第452話 割と早めの再会
「わ、<
現在、夕食中の僕は<1st>から差し出されたステーキの一端を咀嚼して飲み込んだ後、静かにそう呟いた。
なんだよ、<
名前からしてやべぇじゃん。あのティアっていう妖精さんも見るからにアホみたいに強かったし、他の従者もあのレベルなら、僕が偽物だってバレたら殺されちゃうよ。
ん? そういえば、ルホスちゃんの祖父、ビスコロラッチさんも似たような異名を持っていたな。
たしか......<
僕がそんなことを考えていると、<1st>は仮面越しでもわかるくらい、弾むような声で口を開いた。
「少年、少し話は変わるけど、その指輪、もしかしなくても“
「え?」
<1st>は僕の左手にはめられている金色の指輪を指していた。
<ギュロスの指輪>のことか。たしかに“
というか、既に魔族姉妹たちには言ってるから、盗聴器を通して<1st>にもバレバレだと思っていたんだが......。
鎌かけている感じはしないけど、しつこく聞かれそうだし、素直に頷いておくか。
「まぁ、うん、そうだけど」
「おお! やはりそうだったか!」
ちょっとハイな<1st>、その不気味な格好からして怖い。
「実はワタシが使っていたときは応じてくれなくてね」
「好き好んで<1st>に話しかける人はいないからね」
「いいなぁ。ワタシも一度はギュロスと話してみたかったなぁ」
「寝盗ろうとするのやめて。ギュロスは僕の女だから」
「どんな雰囲気なの、ギュロスは」
「僕が会ってきた中で一番まともなヒロインかな」
「ボス、いい加減この頭が悪い下郎と会話するのはお止めください」
と、<7th>が僕らの会話に入ってきて、そんなことを言ってきた。
食事を終えた僕は、テーブルに頬杖を突いて溜息を吐いた。
「はぁ。これからどうしよ。魔族姉妹やアウロディーテ姫殿下たちが心配だから王都に帰りたいんだけど、変な連中に目をつけられたせいで、迂闊に戻れないよ」
「変な連中って〜?」
と、耳元で聞き覚えのある少女特有の甘い声を聞いて、僕は応じた。
「いや、話の前後からして、その<
「はは。ティアは“変な連中”じゃないよ〜」
相手の声がまさに先程話題に上がっていた妖精さんの声ということに気付かされて、僕はギギギとまるで錆びついた機械の可動部を思わせる音を響かせながら振り向いた。
そこには妖精さん――<月湖>のティアが居た。
彼女は僕の顔の真ん前で優雅に浮遊していた。
愛らしい彼女と目が合う。
僕は白目をむいた。
「な?! 何者だ、貴様!」
最初に驚きの声を上げたのは<7th>だ。
続いてサースヴァティーさんが言う。
「あれ、妖精じゃん。どこから入り込んできちゃったんだろ」
まるで妖精を、実家に入り込んできてしまったヤモリかなんかのように見ている感じである。
そして最後に、<1st>が先程までの楽しげな会話のときとは違う、幾分か低い声音で口を開いた。
「どうやってここに来たんだい?」
「ふふふ。それはね〜、ティアが王サマと契約したから」
妖精さんは白目をむいている僕の方へ近づいてきて、どこから取り出したのか、自身の身長くらいある鏡を手にして、そこに映っているものを見せてきた。
そこには僕の右耳が映っていて......三日月を模した小さな金色のピアスがあった。
な、なんだこれ。言われるまで全然気づかなかったぞ。
「これは王サマがティアと契約した証。決して誰にも分かつことができない、妖精との絆を示す証だよ。これでティアと王サマはずーっと一緒。王サマの下へすぐに駆けつけられる」
「いつの間に......」
「王サマがティアの涙を拭ったときに成立したよ」
え、ええー。
あれか、僕は【固有錬成:賢愚精錬】と【固有錬成:力点昇華】の合わせ技の代償で右腕がぐちゃぐちゃになったときに、ティアが泣きながら駆け寄ってきたから、その涙を拭いた時のことか。
「王サマ〜」
ティアが僕の頬にくっついて頬擦りをしてくる。
サースヴァティーさんが呆れた様子の口調で僕に言ってきた。
「ず、ズキズキ、耳にピアス穴あけられて気づかなかったの......」
「......。」
だって仕方ないじゃん。僕はあのとき、片腕がぐちゃぐちゃになるという重症を負ってたんだから。
<1st>がそんなティアを仮面越しでもわかるほど、鋭い眼光で睨んでいることに気づく。
「少年から離れたまえ」
「嫌」
<1st>は足を組んだ後、まるで覇者の如く気迫を込めて語る。
「ここはワタシの――<
底冷えするような声音が胸に響く。心臓を鷲掴みにされて、いつ潰されてもおかしく無いような恐怖を感じてしまった。
見れば、<7th>もこちらに殺気を向けてきている。
......ねぇ、その殺気、僕にも向けてない? 僕は敵じゃないよ。味方でもないけど。
サースヴァティーさんはそんな僕らを我間せずと見守ってるし。
そしてまた妖精――<月湖>のティアも黙っていない。
「はぁ? ティアと王サマの間に割って入ってきた家畜の分際で、誰に物を言っているの?」
<1st>の殺気に臆すること無く、妖精の少女はその愛らしさを捨て去って、闇組織の親玉を睨み返した。
まさに一触即発。剣呑な雰囲気と化したこの状況を止められるのは、おそらく僕だけだ。たとえ勘違いでも、ティアは僕――“王様”の言うことには従ってくれるはずだし。
「ま、まぁまぁ。落ち着こうよ、二人とも――」
「ティアがその気になれば、ここに他の従者たちを呼んで家畜どもを潰してもいいんだよ」
「おやおや。お仲間を呼ばなきゃ“家畜”すら倒せないのかな? どうやら身体だけじゃなくて、器も小さいらしい」
全然聞いてくれない。
ティア、さっきの戦闘のときも思ったけど、王様のことを尊重するなら、せめて君くらいは話を聞こうよ。
僕は泣きたい気持ちを我慢しながら、二人を見守るのであった。
「いや、止めようよ。諸悪の根源でしょ。なに黙って見ていようとしているの」
という、サースヴァティーさんのツッコミは尤もであった。
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