第7話
コンコン、と木製の扉をノックする。
「黒騎士か?」
少し低めの声が扉越しに聞こえる。
『はい』と私は返事をしながら中に入室。
部屋の中にいた人物はいつものように書類に忙しなく目を通しているようだった。
「少しだけ待て」
私は無言で机に近づき、佇む。
「ふぅ……待たせたな」
そうして5分もするとギルドマスターは顔を上げて目頭を揉みながらこっちを見る。
『用件は?』
「まてまて。相変わらず性急な女だな……先ずは、レジェンドクラスに昇格おめでとう、と言わせてもらおう」
『ありがとうございます……それで指名依頼でしたか』
「うぅむ……少しくらい世間話というのをな」
『必要ないです』
そういうとギルドマスターは少し悲しげな表情になった。
……いや、だって絶対話長くなるし。それに私は口下手だからあんまり長話はしたくないし、愚痴を聞くつもりもない。ギルドマスターには悪いけど。
ギルドマスターは何も言わない私に溜息を吐いて腕を組んだ。
「まったく、色々便宜を図ってやったというのに……まあいい。さて、もう聞いているとおもうがお前にギルドからの指名依頼を頼みたい」
『……ちなみに拒否権は?』
「ない。と言ってもお前にだけ無いのだがな」
そう言ってニヤニヤ笑う中年。……ちょっとイラっとしたから威圧感を出しながら尋ねる。
『それで依頼内容は?』
「そう怒るな。重要度が高い依頼なのだ。確実に実力があるお前には参加して欲しいのだ。--内容だが、簡単に言うと『護衛』だ」
その言葉に私は眉を顰める。
護衛は私も何度か経験がある。といってもクラスを上げるために最低数こなしただけだが、正直に言うとどれも面倒だった。主に対人関係的な話だけど……。
『……どなたの護衛を? 目的地は?』
目的地の距離によっては色々と準備をしないといけない。まあ、私は食料や水を暗黒ノ渦に放り込むだけでいいんだけど。
「うむ。目的地は此処から南にある都市だ。護衛対象は……俺からは言えん」
『……それはどういう』
「こちらにも事情があるのだ。集合は明日の早朝に南門の前だ。お前の他にも冒険者は複数参加する。仲良くするんだぞ」
『……! 私一人なんじゃ』
「それでもよかったのだが……先方のお連れの方が不満を言われてな。結果的に多人数になった」
『……』
「安心しろ。レジェンドクラスに及ばずとも、それなりの実力を持った者たちだ」
いや、そうじゃなくて……私が辛いのだ。
私は基本的にソロで依頼をこなしてきている。その理由は私の性格的な問題であり、能力のせいでもある。
私は暗黒騎士になったせいで、性格に色々影響がでた。簡単に言うと、コミュ障である。
まあ、闇属性に引っ張られたのと、あの時のショックで引きこもったせいでもある。
無言で佇んでいる私を見つめていたギルドマスターは、口に微笑を浮かべ口を開く。
「依頼報酬だが……もしかしたら、お前の求めているものが手に入るかもしれんな?」
「おや、おかえり! 晩御飯はどうするんだい?」
『いつも通り部屋に』
女将さんの「あいよ!」という声を背中に受けながら私は自室に戻った。
「治癒系スクロールが手に入るかも、かぁ……」
ベッドに寝転んだ私は天井を見ながら呟く。
退室する前にギルドマスターはそう言っていた。詳細を尋ねようとしたけど、忙しいからと追い出された。
あの人には最初から世話になっている。この街に訪れ、初めて冒険者として登録した時から目をかけてもらっていた。
『物騒な奴がきたもんだ。お前さんはどうしてここにきた?』
『……スクロールを、治癒系スクロールを求めに』
そう返したらギルドマスターが大笑いしたのは記憶に新しい。
『そのナリでか!? 面白い!』
その時に周りから何事かと注目されたのも死ぬほど恥ずかしかったので記憶に残っている。
その翌日から私は早速仕事を開始した。
毎日依頼ボードに足を運び、依頼報酬にスクロールがあると、内容に目も暮れず依頼書を受付は持っていき、依頼をこなして宿に帰る。
そんな生活を続けていたらいつの間にかレジェンドクラスに昇格していた感覚だ。
今回もギルドマスターは私のためを思ってこの依頼を回してくれたんだろうと思案する。正直、他の冒険者と行動するのは面倒だけど、一縷の希望に縋りたい。
それほど治癒系スクロールが欲しい。それが、私の人生の目標に近づく為なのだ。
「絶対になってみせる。聖女に……」
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