第8話 幕間 小さな私と聖女様 2

そして、その日はやってきた。



聖女様が来た、と村の見張りの若者の一人が村長宅に走った。そこから人伝に村中に広がり、みんなは村の入り口まで集まった--。



私が目にしたのは、正にイメージ通りの……物語の中から飛び出た、美しい聖女様だった。


後ろに流した長い金髪。傷なんてついたことがないと言わんばかりの白い肌に、整った顔立ち。体格は少し小柄だけど、それも一般女性と比べると変わらない。そして声。



「初めまして皆さま。わたくしは『旅の聖女』。名はゼミール・マルシアと申します。短い間ですが、この村に滞在予定です……よろしくお願いしますね」


聴いていてウットリする声でそう言った聖女様は、ニコリと笑った。


その笑顔に村人達……特に男の人たちは顔を赤くしてその笑顔に見惚れていた。……私のお父さんも見惚れてたけど、そばにいたお母さんに軽く腕をつねられて小さく謝っていたのを覚えている。




その後、聖女様の挨拶が終わると聖女様とお付きの騎士様二人は村長と一緒に村長宅に向かっていった。……そう、騎士様がいるのだ。それも二人も。


「どうしよう……」


よくよく考えたら、当たり前だった。聖女様がたった一人で旅をするわけがない。聖女様のお世話をするお付きの人間がいないほうが、おかしかった。けど、子供だった私たちはそこまで頭は回らなかった。



大人達が仕事に向かっていく中、わたしはその事実に気づき、すぐに幼馴染の元に--ハルの元に向かった。



「ん、そろそろ来ると思ってたよ」


「ハル!ど、どうしよう……聖女様だけじゃなかった! どうしよう……!」


わたしはいつものハルがいる、森の近くの遊び場に駆け込んだ。


泣きそうなわたしの顔を見ながらハルは頷いた。


「僕もついさっき騎士様を見て……作戦を変更することにしたよ」


「ハル? それって……」


「まあ落ち着きなよレイラ。取り敢えず、ジンが来るまで待とうか」


「うん……」


わたしと違って全く焦った顔をしていないハルを見て、わたしも少し落ち着いた。……ハルはすごいなぁ。



それからジンが私たちのところに来たのは、昼頃だった。



「お、いたいた。ようお二人とも、何してんだ?」


ジンは私たちに陽気に声をかけてくる。

ハルは読んでいた本から目を離し、わたしは草いじりをやめてジンに駆け寄る。


「ハルが作戦を変えるって……」


「ほーん……ま、そうなるよな。んで、ハル。どうすんだ?」


ジンもこうなることがわかっていたようだった。この3人でハルが一番頭が良いけど、ジンも別に悪いわけじゃない。わたしは、ちょっと鈍臭いけど……。



「まず、当初の作戦だけど……ジンが聖女様をここに呼ぶ手筈だったね」


「おう。友達……レイラが怪我してるって嘘ついて呼ぶやつな」


その嘘に関しては、わたしが本当にコケて怪我をしようか? と提案したら二人に止められた。


「そう。もしくは、聖女様がこの村を見て回りたい、みたいな事をもし言ったのを聞いたら、さり気なくジンが誘導する……で、どうだった?」


ジンは肩をすくめて首を振った。


「そうか……じゃあやっぱり作戦変更しかないね」


「聖女様って一日しかいないんだよね? どうするの……?」


わたしは不安を言葉にしたが、二人とも何故か余裕のある顔をしていた。


「大丈夫。ジンが来るまでに考えといたよ」


「さすがハル。で、内容は?」


「まずは----」



正直、その作戦は不安しかなかった。けど、二人が私の為に頑張ると強く言われたら、子供の時の私は断れなかった。


……とても嬉しい気持ちにもなった。





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聖女になりたい暗黒騎士〜今日も今日とて治癒系スクロールを探し求めます。 @niinasan

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