第521話 白銀と銅の違い

 『王! アーレスの家から煙が?!』


 「な?!」


 現在、王城から逃げ出してきた僕は、アーレス邸へ向かっていた。


 マルナガルムにはできるだけ急いでと伝えたので、いつもより早く着く予定だったのだが、アーレス邸が見えてきたら煙が立っている様を目にした。


 もしかして城の兵たちが僕らより先回りしたのか?


 『おいおい、あーしらが捕まってる間に襲われてたってことか』


 『連中、もしや洗脳した王族から聞いたのでは? 城の地下には、もしもの時用にアーレスさんやタフティスさんの家に繋がる転移魔法陣があることを』


 マジかよ! だとしたら急がないと!

 

 アーレスさんの家に辿り着いた僕は、視界に広がる光景に驚愕を隠せなかった。


 なにせ――皆はお庭でバーベキューをしていたのだから。


 「シュコー。ホルス、そこの肉は焼けたぞ」


 「おおー!」


 「「ぷはー!! キンキンに冷えたジュースは格別と告げます!」」


 「へぇー。じゃあ、この果物って加熱すると甘みが増すんだ。エルフって果物使った料理得意だよねー」


 「はい。これは故郷に居た頃教わったレシピでして......」


 「「『『......。』』」」


 僕らは何とも言えない気持ちに駆られた。


 家を焼かれたとかじゃなくてよかったけど、うん、なんかなぁ、緊張感がさぁ......。


 すると戻ってきた僕らの存在にいち早く気づいたドラちゃんが、焼いた肉串を片手にこちらへ駆け寄って来た。


 「ご主人! おかえり!」


 「う、うん。楽しんでるところ悪いけど、皆に伝えないといけないことがあって......」


 「? あ、肉食べる? ほら」


 「ごめん、それどころじゃない......」


 僕はバーベキューで楽しんでいる皆に事情を説明した。


 ちょっとだけ心苦しかった。


 「シュコー。城でそんなことがあったのか」


 「うん。それで、アーレスさんを探してるんだけど、あの人はまだ帰ってきてないの?」


 「アーレスはまだ帰ってきてないよー」


 マジか......。城に居る騎士たちはハミーゲに操られていたけど、街の方を中心に警備しているアーレスさんたちは大丈夫のはずだ。


 とりあえず、急いで屯所に――。


 そう思っていた頃合いだ。


 アーレス邸の一角が盛大な爆発と共に吹き飛んだ。爆風が僕らが居る中庭のバーベキューのセットや食材を無茶苦茶にしていく。


 「「「っ?!」」」


 「シュコー」


 「な、なんだなんだ?!」


 破壊された場所から土埃と共に人影が浮かぶ。それは複数人居るようで、ぞろぞろと現れた。


 そして破壊されたのは、風呂場近くの部屋だ。


 つまり......。


 僕はこの場にやってきたそれらを前にして、忌々しく思いながら呟く。


 「アギレスの人形どもか......」


 白銀の鎧を纏う騎士。それらは皆、盾や剣、槍を手にして、十名ほどやってきた。しかしアギレス本人が居ない。どういうことだ。


 「なぜ博士が居ないんだ......」


 『本当ですね。遠隔操作できるにしても王城からなんて......』


 すると今も変わらずに【水面隠蔽】で姿を隠している<5th>が口を開く。


 「アギレスなら城に居たまま、こうして騎士を送り込むことができる」


 「え? 知ってるの?」


 「私を誰だと思っている。なんら不思議じゃない。アギレスはあれら騎士を遠隔操作する【固有錬成】を有していて、魔法で視覚を共有しているんだ」


 おおう......。じゃあリモート操作ってことか。


 にしてもあの数......。


 「くそッ。こっちはアーレスさんたちと合流しなきゃいけないのに」


 僕がそんな悪態を吐いていると、僕の前にエプロン姿のノルが立った。


 「ノル?」


 「シュコー。ここは私が引き受けよう」


 「い、いや、君が強いのは知っているけど、この数じゃ......」


 ズドッ。ノルがどこからか黒い大剣を生成して、それを地面に突き刺した。


 数々の白銀の騎士たちを前に、銅色の鎧を纏うノルはより一層目立っていた。屋外用の明かりに照らされ、何よりも重く感じさせる威圧感を纏っていた。


 白銀色の騎士と銅色の騎士の中に人は居ない。それでもこの数を前にして、まだノルの方が一際存在感を放っていた。


 「オウ、それはこの数で私が負けると言いたいのか」


 「......勝てるの?」


 「シュコー。無論だ。むしろ数が足らないくらいだ」


 はは、恐ろしいこと言わないでよ。


 「よし、ここはノルに任せるよ」


 「任された」


 するとノルの隣にエルフっ子ことウズメちゃんとルホスちゃんが立った。


 「我も戦う。食いもんの恨みは怖いってことを教えてやる」


 「わ、私も戦います!」


 そしてドラちゃんも。


 しかし彼女は僕に向かって言ってきた。


 「ご主人、ごめん。オレはまだまともに魔法を使えないから、ここに残るよ」


 「ううん。無理はしないでね」


 「うん」


 僕はこの場をノルたちに任せることにした。


 「インヨ、ヨウイ、僕に力を貸して!」


 「「了解です!」」


 「ティアもついてきて! 【転移魔法】を何度か使ってもらうと思う!」


 「はーい!」


 「マルナ! 騎士団の屯所......いや、アーレスさんの居るところまで僕を連れていってくれ! ......マルナ?」


 と、マルナにも指示を出すが、返事が来ない。


 マルナの方を見やると、マルナは焼いている途中の大きな骨付き肉にかぶりついていた。


 『はぐ! んぐ! おいしいッ!』


 「......。」


 こ、このバカ犬......。


 僕はマルナに再度指示を出し、彼女の背に乗る。武具化したインヨとヨウイは“白”の力で僕の腰にくっついてもらい、携える形となった。


 そのタイミングで、どんどん数を増やしていった白銀の騎士が僕らを襲ってきた。


 が、


 「シュコー」


 一線。白銀の騎士が胴の辺りから真っ二つにされて、その美しい鎧を地面に放り投げた。


 ノルが再び黒い大剣を地面に突き刺し、灰色の息を吹きながら怒号にも似た声で宣言する。


 「我が名はノル。<銅貨>のノル。至高のオウに仕える騎士である。何人たりともオウの邪魔をすることは許さん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る