終章

 目が覚めると、ゴミゴミとした本とゴミだらけの部屋に一人いた。

 呆然としながら部屋を見渡すと、一つだけある扉の上にはデカデカと『セックスしないと出られない部屋』と書かれていた。

「嘘……だろ?」

 俺がこれまで積み上げてきたものは?

 魔王に対しての感情は?

 全て、何もなかった事になったのか?

 辺りを見渡して、ぎょっとした。そこら辺に落ちていた本の表紙に、かつて見かけた宇宙船と、女の子がいた。

 それ以外の本の表紙では、俺が押し倒した魔法使いの女の子、学園のみんなが載っていた。

 そうだ、思い出した。あの世界は全部、俺がかつて読んだ本の世界だったんだ。

 魔王の事も思い出した。あの子は俺が書いていた小説のキャラクターだ。俺の妄想の産物でしか無かったんだ。

 そしてこの部屋は俺の部屋だ。俺は、部屋から少しも動いていなかったんだ。

『セックスしないと出られない部屋』なんてのも、俺の落書きでしかない。俺が自分が部屋から出られない言い訳に、と書いた奴だ。

 この部屋は、最初から何もしなくても出られる部屋だ。扉は最初から開いている。後は俺の覚悟だけだったんだ。

 外の世界は恐ろしい。俺を傷つけるもので溢れかえっている。

 この部屋は安全だ。俺を傷つけるものなんて何一つない。

 だけど……

 この部屋には、虚しい妄想しかないんだ。現実を生きている俺は、妄想だけでは生きていけない。

「やりたい事に言い訳を作るな、か」

 魔王の言葉。ただの妄想の言葉だが、あの一緒に過ごした時間はきっと嘘じゃない。現に俺の背中を強く押してくれる。

 外の世界にやりたい事があるかなんて分からない。だけど、ここでこうしていたって何も始まらない、進まない。俺は、外に出るしかない。

 立ち上がり、取っ手を掴む。緊張したまま捻り、カチャリと扉が開く音がする。

 外の冷たい空気がひゅうと入り込んで、俺は身震いするが、遂に覚悟を決めて飛び出した。

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この部屋からは抜け出せない! 黒井羊太 @kurohitsuji

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