第2話 出会った少女

叫び声のする方へ行くと、煙がもうもうとあがっていた。


「ゴホッ、なんだこれ…?」


よく見ると馬車のような形をしている。馬はもう逃げたのか、人も誰1人いなかった。


「うわあああ!」


今度は男の声だ。

そちらへ走っていくとすぐ大きな崖があった。


足元がぐらついているので落ちないようにゆっくり下を見る。


「嫌だ!やめろ!ぎゃああ!!」


川のそばで1人の太い男が狼のような黒い化け物に咬み殺されていた。


化け物の足元には派手にめかし込んだ女が倒れている。もう死んでいるようで、水色の豪華なドレスが真っ赤に染まっていた。


「ひっ、ひぃぃ」


思わず悲鳴が漏れる。逃げようと後ろへ後ずさった時、


ガサッ


川の向こう側、草の中に誰かいる。


ギョッとして目をむく。


そっと顔を出したのは、ボロボロの布を着て血の滲んだつり目の少女だった。


化け物がそれに気づき唸り声をあげる。あの状態は完全に狙っている。


俺の脳裏に浮かんだのはさっきの男のように無惨に食い殺される彼女だった。


俺は、死ぬつもりだった。

だからこそ、


「っ!命なんてくれてやるよ!!」


今世の勇気を全て使い崖の上から飛び降りた。


「…は?」


少女のポカンとした顔が少し見えた。

それに満足したのも束の間、そのまま化け物の上に着地する。


ぐぇ、という声と共に肋骨からゴリッという音がしたがあえて聞こえないふりをした。


グルッウオオオンッ!!!


ものすごい咆哮が上がり、俺を振り落とそうと暴れる。俺は一生懸命そいつの背中にひっついていた。モフモフの毛皮に必死で捕まる。

そのうち何が起きたのか化け物はぐるんと一周回って地響きを立てて地面に倒れてしまった。


「お、お?倒した…のか?」


ゆっくりと化け物から離れるとパンパンと体の土を払う。所々木や石に引っかかって血が出ているがそれも少しだった。それにしても驚きだ。俺にこんな力があったとは!


「お前、大丈夫か?」


とりあえず少女のところへ行く。少女は俺を見るとビクッと体を震わせてまた草の中へ引っ込んだ。背丈的に11くらいだろうか。


「怪我ないか?」


聞くと震えながらコクンと頷いた。いや、嘘だろう。さっき見えたぞ。ボロい布の間から傷だらけの腕が。


「嘘つくなって、ほら大丈夫だから。」


そう言うと少女がそっと顔を出す。普通の黒い目と黒い髪、鎖の飾り。ていうかそのネックレスごつくね?重そう、というかブレスレットも同じのかよ。


…これは、もしかしなくても奴隷とかいうやつじゃね?


そこで俺の想像力が物凄い勢いで稼働し始める。

か弱い少女が幼いうちから貧しい親に売られ、ゲスい金持ちたちに買われては掃除洗濯、時々いじめられ挙げ句の果てにはご飯も貰えずに雪の降る日の街角でマッチを…

あれ、なんか混ざってる?


「おじさんも、黒…」


「ん?」


見ると少女が俺の髪を見ていた。ツンツンと少しだけ触っている。


「そうだな、一緒だな。」


「おじさん、痛いことしない、ナチとお揃い、

ナチ、嬉しい。」


微かに頬を染めた少女、その健気な姿に俺は…


「もういいっ!俺が面倒見てやる!」


顔から汚い水を出しながら叫んだのだった。



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自殺したら異世界転生したのだが、俺以上にヤバい奴が沢山いたので、もう俺が全員面倒見てやる! 無理 @muri030

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