第478話 二人目
「あ、ヤマトのことすっかり忘れてた」
翌朝、僕は聖国の中央都市のとある飲食店で朝食を済ませた後、その辺をぶらぶらしていた。
いや、正確にはズルムケ王国に戻るための準備だな。また長い旅路になりそうだし、色々と買い込む目的でぶらついているのである。
そんな僕はこの国にとっちゃ指名手配犯だが、当時のように怪しげな仮面ではなく、【固有錬成:摂理掌握】で眼鏡の形に変えたドラちゃんを身に着けているからか、目立った様子も無かった。
ちなみにシスイさんは本日、聖女として職務を真っ当する模様。昨日、あれだけ二人だけの時間を過ごしたんだ。彼女的には満足したのだろう。
なんせ今朝、別れる前に「またお会いできることを願ってます」と言われちゃったのだ。雰囲気的にも、今晩も会いに行くことなんてできない。
なので、大人しく用事を済ませたら聖国を発つことにしたのである。
『あーそう言えばそうだったな。ヤマト、どこ行ったんだろ』
「なんかいじけてたよね」
「「何があったんでしょうか」」
などと、十中八九、諸悪の根源たるインヨとヨウイが言う。白々しいことこの上ないな。
いや、インヨとヨウイのこの様子は普通にやらかした自覚が無い顔だな。
ヤマトさん、どこ行ったんだろ。
僕がそう思っていた、その時だ。
ガッ。
僕は前方の硬い何かとぶつかって、おでこを痛める。
「あいた」
「「マスター、不注意と告げます」」
やべ。僕は何とぶつかったんだ。
人じゃないな。壁みたいな、なんか。
そんなことを考えて前方を見やると――全身銅色の鎧を纏った重騎士が立っていた。
「シュコー」
「「「『っ?!』」」」
僕は絶句してしまった。
眼前の重騎士は、シュコー、シュコーと息を吐いていた。ヘルムの口の辺り、その隙間から目に見えてわかるほど灰色のガスを吐き出している。
しかし重騎士から吐き出したガスはすぐに霧散した。
重騎士はヘルムの奥、どういう原理なのかわからないが、両目が青白く光っていた。
え、ちょ、なにこの人。いや、そもそも人? 見るからにヤバそうな奴だ。
目をパチクリさせていると、先方は僕の両肩をいきなり掴んできた。
「ひゃ?!」
「「ま、マスター!」」
『こ、こら! ご主人を放せッ!』
「シュコー、シュコー」
怖い怖い怖い怖い怖い!! なに?! 何なの?! ぶつかったこと怒ってるのかな?! 謝るから肩放してくれないかな!!
周囲に居る街の人たちも、そんな僕らに注目しちゃってるし。
すると重騎士がヘルムをズズズッと僕の方へ近づけてきた。
「シュコォォオ」
「ひッ?! あ、えっと、ごめんなさい! ぶつかってごめんなさいッ!!」
「シュコォォォオオオオ」
そのシュコーやめろッ。怖ぇーよ。なんか言えよ。
僕が目を瞑っていると、先方が僕の鼻にぶつかるくらい、ヘルムを押し付けてきた。
も、もう駄目ッ......。
殴ろう!!
僕は身の危険を感じて、右手に力を込めた――その時だ。
「......か?」
「ふぇ?」
相手が何か言葉を発した気がした。
耳を傾けていると、重騎士がまるで初老の男性を思わせる声音で告げる。
「貴様は我が主............オウか?」
******
「シュコー」
「......。」
現在、僕らは人で賑わっている場所から離れて、木陰があるベンチで並んで腰掛けていた。
僕と全身銅色の重騎士が並んで、だ。
本当は人違いです、で軽く流して立ち去ろうとしたんだけど、この重騎士さんが全然、僕の肩を放してくれなかったので、同伴を余儀なくされた。
インヨとヨウイは警戒心をあらわに、そんな重騎士を威嚇するように両手を広げたり、かまえたりしていた。
が、相手は全然動じた様子もなく、虚空を見つめている。
そして口を開いた。
「オウ......か?」
「え」
「オウ......だろ」
「いや、えっと......」
「オウ......ではないのか?」
「その......」
「オウ......だと思った」
「僕は――」
「オウ......ではなかったか......」
う、ううううううるせぇ。
なんだ、さっきから自問自答して。会話を試みてるの? 違うの? どっち?
とりあえず、この重騎士さんが言ってる“オウ”ってキーワードはたぶんだけど、<
だってティアが言ってたもん。聖国に従者が居るって。絶対こいつだろ。
その証拠にティアも黙ってるし。たぶん声を発したらバレると思ってるからだろう。
「シュコー。オウよ......なぜ我らを見捨てた」
「え?」
重騎士さんが灰色のガスを吐き捨てながら続ける。
「なぜ......我々を裏切った。シュコー」
し、知らないよ、前代の王様のことなんて。
<
本当はそのつもりはなかったんです。イキりたかっただけなんです。ええ、はい。
お願いだから僕の安らかな異世界生活の邪魔をしないで。
僕は半ば強引にこの場を立ち去ろうとした。
が、
「この間合いなら」
重騎士がより低い声音で告げる。
「私は貴様を一刀両断......できる......シュコー」
「......。」
僕は席を立つことはしないようにした。
王様斬る気満々なんだな......。いや、王じゃないけどさ。
とりあえず、僕は知らぬフリをして話を聞くことにした。
「え、えっと、誰の何の話をしているのか知りませんが、人違いですよ。話し相手間違えてます」
「シュコー。実は我々オウの従者には」
「え?」
「互いにオウの従者であることを証明する、ある能力が備わっている」
な、なにそれ。
てか僕の話を無視すんな。
「それは......シュコー」
重騎士さんは灰色の息を吐き捨てながら続けた
「発光」
..................はっこう?
「は、発光?」
「シュコー」
重騎士さんが頷く。
僕は猛烈に嫌な予感がした。
重騎士さんが立ち上がり、どこからか、自身の長身とほぼ同等の大きさの黒い大剣を取り出した。
それを両手に抱え、僕の方へ向き直る。
僕は彼のこれからしようとしていることを察して、止めに入った。
「ちょ、ちょ、ちょ! 待ってください!」
「シュコー。安心しろ。貴様を斬るつもりはない」
「い、いえ、そうではなく。あなた今から何をするつもりですか」
「シュコー。発光」
だから発光ってなに!!
が、内心で慌てふためく僕を他所に、重騎士さんが続けて言った。
「発光は......言わば存在証明だ」
「はい?」
「シュコー。互いに至高のオウに仕えることを証明するために光り輝く。......誇りを示すのだ」
そう言い終えるのと同時に、重騎士さんが力強く宣言した。
「我が名は“ノル”。<銅貨>のノル。至高のオウに仕える騎士である」
瞬間、重騎士さんがまるで夕焼けを思わせるような橙色の光を全身から放った。
そして同時に、僕の右耳の耳飾りも光り輝いた。
重騎士さんとは違い、こっちは金色の輝きを放っている。
ちょ、ティアさん!!
『ごめん、王サマ。これは不可抗力。無理』
「......。」
ティアさん......。
僕は思わず黙り込んでしまった。
橙色の輝きを放ち続ける騎士と、金色の輝きを放つ三日月型の耳飾り。
重騎士さんがベンチに座ったまま虚ろな眼差しで俯く僕に対して言った。
「シュコー。よく......光ってる」
「......。」
うん、そうだね......。
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