第1話 その少女は笑っていた

冷たい風が頬をなでる。おかしい、僕は寝ていたはずなのに

部屋の窓でも開けっ放しにしたのだろうか。仕方ない、閉めないと寒いし。


しぶしぶ目を開けると、僕の目には暗闇がうつった。このどんよりとした感じはなんだろう?僕の部屋の天井はこんなに遠く感じるものだったけ?

すると何かが天井で光った。いや、これは......星?

じゃあ僕が今見ているのは空なのだろうか?そんなわけない。ここは僕の部屋なんだから。


でもベッドはこんなに冷たいっけ?嫌に固い感触が背中にあたり、背筋がゾクゾクする。

起き上がり周りを見渡すと僕は呆然とした。僕の部屋じゃない___ここはどこだ?

周りは空と柵で囲まれていた。柵の下を見るとここから低い位置に地面が見えた。........ここはどこかの屋上なのだろうか?

だとしてもおかしい。僕は誰かに連れ去られたのか?

じゃないと寝てる間にこんなところに移動できない。


もしかして.....夢?夢なのか?頬をつまもうと思ったけど夢じゃないことはありえないからやめた。..........リアルすぎる冷たい風が夢かどうかを証明してるというのに。


ここからどうやって帰ろうか。ここの屋上には見覚えがないし、僕が通っている中学校の屋上でもない。  夢ならなにもしなくてもいいと思ったけど

とりあえず階段をおりようと、屋上のドアへ向かったその時、


「 忘れたの? ヒドイなぁ。」


背中越しに声が聞こえた。聞こえた声からして、多分少女。

忘れた?忘れたって何を...。人がいたことに全然気づかなくて不安と安心を覚えて

僕は後ろを振り返った。


誰もいなかった。


「え.....。」


もしかして空耳?そうだ、ここは夢だもんな、と


若干恐怖を感じて前に向き直すと、目の前に少女が立っていた。


「うわぁぁ!!」


と、ビビって後ろに飛びぬくけど少女は何もしてこない。


よくみるとなにかが少女の手から垂れている。水?もしや血とか.....。

.....そんなわけないよな! ここは夢だもんな!

ホラーの夢なんか望んでいないんだから。


その時、風が吹いて少女の長い髪がゆらめくと同時に月がでたのか

少女と僕の周りが明るくなった。


ピチョン、と再度少女の手から垂れたそれは.....赤い血だった。

恐怖で動けなくなった。

よくみると、少女の反対の手になにか握られている。

もしかして刃物?それで僕は殺されるのか?


頼む、こんな夢早く覚めてくれと立ち尽くしたまま懇願していると


いつの間にか僕の横にたった少女は僕の耳元で囁いた。


「夢じゃないよ...。」


殺される.....!! 

反射的にそう思った僕は少女から離れようと足を1歩後ろへ動かそうとした。

....動かせない。


正確にはその足がなかった。__僕は片足を失っていた。

バランスがとれなくなった僕はドッと後ろ向きに倒れる。


恐怖で心臓がドクンドクンなっているのがわかった。

....痛みもなにもない足を失った太ももに違和感を覚える。

切られたのか? 血はでているのか? 気になるけど僕には自分の体をみる余裕はない。少女に視点がどうしても向いてしまう。


倒れた僕に覆いかぶさってきた少女は


「また会えるその日まで」





「あなたを....」





そういう少女の顔は月に光の反射で見えなかったけど、笑っているように感じた。



言葉を切らした少女は僕を黙ってみていた。長い髪が僕の首にあたって

ゾワッとした。



「.....忘れないで。」


そう彼女が僕に囁いたところで僕の意識はなくなった。











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死神はあどけない顔で笑う エネ @misasa

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