第516話 また捕まる、よく捕まる

 『王、今日もお城に行くの?』


 「うん。悪いけど、また送ってくれない?」


 『えー! 偶にはガルと遊ぼーよー! アロばっかずるいー!』


 「アロさんね。マルナが人化して、僕とベッドの上で一緒に遊んでくれるならいいけど」


 『? わかった! ガル、変身するね!』


 『『やめろ』』


 魔族姉妹から両頬それぞれにパンチを食らって、僕はその場に崩れ落ちる。


 冗談だってば。


 現在、アーレス邸を発った僕は、今日も今日とて向かう王城に行く予定である。休日なんか無い。まぁ、毎日王族姉妹とイチャつけるから休日なんて要らんが。


 僕はアーレス邸の中庭で人の姿に戻った彼女を、もう一度巨狼化させることにした。


 『王は何がしたいの?』


 「セック――」


 『鈴木さん、マジで自重してください』


 『おめぇ、あーしの目が黒いうちはヤラせねぇーからな』


 目、どこ。


 とりあえず諦めて、僕はマルナの背に乗り、そのままお城へ向かうことにする。


 道中、特にこれといったイベントは起こらず、普通にお城に着く。


 城の門付近に着くと、そこで門番している兵士さんに止められた。いつものことだが、もはや毎日通っているので、顔パスで通してくれる――


 「スズキ様、本日は身体検査をさせていただきます」


 「『『え?』』」


 はずだった。


 僕と魔族姉妹の口から間の抜けた声が漏れる。


 え、ちょ、なんでいきなり......。昨日までは普通に素通りだったじゃん。戸惑う僕はマルナガルムの背から下ろされ、個室へと連れて行かれた。


 や、ヤバい。魔族姉妹の存在がバレたら厄介だぞ。


 二人は口を隠すことはできるけど、核は僕の体内にある。その核すらも二人なら上手く隠せるんだけど、実際、僕の体内に魔族の核があることは<屍の地の覇王リッチ・ロード>や<1st>にバレてる。


 だから人によってはバレる可能性があるのだ。


 僕は近くの騎士さんに問う。


 「あの、なぜ今日検査を? 僕は既に以前やったと思いますが......」


 「スズキ様は平民の身。こうして抜打ちで検査させてもらって、常に安全であることを確かめる必要があります」


 マジか......。だとしたら、アテラさん辺り注意がけしてくれると思うんだけどな。


 それに騎士さんの対応も以前よりなんか厳粛だし。


 というか、僕はそんな危険物を持ってかなくても、僕自体が危険物みたいなもんだから、今更懐にナイフとか隠してる訳ないのにな。


 僕は騎士さんの指示に従い、服を抜いだ。


 下着も。


 騎士さんがそんな僕に言う。


 「下着は脱がなくていいです」


 「え、なんで? 前回はイチモツの長さまで測ってたじゃないですか」


 『んなわけあるか、馬鹿』


 『こら、隠れてなさい』


 「不要です」


 え、ええー。本当に前回はそうだったのに......。これじゃあ僕が全裸になりたい人みたいじゃないか。


 が、そんなときのことだ。


 「なんだこれは!!」


 「『『?!』』」


 後ろに立っている騎士さんが、何か紫色の液体が入った小瓶のような物を手にしていた。


 なんだ、あれ。


 すると、その小瓶を手にしている騎士さんが僕に怒鳴りつけてきた。


 「貴様! これは毒だろ!! なぜこんなものを持っている?!」


 「はぁ?! 僕がぁ?! んなわけないでしょ――」


 「スズキ、貴様を王城に毒物を持ち込もうとした罪で取り押さえる!」


 ふぁ?!


 マジで意味わからん、何この茶番!


 『お、おいおい。どういうことだ?』


 『さ、さぁ?』


 僕らは何がなんだかわからないまま、複数の騎士に囲まれながら外へ連れ出された。


 もちろん、パンツ一丁のまま。


 「ちょっと! 僕は知りませんって!」


 「黙れ! 大方、アウロディーテ姫殿下かアテラ姫殿下を毒殺しようとしたのだろう! 貴様の魂胆など見えている!」


 『王! どうしたの?!』


 外に出ると、巨狼のマルナガルムが僕の方へやってきた。騎士たちがマルナガルムを囲って槍を突きつけていたけど、彼女はそれらを無視してこちらへやってくる。無論、マルナガルムの獣毛に騎士の槍が刺さるわけが無い。


 「マルナ! 城の人たちの様子がおかしい!」


 『騎士たちを狩ればいいんだね! わかった!』


 「違う! 僕が毒物を持ってくるわけないのに、毒物所持の疑いをかけられているんだ!」


 『この城に居る人間どもを食べればいいんだね! わかった!』


 「違う! ぼ・く・が! 疑われているの! 無実なのに!」


 『......つまりガルは誰を殺せばいいの?』


 こ、こいつ、マジで話通じねぇ。話が通じないのは騎士だけにしてくれよ......。


 なんかマルナガルムは興奮して尻尾をぶんぶんと左右に振ってるし。今から狩りを命じられると思っているのだろうか。


 マルナガルムとああだこうだ言っていると、いつの間にか騎士たちが僕を囲っていた。全員、槍を手にして、その鋭い矛先を僕らに向けている。


 「そいつを捕まえろ!」


 「でかいモンスターも縛りつけろ!」


 『なんかすごいことになりましたね......』


 『落ち着いている場合か! 鈴木、どーすんよ?! 逃げるか?!』


 「逃げたら罪を認めているようなもん――」


 「これは何事ですの!!」


 僕の言葉を遮って、この場にやってきた少女がやってきた。白緑色の髪をツインテールに結った見目麗しい王女、アテラさんだ。彼女の後ろにはメイド服姿のガイアンちゃんが見受けられた。


 彼女はこちらへズカズカと歩み寄ってくる。状況を察し切れていないのか、やや困惑したような顔つきであった。


 「ファント隊長! 説明しなさい!」


 「はッ! スズキに身体検査をしたところ、毒物を持ち込んでいたことが判明しました!」


 「毒物ですって?!」


 「す、スズキがそんなもの持ち込む訳ないだろ!!」


 ガイアンちゃんがそう言ってくれたことに対し、アテラさんは騎士たちに囲まれている僕を見やる。


 パンツ一丁の僕を。


 ......これ、どういう状況ですかね。


 アテラさんは裸の僕を目の当たりにし、やや視線を逸らして、頬を紅潮させてから告げる。


 「こ、この方はわたくしの恩人と思って接しなさいと命じたはずですわ。毒物? 彼がそんなものを持ち込むなんてありえませんわ」


 そう言って、アテラさんは僕らの方へ近づいてきた。この人、この状況でも僕を信じてくれるなんてすごいな。


 が、そんなアテラさんの前に、先程彼女に名を呼ばれたファントという男が立ち塞がった。アテラさんが怪訝な顔つきになる。


 「......お退きなさい」


 「ではアテラ姫殿下は我々が嘘を吐いているとでも?」


 「そ、それは......」


 「まずは取り調べを行います。なに、我々としても確固たる証拠を示したいと思っているのですよ」


 「......。」


 アテラさんはファントを避け、そのまま僕の方へ寄ってくる。彼女が近づくに連れて、周りに居る騎士さんが僕の首に槍を突きつけて、身動きを取れないようにしてきた。


 アテラさんが僕に告げる。


 「スズキさん、今しばらくお待ちいただけませんか? わたくしがお父様に確認して参りますわ」


 「......大人しく捕まれと?」


 「お願いしますわ」


 アテラさんも事態の整理が追いつかないのだろう。ならばここは言う通りにして、一旦捕まるしかないのか。


 僕は抵抗することをやめ、大人しく両手を上げる。マルナガルムにも暴れないよう命令した。それを見たアテラさんがお礼の言葉を言ってきた。悲しげに、且つ歯噛みしていたのがよくわかる顔つきで。


 「......ありがとうございます」


 「取り押さえろ!」


 斯くして、僕は城の騎士さんたちに捕まるのであった。



******



 「これが地下牢かぁ」


 『なんか大事になってきましたね』


 『ま、抜け出そうと思えばいつでも抜け出せんだろ』


 現在、城の地下牢に居る僕は、周りの壁と天井、床が石造りの部屋に居た。眼の前の鉄格子は錆びついていて、やはりと言うべきか、よくわからない何かが腐ったような異臭が漂ってくる最悪な環境である。


 ちなみに地下牢と言っても、アーレスさんやタフティスさんの家に繋がる転移魔法陣がある地下施設ではない別の場所だ。


 両手を縛られている僕は、床に寝そべっていた。


 相変わらずパンツ一丁だから、地面のひんやりとした感覚でくしゃみをしてしまった。


 「風邪ひきそう......」


 『あーしが治してやっから安心しな』


 『鈴木さんの風邪はどこから?』


 「股間から」


 『言うと思ったわ』


 『股間から来る風邪とは(笑)』


 などと、余裕そうに会話する僕ら三人。


 僕を縛っている手枷は見た目鉄製っぽいんだけど、その中央に淡い赤色に光る鉱石みたいなのがはめられている。魔族姉妹曰く、これは魔法を封じる手枷なんだって。発動効果はこうして直接縛ってないと意味が無いらしい。


 だから何?って話だよね。僕、魔法が使えなくても【固有錬成】があるし、モズクちゃんだって健在だ。


 問題はここでこのまま大人しくしてるかどうかだ。


 「一体全体、この城で何が起こっているって言うんだ......」


 「今回の新入りは一人でよく喋るな」


 と、僕が呟いていたら、向かいの牢屋に誰か居ることに気づいた。


 そいつは僕より少し年上くらいの青年で、藍色の髪をしていた。細身のその男は力なく壁に背を預けている様子だが、切れ長の瞳で僕を見つめていた。


 身体の至る所に包帯が巻かれていて、定期的に換えていないのか不清潔な印象だ。


 「誰ですか?」


 「はは。この私を忘れるか。私は君の見た目が変わったとしても、その声を聞いてすぐにわかったというのに」


 と言われるが、僕は全く覚えがない。声はどこかで聞いた覚えがあるような、無いような......。すると先方は呆れながら言う。


 「まぁ、以前の私は組織の決まりで仮面をしていたからね」


 「お名前を伺っても?」


 「名前を伝えた覚えは無いから、聞かされても意味は無いよ」


 なんだこいつ。イラッと来るな。


 寝そべりながらそんな気持ちに駆られている僕の様子を面白がるように、そいつは静かに告げた。


 「<5th>......そう言えばわかるかな?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る