第6話 魔法の習得とギルドにて
『ここらへんでいいかな』
街道から少し歩いて、外れの平原に私は一人立っている。周りに人がいないかを確認し、暗闇ノ渦を展開してスクロールを取り出す。
--私がなぜここに来たのかというと、単純な話。
『さて、どんな魔法が込められてるかな……』
魔法の試し打ちの為である。
職業能力も魔法もそうだけど、まずどんな現象が起きるのか……その確認作業はとても大事な行程なのです。
ぶっちゃけ本番で使って酷い目にあった…なんて話が昔はよくあったらしい。その原因は冒険者達の情報共有ができていなかったせいだ。つまり、秘匿主義も過ぎれば毒になる……って事なんだとその時私は思った。
もちろん、奥の手は隠して損は無いと思う。もしものための備えだしね。
だけども、大衆が使うであろう魔法や武技は、文字に残した方がよい--なんて大昔のお偉いさんは考えたみたい。そのおかげで、今はギルド内にある休憩所に、魔法や武技の目録なんてものがあるくらいには、情報が流通してたりする。
だから私もある程度は知識があるけど、試しておくに越したことはないと思う。
……昔デタラメな情報に踊らされたことがあったせいでは断じてないのです。あの武器屋と防具屋マジで許さん。固有武装より人の手が作った物が一番いいなんて言っときながら……----
……閑話休題。
さて、まずはスクロールを左手に持ちます。そして魔力をスクロールに流します。同時に、右手の指に予め切り傷をつけておきます。その指を、巻かれた状態のスクロールの中心に擦り付け、血を付着させます。(血をつけるだけでよし)
するとスクロールが淡く光るので、そこでスクロールの開示が可能になります。
私は慣れた手つきでスクロールを開いていく。……相変わらず魔法陣が眩しい。
目を細め、魔法陣の色を確認。
光り輝く魔法陣の色は、血のように濁った暗い赤。……攻撃魔法で、系統は闇。
『ま、そうだよね』
私は少し落胆した。回復魔法がそう簡単に込められているわけがない。期待はあまりしてなかったのが救いかな。
……ま、けども私にピッタリな魔法だ。すごい皮肉だけど。すごい皮肉だけど!
その魔法陣の光が収まるまで私は顔を背けずスクロールを見つめ……やがて魔法陣の発光が無くなっていく。
『ふぅ……』
そうして残ったのはただの紙。あとは捨ててもいいし、記念に残すくらいしか用途がない。ちなみに私は使用したスクロールは記念に残す派だ。
暗闇ノ渦を開き、開示済みのスクロールを放り込む。
私は目をつぶり、さっき覚えたばかりの魔法を行使する。
『ダークアンカー』
詠唱を口にした瞬間--虚空から闇のオーラを纏った鉄の杭が飛び出してくる。鎖つきの杭で、杭の大きさは私の腕と同じ太さで長さは短い。
ジャラジャラと音を鳴らしながら前方に飛んでいき、徐々にその勢いがなくなって草腹に落下。そして私の横の虚空に生えていた鎖が消えた。
『なるほど……』
……これ、攻撃魔法なの??
あの後色々と検証してみた。1、アンカーの長さは無限ではない。と言ってもかなり長い距離を伸ばすことが可能。
2.強度はかなり高い。
私の斬撃を三度耐えた位だから、並の攻撃じゃ壊れない……はず。
3.威力もそこそこある。試しに森に生えてた木に打ち込んだら、木を貫通し、さらに後ろの木を貫通した。その際にアンカーを戻そうと意識したら、木が根っこごとこっちに飛んできてビックリした。
……後で木を見たら、アンカーの先っぽが四つに開いていた。これで引っかかっていた模様。
『エグい……』
私の感想は第一にそれがでた。貫通力。拘束力。そして奇襲性。考えるだけで色々と使用法がある。確かに使える魔法だ。エグいけど。
一応、リネスさんに感謝しておこう。ただ、白金貨10枚の価値があるかと言われると……--。
「あっ! レイラ様! お待ちしておりました」
『どうも……』
私は魔法の試し打ちを終えてから、ついでにギルドに寄ることにした。指名組織依頼の報酬を受け取りに来たのだ。
明日にしようかと思ったけど、よくよく考えれば私は今日は暇だった。まあ、疲れてはいるから、報酬を受け取ったら宿で寝るのは決定事項なのです。
「報告受領後に姿が見えなくなったので少し心配してました。ええ、わかってますよ。お忘れのコレ、ですね?」
『ええ……』
受付嬢さんは指でお金のマークを作ってニコリとした。全くもってその通りだから、私は静かに肯定する。……うん、恥ずかしい。
「あっ、そういえば……--レイラ様、今お時間宜しいですか?」
『……?』
報酬を受け取って、さあ帰るぞと意気込んだ矢先に受付嬢さんに呼び止められる。
「言い忘れてたのですが、ギルドマスターがレイラ様に指名依頼をお願いしたい、と」
『私に……?』
指名依頼。それ自体は珍しくない。私はもういくつもこなしており、そのお陰で評価も上がる。レジェンドクラスになる為の条件にもなっている。
ただ、ギルドマスターが私を……レジェンドクラスを指名するのは、訳が違う。
「はい。詳しくはギルドマスターが直接お話になる、とのお達しです」
『わかった』
受付嬢さんの言葉に了承を返し、私はギルドの奥に足を進める。
……周りで聞き耳を立てていた冒険者たちを横目に見ながら、兜の中で溜息を吐く。
また在らぬ噂がたちそうだなぁ……。
そう考えるだけで少し頭が痛くなった。
あの人--ギルドマスターは決まって執務室にいるのを私は知っている。たまに私に愚痴るのだ……。書類の処理がめんどうらしい。いや、それが仕事でしょ。とつっこみたい。
さて……私になんの指名依頼があるのか。……レジェンドクラスになって早々、面倒な事じゃないといいけど。
そう考えながら、私の足取りは少しだけ重くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます