第499話 身体検査はポコ◯ンまで測られる?

 「いやぁ、王族御用達の馬車がこんなに快適だなんて」


 「スズキ様には最大の敬意を、と仰せつかっていますので」


 現在、僕は王城から来た迎えの馬車に乗って、セレブ気分になっていた。


 一丁前に、僕の片手には高級ワインが注がれたグラスがある。それを味わいながら、僕は馬車から見える王都の街の風景を楽しんでいた。


 なぜこんな事になっているのかと言うと、僕は王族――第三王女アテラ・ギーシャ・ズルムケから依頼を受けているので、これから王城へ向かうためである。


 最高。マジ金持ちになった気分だわ。


 そんな僕の前には如何にもと言わんばかりの初老の執事が居る。彼は背筋を正しており、馬車が揺れても微動だにしなかった。


 僕? 僕は足組んでるよ? かなり上等な馬車でも舗装されてない道を通った時には当然のように揺れるし、揺れたら手元のグラスからワインが溢れる。


 服も汚れるし、馬車の座席も汚れてしまったが、執事の彼は怒らなかった。


 でも何度も溢すと申し訳ないので、早々にワイングラスからワインボトルへシフトして、直飲みに切り替えよう。


 ちなみに僕の服は平民のそれだが、王城へ着いたらちゃんとした礼服に着替えさせられるみたい。一国のお姫様に会うからね。そりゃあそうか。


 「セバスチャン、ワインおかわり」


 「畏まりました。あとこの老いぼれにセバスなどと可愛らしい呼び方はお止めください」


 彼の名はセバス・バウトリア。軽々しくセバスちゃんと呼ばれたのに、気を悪くせず微笑んでくれるのだ。


 こういう人だよ。僕の周りに一人は欲しいね。


 だから、


 「おい、セバス。吾輩にも酒を寄越せ」


 こんな神獣は要らない。


 僕は隣に居る人化したヤマトさんをジト目で見やる。


 実は今日の僕の身体の中には誰も居ない。


 ......すごい表現したな。身体の中には誰も居ないって。


 なんせ王城に入るには入念な身体検査があるからね。魔族姉妹もアーレスさんちで待機だ。無論、騒がしいロリっ子どもと<最悪の王ワースト・ロード>の従者三人も。


 まぁ、たぶん身体検査は最初だけだろうな。次回以降は顔パスで行けるはず。なんせ僕はアウロディーテ姫殿下を救った英雄だから。


 僕はアウロディーテ姫殿下を救った英雄だから(二回目)。


 今後のことも考えて、今日は城に居る人たちに僕の顔を知ってもらう感じだろう。


 だというのに、なぜヤマトさんが僕の隣に居るのか。付き添っているのか。


 それは魔族姉妹のせいだ。


 当時の会話はこう。


 『ヤマトさん、鈴木さんについて行ってくれません?』


 『嫌だ。吾輩は神獣だぞ。子守ばっかさせるな』


 『そーゆーなって。鈴木に悪いむしが付いたら嫌なんだよ。見張っててくれ』


 『なぜ吾輩が......』


 『あなた、先の騒動で目立ってたじゃないですか。その後、街で暴れた者の正体が神獣と知って、お城の人たちはなぜか歓喜してましたし』


 『むぅ。たしかに吾輩を崇拝しておる者もおったな......』


 『だろ? 顔も知られてるし、お前が鈴木の隣に居てもなんら不思議じゃないって』


 『それにきっと豪勢な食事やお酒が振る舞われますよ』


 『......悪くないな』


 悪いよ。


 おっと、つい回想に思ったことをツッコんでしまった。


 僕は遊びに行くんじゃないんだ。なんでヤマトさんが僕のお目付け役に......。


 ヤマトさんが僕の視線に気づいて、鼻を鳴らす。


 「はッ。なんだ、小僧。その生意気な目つきは」


 「僕はアテラ姫殿下やアウロディーテ姫殿下とイチャつくためにお城へ行くんですよ。ああ、違う。今の無し。もう一回言い直させて」


 「もう遅いわ」


 僕が王族に対して不敬極まりない発言をしたというのに、セバスチャンはくすくすと笑っていた。


 僕の視線に気づいて、セバスチャンが軽く咳払いする。


 「失敬。アテラ様も、アウロディーテ様もスズキ様にお会いできることを楽しみにしておられましたよ」


 「おおー! 姉妹丼いけるかな!」


 「お主、ちょっとは自重しよ?」


 という感じで、僕らは賑やかな時間を過ごしながら、王城へ向かうのであった。



*****



 「到着しました」


 先に馬車から下りたセバスチャンが僕に綺麗なお辞儀をして、馬車から降りるよう誘導する。


 馬車が進む速度がかなり遅かったからか、道中、僕とヤマトさんはいろんな酒を飲んでいた。もうずっとね。着くまでガバガバ飲んでだ。


 これから王族に会うって言うのに、何してんだろうね。でもそれを止めないセバスチャンも悪い。次から次へとお酒を出すんだもん。


 ちなみにその甲斐あってか、ヤマトさんは酔い潰れて馬車の中で寝ている。酔わせたらヤバい人ランキング上位に入る彼女だが、意外にも呆気なく眠りについた。


 僕はそんな褐色美女に枕代わりとして膝の上を貸して飲酒を続けた。


 でも全然酔わなかった。めっちゃ美味しかったという感想しか湧かない。

 

 僕は下りた。


 ヤマトさんはそのまま来客用の休憩室へ連れてかれる模様。


 僕のお目付け役、お城に入ってすぐお別れとか、マジでこの人何しに来たんだろ。


 まぁいいや。


 僕が馬車から降りると、セバスチャンが目を見開いてやや驚いた様子だった。


 「?」


 「いえ。あれだけお酒をお飲みになったのに、足取りがしっかりとされているので......」


 ああ、たしかに。


 僕は苦笑しながら答える。


 「僕、体質上、酔いにくいので」


 「左様でございますか」


 それから僕はセバスチャンに案内されるがまま、入城するための身体検査を受けることになった。


 お城の騎士さんが管理している個室へ連れて行かれ、僕はその人たちの指示に従う。その際、僕と目があった騎士さんがすぐに視線を逸らして、見るからに緊張した面持ちを見せていた。


 「?」


 「で、ではナエドコ様、衣服を脱いでいただけますか?」


 「あ、はい」


 僕は言われるがまま服を脱いで、パンツ一丁になる。


 僕の身体を見た騎士さんたちが変な声を出す。


 「うおッ」


 「な、なんだこれ、痣? いや、入れ墨か?」


 「お、おい。あまりジロジロ見るな。失礼だぞ」


 あ、ああー。僕は当然見慣れてるけど、左肩の辺りや右腕には<最悪の王ワースト・ロード>の従者たちの紋章があるし、腕が消し飛ぼうとすぐに復活する装飾品があるからな。


 ちなみにドラちゃんを武具から人間の少女に変えた際に出現した<大魔将>は、光の<大魔将>以外全てコンプリートしてるから、ほぼ全ての指は<大魔将>を使役できる証の指輪で埋まっている。


 そう、光の<大魔将>は持ってないのだ。たぶんだけど、ヤマトさんが倒したからだろうな。


 ティアたちが他の<大魔将>を相手にしたんだけど、僕と契約している関係か、彼女たちが倒した<大魔将>は僕が使役できるようになっていた。


 が、ヤマトさんが倒した光の<大魔将>だけ手に入らなかった。


 もう一生手に入らないのかな......。


 僕がそんなことを考えていると、うち一人の騎士さんが僕に聞いてくる。


 「な、ナエドコ様、身に着けている装飾品は全て魔法具の類ですか?」


 「まぁ、そんなところですね。一応、外せますけど、すぐに僕の指に戻ってくる仕様です」


 「さ、左様ですか。それではこちらでお預かりできませんね」


 「どうします?」


 「いえ、無理にとは申しません。無闇にお力を振るわなければ、と」


 「気をつけます」


 と言った後、僕が万歳すると、さっき僕に聞いてきた騎士さんが言う。


 「あの、できれば下着の方も......」


 「え゛」


 「その......一応、そちらも確認してほしいと、アテ――」


 「お、おい! それ以上言うな!」


 「ごっほん! すみませんが、全部脱いでください!」


 な、なんなの。一瞬、第三王女の名前が聞こえてきた気がしたけど。


 僕はパンツも脱いで全裸を晒す。別に男しか居ないし、いっかなーと思った次第である。露出癖とかは無い。


 「「「お、おおー......」」」


 なんの時間だろうか。


 僕が万歳すると、騎士たちが引き気味に変な声を漏らす。


 うち何人かは紙と筆を持って記録し始める。なんか僕の性剣を重視して、少し離れたところから親指と人差し指で、まるで刃渡りながさを測るような真似までしてる。


 いや、何してんの、こいつら。


 「け、検査は以上です。ご協力ありがとうございました。り、立派なモノをお持ちのようで......」


 「感想言わないでください」


 何言ってんだろうな、こいつら......。


 今更だけど、結局、<大魔将>の指輪とか<三想古代武具>を持ち込むしか無い僕を身体検査して意味あるのかな。普通に全部危険物だと思うけど。まぁ、血液も調べたみたいだから無駄じゃないか。


 斯くして、身体検査を終えた僕はようやく王城に入ることができるのであった。


 「お、お待ち下さい! ナエドコ様! 服を! 服を来てから外に出てください!」


 あ。

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