してしまう。

笑いながら家の中に入れてやる

「久しぶり〜!」

本当に久しぶりだ

最近はテスト等も重なりあまり会えなかった

「なんであんなバカみてぇな顔なんだよ!」

「誰がバカみてぇな顔だ!」

そんなことを笑いながら話す

ふと気づく

岸野の左耳にピアスが輝いている事に

「岸野ピアス開けだしたのか?」

「あぁ、かっこいいだろ?」

あまりピアスは好きではない

「まぁな」

かと言ってだせぇなんて言ったら嫌われるかもしれないのでそう返事しておく

正直人の自由なので俺にどうこう言う権利は無い




たわいもない話をしてる間に机の上にはチューハイとお菓子が並ぶ。

まだビールの美味しさは分からない

「乾杯!!」

とりあえず乾杯をして2人ともチューハイを喉に流し込む

桃のチューハイなので桃の風味と後に来るアルコールで喉が刺激される

久しぶりに飲んだ気がする…

1人では飲まないからな

「そういえば最近どうよ?」

そんなことを聞いてくる

「まぁまぁかな?テストも赤点ギリギリ回避って感じだし」赤点が1つあったが黙っておく。

「おぉ!お前にしてはやるじゃねぇか!」

「お前にしてはってなんだよ!!」

2人とも笑みがこぼれる

話は中学の頃の話に

「そういえば俺らで給食費パクったの覚えてるか?」と岸野

「あぁ…あったなそんなことも」

俺たちで教師から給食費をパクったんだ

そして岸野は学級委員なので人望があり、他の人になすり付ける事で事なきを得た

「加古川には悪いことしたよなぁ」

加古川はあまり目立つことの無いサブカル女子ってやつなので非常に都合が良かった







「そうか?」

岸野は不思議そうな目でこちらを見る

「あいつあん時調子乗ってたしよォ!あんくらい当然の報いだよ」






そうは思わなかった

「でもさすがにあれはやりすぎだって笑」

笑いながら答える






「は?」

顔をあげると顔を強ばられせた岸野がいた

悪酔いしてるのだろう

飲みすぎたのかもしれない

「あれのどこがやりすぎだぁ?」

なんてことを岸野は言う







こいつこんなやつだったか?

急に酔いが冷めてきた

昔は考えがずっと合っているようなやつだったが最近は合わなくなって来た気がする。

加古川は別に調子になんて乗ってなかったしあれ以来学校に来なくなった。






明らかにやりすぎだ






誰が見てもやりすぎだ






急に岸野が恐くなってきた

「そろそろお開きにするか」

岸野が提案してきた

「お、おぉそうだな」

いつもと比べたら早いがお開きにすることにする

何より今岸野と居たくなかった

玄関で岸野を見送る

「今日はありがとな」

イラつきを抑えながらそう声をかける

「おお、また今度な」

無愛想にそう答える

しばらくは会うことはないだろう








夜の冷たい空気を吸う

空気の約78%は窒素だ

窒素はこの世の中にはありふれているが他の物質と化合することはあまりない

俺達も同じだ

この世にたくさん生きていて隣合う事も多々ある





だがホントの意味では交われない






家の中に入り後片付けをする。

急に腹が減ってきた

菓子しか食べてないからだろう

いつもならあいつと食べに行くんだが仕方ない

そうして俺は夜の街に出る

時間は0時を回っている




今日も俺はまどろみの中を生きる

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僕たちとあれらと元素表 あんこ @50723842

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