第498話 ロイヤルおっ○い、再び

 「うぅ。足痛い......」


 「こら。正座を崩しちゃ駄目だよ。これから土下座するんだから」


 『一国の王女を殺しかけてたもんな』


 いやだって、王女さんが勝手に人んちに忍び込むんだもん。


 現在、僕は夜中過ぎにアーレス邸に侵入してきた第三王女アテラ・ギーシャ・ズルムケの前で、ガルと一緒に正座していた。


 ソファーに寝かされたアテラ姫殿下は目を覚まさない。


 アテラ姫殿下は白緑色の美しい髪をツインテールにした王女さんだ。


彼女はスクエアネックが特徴の綺羅びやかなドレス姿で、真っ白な肌と開けた胸元から見える谷間が絶景を物語っているが、それを楽しんでいる場合じゃない。


 うちの犬っころが王女さんを絞め殺そうとしたのだ。


 ちなみにリビングには僕ら以外に、アーレスさんとノル、インヨとヨウイが居る。ロリっ子どもは呑気に温めたミルクを飲んでいた。


 しばらくしてアテラ姫殿下が目を覚ました。


 「うぅ......ここは......」


 「?! マルナ、せーので頭を下げるよ!」


 『せーのとか言うな』


 「ええー! ガルは何も悪いことしてないのにー!」


 『まぁ、この子は純粋に鈴木さんの身を案じていたので、悪気があったとは思えませんが』


 そんなの僕だって知ってるよ! でも相手は王女だからね! 帝国、聖国に続いて王国まで厄介者扱いされたら、僕はどこに行けばいいのさ。


 意識がはっきりしてきたアテラさんがバッと身を起こし、直ぐ目の前に居る僕らを目の当たりにして驚く。


 「す、スズキさん?!」


 「ほんっとすみませんでした! ほら、ガルも!」


 「やぁ!」


 やぁ!じゃねぇよ!!


 が、僕が一人で頭を下げているところを見た彼女は、すぐにソファーから下りて床に膝を着け、僕に言ってくる。


 「あ、頭をお上げくださいまし! スズキさんが謝るようなことは何もございませんわ!」


 「い、いえ、僕の不徳の致すところでして......」


 「とにかくもう謝る必要はございませんので!」


 ということで、僕は頭を上げて正座した。


 アテラ姫殿下はこほんと咳払いをして、僕らに謝罪する。


 「夜分遅くに申し訳ありません。忍び込む真似をしたこと深く反省しておりますわ」


 アーレスさんが口を開く。


 「姫殿下。なぜ我が家に? 何か急用でもあったのですか?」


 アーレスさんの敬語に、僕は鳥肌が立った。


 『あ、アーレスの野郎、敬語知ってんのかよ.....』


 『寒気がしますね......』


 そして僕だけじゃなかった。


 アテラ姫殿下が苦笑しながら応じる。


 「実は王都に戻ってきたスズキさんがわたくしの依頼を受けてくださると聞いて、居ても立ってもいられませんでしたの」


 「え、僕に会いに?」


 するとアテラ姫殿下は立ち上がって僕に向き直り、頭を深く下げた。


 「先の件、我が姉アウロディーテを救ってくださりありがとうございます。本当に......本当にありがとうございます」


 僕は目を見開いて彼女を見ていた。


 ああ、そうか。わざわざ僕にお礼を言うために来てくれたのか。僕が王城に行けば会えるというのに。


 「まぁ、成り行きですが、お役に立てたようで良かったです」


 彼女に頭を下げさせる行為を止めさせようと、僕は立ち上がろうとした。


 その時だ。


 僕は今まで慣れない正座をしていたため、足が痺れていたからか、そのまま転んでしまった。


 ――アテラさんの方へ。


 「きゃ?!」


 アテラさんを後方のソファーに押し倒した僕は、自身の手が柔らかなものを握っていることに気づく。


 そして以前にも一度、僕はそれを揉んだ覚えがある。


 だってそれは――アテラさんのたわわに実ったおっぱいだったから。


 僕はほぼ条件反射で、一、二回揉みしだいてしまった。極上の柔らかさと弾力が手のひらから伝わってくる。


 アテラさんが僕を見上げてから自身の胸を見て、また僕を見上げた。


 途端、彼女は顔を真赤にする。


 そして次の瞬間、僕は顔面に拳をめり込まれ、家の中から中庭へと吹っ飛んだ。


 僕を殴ったのはアーレスさんだ。


 「貴様は死にたいのか?」


 「も、もう......しに......そうでふ......」


 『お前、ほんっとブレねーな』


 『情けなさすぎて泣けてきますよ......』


 だって、そこにおっぱいがあったんだもの。ロイヤルなおっぱいが......。


 そして僕に胸を揉まれたアテラさんは、怒りで肩を震わせながら怒鳴った。


 「や、やっぱりあなたは変態ですわ!! 変態! 変態! 変態! もう知りませんわ!」


 「あ、アテラ姫でん――」


 「帰らせていただきますわ!」


 「送ります」


 そう言い残し、アテラ姫殿下はアーレスさんと共に、王城の地下に繋がる転移魔法陣がある風呂場へと向かっていった。


 あの人、僕に会いに来て、おっぱい揉まれて帰っちゃったよ......。


 僕はよっこらせと立ち上がり、殴られた鼻を擦りながら部屋の中へ戻ろうとした。


 「いてて。今度会ったら、おっぱいを揉ませてくれたお礼を言わないと」


 『言うな。まず謝れ』


 「王、大丈夫? ガルが後でアーレスを叱っとくね」


 『そして従者も従者ですね。主の非を認めないところが恐ろしいです』


 「でもね、最近思うんだけど、おっぱい揉まれたくらいで怒るのはどうかしてると思うよ。僕はち◯こを見られても、揉まれても、しゃぶられても怒りを覚えないもん。むしろ感謝しちゃう」


 『女の胸とてめぇのち◯こを一緒にすんな』


 家の中に戻ると、僕はリビングの床にきらりと光る何かが落ちていることに気づく。


 それは金色に輝くブローチだ。何か紋章のようなものが描かれており、そこそこ重たい印象のある代物であった。


 「あれ、なんでブローチがこんな所に?」


 「あ、それあの侵入者が落としていったやつ」


 「侵入者じゃなくて王女様ね」


 この金色のブローチ、アテラさんのか。たぶん僕が押し倒した拍子に落としてしまったのだろう。申し訳ないことしたな。


 「明日会う予定だし、その時に返そう」


 『だな』


 「......王はそれを触ってもなんとも無いの?」


 と、僕がブローチを部屋の明かりに当てて眺めていると、マルナガルムがそんなことを僕に聞いてきた。


 マルナガルムはじーっと僕が持っているブローチを見つめている。少し警戒しているようにさえ見えた。


 「別になんとも無いけど?」


 「なんで? ガルが触ったらバチっと来たよ」


 「静電気かな?」


 僕はそう言って、ブローチを持って自室へと戻った。



*****



 「ありませんわね......わたくしのブローチ」


 王城に戻ったアテラは、自室で着替えている途中であることに気付いた。


 それはいつも身に着けているブローチを失くしたことだ。そのブローチは王家の血が流れる者のみ所有できる代物で、また王族の血が流れる者しか触れることができなかった。


 そのブローチに王族以外の者が無理に触れようとすると、まるでブローチがそれを拒むように防衛機能を発動するのである。


 一瞬触れるだけならばバチッと電撃を流す程度で多少の痛みは伴うが、長時間触れているとその者を排除しようとあらゆる攻撃魔法を連発してくる。


 故にアテラはそれが盗まれる心配はしていないが、自身がブローチを失くした場所は粗方検討がついていた。


 アーレスの家だ。


 きっと鈴木に押し倒されたときに落としてしまったのだろう。


 「はぁ。明日は忙しいというのに......。仕方ありませんわね。アーレスさんには事情を話して、後日取りに行きましょう」


 可能な限り早く回収したいが、先述した通り、王家の者以外誰も触れることができない代物だ。アテラは自分で取りに行くしか無いと考え、諦めて天蓋付きのベッドに寝転ぶ。


 そして落としてしまったブローチと合わせて思い出してしまう。


 「......スズキさん、かなり強くわたくしの胸を揉まれていましたわね」


 当時の出来事を思い出し、アテラはスズキが事故ではなく、故意で揉んできたのではないか、と疑うようになっていた。


 実際そうだが、そのことを思い出して、アテラは再び赤面した。


 「も、もしやわたくしとそういう関係になりたいとか......」


 そう思うと落ち着かなくなり、アテラは寝返りを繰り返して、最終的には枕に顔を埋めて動きを止めた。


 「わふぁふしの......おうふぃふぁま......」


 そんな乙女の悶絶した言葉は誰にも知られることは無かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る