夢の中のメアリー

灰崎千尋

メメント・モリ

 第二回偽物川小説大賞、お疲れ様でした。

 拙作『死にたがりのメアリー』https://kakuyomu.jp/works/1177354054934340708がなんと、金賞をいただきました! ありがとうございます。読んでくださった皆様のおかげです。

 とても嬉しいので、ちょっと自分でもこの作品を振り返ってみたいと思います。


<着想>

 あれは偽物川小説大賞の企画が発表される数ヶ月前のこと、私はひどい悪夢を見たのです。

 それは自分自身が何度も死ぬ夢でした。火に焼かれたり、海で溺れたり、事故や他殺ばかりだったのですが、「あ、死んだな」という感覚はやけに生々しくあるのに、その次の瞬間には生き返っている。そしてこれが夢だとうっすら自覚もしている。そこで夢の中の私は考えました、「あーこのしんどいやつ小説のネタにしよう。タイトルは……『死にたがりのメアリー』ってなかなか語呂がいいよね」と。

 息荒く、汗びっしょりになって目覚めたとき、その考えが強烈に残っていましたので、咄嗟に枕元のスマホにメモを残しました。この時の私を誉めてあげたい。

 というわけで、これがメアリーの始まりでした。


<構成など>

 とはいえ「死にたがり」ってタイトルが先に決まったものですから、メアリーは「殺されても死なない」という不死よりは、「死にたくても死ねない」不死ということになりました。

 この時点で結構しんどい設定なので、その周りは多少ポップにした方が読みやすいだろうと思い、なるべく淡々としつつもちょっと夢うつつな文体とか、変わり者だけど一番人間らしいマクレーン夫人とかを組み合わせてみました。

 そもそもB級映画の類が結構好きなんです。『ハッピー・デス・デイ』という、自分を殺す犯人を止められるまで、殺されてしまう日を繰り返すという大変面白い作品があるんですが、いま思うとその影響もありそう。


 メアリーの不死については、あんまり明かすのも野暮かもしれませんが、きっちり設定を決めておらず、強いて言うなら「バグみたいな不死」をぼんやり考えていました。世界の構造は強固に見えても、実は小さなバグから妙ちきりんな崩れ方もするんじゃないか、と。目に見えて、解析できる影響ばかりじゃないはず。そしてそれは呪いにも祝福にも成りうる。

 そういうものが書きたかったので、「現代ファンタジー」というジャンルになりました。異世界だともうちょっとなんでもありそうだし。いま現実にある此処と地続きのような、しかし此処ではないどこか。

 舞台のイメージは医療保険がとっても手厚い、架空の英語圏の国です。田舎はわりと寂れがちな。


 中盤の展開について。今年は特に有名人の訃報に多く接したなぁと思うのですが、それに対する世の中の反応を見るにつけ、自分がこんな扱いされたら嫌だな、という思いがずっとありまして。生きているときなら反論もできるでしょうが、死に際して見知らぬ輩が色々言ってたら「あんたなんか知らない!」と叫びたい。


 結末については、やはり私は美しい終わりが好きなので、ついああいう形に。手癖が過ぎるかしら、と思いつつも、メアリーを幸せにするにはこれしかない気がしたので。

 とても不安だったのですが、この結末を気に入ってくださった方がたくさんいらっしゃって、安堵しています。


<キャラクター>

 メアリーやクラーク医師については、そこまできっちり決めていなくて、むしろ皆さんがどういう人物だと思ったのか聞いてみたいです。

 マクレーン夫人だけは、やっぱり色々考えていました。読んでくださった方に大人気で嬉しい。私も書いていて楽しかった。この大家さんがショットガンをぶっ放してくれたおかげで、エンタメ度がぐんと上がったはずです。

 マクレーン夫人は感情と直感にとても素直な人で、自分の大事なエリアを侵さないなら、店子が何をしようと自由だし、そうあるべきだと考える人。だから部外者には容赦しないし、メアリーが助けを求めれば手を差し伸べてくれるでしょう。彼女なりのラインがきっちりしていて、合わない人にはたぶんしんどい。メアリーはそこそこ合う方だったようです。

 故マクレーン氏は寡黙な人で、夫人を大切にしていたけど口には何にも出さない、古めかしいおじいさん。心臓発作でぽっくり先に逝ってしまいました。趣味の狩りはそこそこの腕前。生前は夫人に銃を触らせたことはなかったけれど、もし一緒に狩りに出ていたなら、夫人の方がめきめき上手くなったかも。


<終わりに>

 今回は色んなことが良い方に転がり、評議員の皆様にエンタメとして評価していただけて、とても嬉しかったです。たぶん重厚な死は、他に上手い方も大勢いらっしゃるから、とは確かにちょっと思っていました。でもその結果、今まで自分の書いたどの作品にも似ていないものが出来上がったものですから、公開するときは本当に不安でした……これも大丈夫なのだ、と自信を持って、次に繋げていきたいと思います。

 今回の企画のおかげで、色んな死のかたち、死生観を見ることができて、大変興味深かったです。まさにメメント・モリ。


 また川遊びさせてください。

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