第509話 最悪な再会
「なるほど、スズキ様と魔族姉妹様にそのようなご事情が......」
『そそ。だから協力してほしーんだよ』
『もちろんただでとは言いません。鈴木さんを好きに使ってかまいませんので』
おい。僕を差し出すな。
現在、僕は第一王女アウロディーテと今後の予定について綿密な計画を立てていた。
え、どっかに行ったマルナガルムとティアは探さないのかって? もう放置だよ。どうせ呼び戻しても退屈だからって、ほっつき歩き始めるし。セバスチャンも同行しているようだから大丈夫でしょ。
で、彼女には僕が異世界から来たことは伏せて説明したが、魔族姉妹の過去にどんなことがあったか、その手がかりを見つけるためにも王女である彼女の力を貸してほしいと頼み込むところから始まった。
ちなみに魔族姉妹には昨日のうちに、ズルムケ王家は<
二人はそれを聞いて、『そいつは偽者』という回答を出した。僕も同意見だ。でも無関係とも思えないので、最優先で調査する次第である。
僕はアウロさんに言う。
「まぁ、このことが解決すれば、もしかしたらアウロさんのみが受け継いでいる王家の呪いについても何かわかるかもしれませんしね」
「......ありがとうございます。この件に関しては、是非協力させてください」
「お願いします」
『で? やっぱアウロディーテは祝福の儀とかいう胡散臭い儀式を受けんのか』
『胡散臭いは失礼ですよ。百パー、アダロポスの偽者だとしても、ですが』
「まだ私からは何とも......。ただ王家が代々秘密裏に行ってきた伝統でもありますので、王家の者のみで実施するとなると、それなりに時間は要すると思われます。他は頼れないので」
なるほど。
その辺りも含めて、国王さんに聞いてみようかな。僕は約束通り、国王さんになんでも質問できる機会を作ってもらう予定だから。答えてくれるかは別だけど。
そしてこの<
「あとは次代の国王ですね」
「......。」
僕の呟きに、アウロさんが俯く。
「どうしました?」
「いえ、その、このまま順当に行けば、ヘヴァイスが次期国王になると思われますが、私がこうして生きている以上、王位継承の権利が私にもあると思うと......」
ああ、そうだよな。あんなことがあったんだ。女王として王国の人々を導く存在になることに抵抗があるのはわかる。
でもアウロさんは次代の王となる素質を受け継いで生まれてきてしまった。例の王家の呪いだ。
そのよくわからん呪いのせいで、彼女は寿命が短く、また病弱な体質だが、人より優れた才能を有している。その呪いが彼女にとってある種の宿命を課しているんだ。
僕は苦笑しながら言った。
「無理になる必要は無いと思いますよ」
「しかし私にはその義務が......」
『んなクソみてぇーな義務は果たさなくていーわ』
『ですです。せっかく自由の身になれたのですから、残りの人生を楽しめばいいと思いますよ』
などと、無責任なことを言う僕ら。
アウロさんがどう思っているかは知らないけど、こればかしは平民である僕には計り知れない。
彼女がそれでも女王として君臨したいと言うのであれば、それなりに協力はするつもりだけど、たぶんそれはないだろう。
するとこの部屋の扉がノックされたので、僕が応じることにした。
この部屋にやってきたのは、ぼさ頭が特徴の少年――博士ことアギレスさんだ。
「あ、博士」
『お、このショタが<無情の騎士>か』
『こら、ショタとか言わないの』
「やぁ。なぜかボクチンがこき使われて、チミを呼びに来たよ〜」
「え、僕を?」
「そそ。今取込み中でなければ、ヘヴァイス殿下の部屋まで来てくれないかな?」
ヘヴァイス殿下が?
博士さんは僕の後方に視線を移し、そこに居るアウロさんを見ながら言った。
「ヘヴァイス殿下もえらくチミを気に入ったみたいでね。色々と話したいことがあるらしい」
「はぁ」
僕はアウロさんを見やった。彼女は僕と目が合った後、こくりと頷いて僕がこの部屋から退室することを許可した。
僕は博士に連れられてヘヴァイス殿下の下へ向かうことになった。
博士さんはヘヴァイス殿下の部屋にノックもせず入室して、僕を連れてきたことを部屋の主に伝えた。
やってきた場所はえらく広い執務質だった。あまり物は置かない主義なのか、本棚すら無い空間で、ただ執務用の机と椅子、それと客人用の席があるくらいだ。
ヘヴァイス殿下は博士さんの無礼について言及することなく、僕に話しかけてきた。
「よく来てくれた、スズキ」
『おお、まるで物語に出てくるようなイケメン王子ですね』
『鈴木の方がかっけぇーけどな』
「どうも。僕に何か用です?」
「単刀直入に言おう。私の下に就け」
へ?
僕はまるで鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔つきになって、ヘヴァイス殿下を見つめた。
彼は続ける。
「いきなりすぎて戸惑う気持ちはわかるが、なに、悪いようにはせん」
『なんだこいつ』
『さぁ?』
「あの、僕は別になんの権力も持ってませんけど」
「貴様に権力の有無は期待していない。私は純粋に貴様の力が欲しいと思ったまでだ。ちゃんと報酬も用意してやる」
「えっと......何かお困り事でも?」
僕はいまいちこの人の考えていることが理解できなかった。なんでいきなりこんなこと言ってくるんだろう。それを察してか、ヘヴァイス殿下は腕を組んで、椅子の背にもたれかかる。
「困っていると言えば困っていると言える。なにせ、私が次期国王になることをアテラが邪魔しているからな」
アウロさんが長い間、ジュマの呪いにより苦しんできたのはハミーゲという男のせいで、そいつが貴族派筆頭のヘヴァイス殿下の下に居るからだろう。
極端な話、アテラさんはヘヴァイス殿下を疑っているからな。
僕のその考えを察してか、ヘヴァイス殿下が話しながら机の引き出しを開けた。
「アテラと姉上からハミーゲについて聞いているのだろう?」
「っ?!」
それからヘヴァイス殿下は十数枚の書類の束を取り出し、机の上に置いた。
「......それは?」
「読んでくれ」
僕はそれを手に取った。
そこには五年前、ハミーゲが犯した罪について書かれていた。複数の貴族たちの証言、ハミーゲが暗殺者ギルドと関わりを持っていること、派閥を変えるまでに何を行ってきたか、など色々と記載されている。
それは少なからず、ヘヴァイス殿下が実際に動いて調査した当時の記録も書かれていた。
妹者さんがそれらを見て、僕と同じ感想を口にした。
『おいおい。これだけあれば、あのクソ貴族を追い込めるじゃん』
『ですね。しかしなぜ今までハミーゲを罰さなかったのでしょう?』
そんなの決まってる。
ヘヴァイス殿下は......こいつはアウロさんが城のどこかで生きていることを知っている上で、そのまま見過ごしてきたんだ。
あの地獄のような辛い日々を送ってきた彼女を救おうともせずに。
僕が静かに憤りを覚えていると、背後から博士さんの声が聞こえてきた。
「チミチミ、そんな殺気を垂れ流しちゃ駄目だよー。相手は一国の王子ってことわかってる?」
「......。」
僕が殺気をヘヴァイス殿下に......。
博士さんの言葉で少しだけ冷静になれた僕は、その資料をヘヴァイス殿下に返した。
「あんたは僕とハミーゲを天秤に乗せたってわけだ」
その言葉に、ヘヴァイス殿下は不敵な笑みを浮かべた。僕の物言いに怒ること無く、ただただ面白そうにこちらを見上げていた。
「話が早くて助かる。私は有能な者を手元に置きたいんだ」
「今までハミーゲの罪を見過ごしてきたのは、少なからず公爵家としてこの国に貢献してきたから?」
「ああ、今も国のために働いてくれているがな」
「あんたならハミーゲを手元に置いたまま、僕を陣営に加えることもできたんじゃないの?」
「できないな。なにせ貴様みたいな人間は憎い相手を庇う者には手を貸してくれないだろう? ならどちらか切るまでだ」
ハミーゲは用済みってことか。いや、ハミーゲを捨ててでも僕にしてほしいことがあると捉えるべきかな。
僕はヘヴァイス殿下に問う。
「僕は何をすればいい?」
「それはまだ言えんな。私と“お友達”になってくれたら話そう」
僕、こいつのこと嫌いだわ。
ヘヴァイス殿下は僕に手を差し出して、握手を求めてくる。
「共にハミーゲに天罰を下そうじゃないか」
「......。」
なんだか悪魔の手に見えて仕方がないが、僕はその手を握るのであった。
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