第451話 闇組織のボスの、あーん

 「ボス、ズキズキ来た〜? あれ、老けた? 白髪じゃん」


 「え、ちょ、サースヴァティーさんじゃないですか。どうしてここに?」


 「え? それは............あ」


 と、なんとも間抜け面を晒す、齢六百歳のロリババアである。今は人間の少女の姿だけど、正体は巨大な龍らしいから笑えない。


 僕はひょいっと立ち上がって、サースヴァティーさんの下へ向かった。


 「うわぁ。本当にお久しぶりですね。そこまで時間は経ってませんけど。お元気でした?」


 「う、うん、まぁね」


 「あれ、期間的にはワタシと同じなのに、なんであの子とワタシで態度違うの」


 なんか後ろで闇組織のボスが不貞腐れている気がするけど、気にしない気にしない。


 僕はサースヴァティーさんと半ば強引に握手した。


 「いやぁ。聖国ではお二人に世話になりましたからね〜。正直、また会えて嬉しいですよ。あの時は色々とありがとうございました」


 「し、仕事だからねー」


 で、と僕は彼女の手を握りながら問う。


 いや、問い質す。


 「ところでミーシャさんは?」


 「?!」


 僕はあのスレンダー美女に煮え湯を飲まされたからな。今度会ったら僕のザー汁を飲ませてやると誓ってるんだ。


 サースヴァティーさんは何故か僕の後方に視線を向けた。


 後ろには<1st>と<7th>が居るんだけど、どうかしたのかな?


 「み、ミーシャは、えっと、べべべ、べ、別件で今は別行動しているよ」


 「え、そうなんですか。それは残念ですね」


 「ち、ちなみにだけど、今度ミーシャに会ったらどうするの?」


 などと、サースヴァティーさんが苦笑しながら聞いてきたので、僕は笑顔を浮かべたまま、左手の指で輪っかを作り、その穴に右手の人差し指を抜き挿しした。


 ズボズボ、ズボズボと執拗に、僕はその穴を攻めた。


 「こうします。絶対に」


 「「......。」」


 「こ、この者は我々より罪深いのでは?」


 という、<7th>から公認されるほど、僕はレイプ魔扱いされるのであった。



*****



 「へぇー。サースヴァティーさん、ここで研究しているんですね」


 「そ。後で私の研究室に来なよ。すっごい物見せてあげるからさ」


 すっごい物ってなんだろ。


 現在、僕は闇組織<幻の牡牛ファントム・ブル>の拠点である古城のとある一室で、サースヴァティーさんと食卓を囲っていた。


 ちなみにメインメニューはステーキ。まさか二年ぶりの食事を闇組織のアジトで摂るとは。ギュロスさんの異空間では食事なんてできなかったからなぁ。


 またこの場には<1st>も居て、また近くには修道服姿の<7th>が控えていた。


 <1st>、食事しないのにここに居るよ。食べるなら仮面外せばいいじゃん。


 いや、素顔を僕に見られたくないのか。


 「いやぁ、それにしても、こうしてズキズキと一緒に食事できるなんてね〜」


 「はは。聖国では色々とありましたが、今となっては良い思い出ですよ」


 「お。嬉しいこと言ってくれるねー。あ、良かったらうちに来なよ。ズキズキなら幹部にしちゃうから」


 「遠慮します。僕は真っ当に生きるんですから」


 「真っ当に生きようとしている人間は、闇組織の拠点でシコろうとはしないよー」


 うるせ。


 「さて、セカ――サースヴァティーと楽しく話しているところ悪いけど、本題に入っていいかな?」


 と、<1st>がなぜか頬杖を突いて、どこか不機嫌そうに言った。


 なんだ、会話に入れなくて寂しかったのか。


 まぁ、このアジトのボスを放置してくっちゃべってたからな。そりゃあ面白くないよね。


 「少年、あの妖精――ティアのことについては何も知らないのかい?」


 「ええ。初めて会いました。<1st>は知ってるんですか?」


 「......。」


 「?」


 僕の問に黙り込んだ<1st>が、僕をじっと見つめてきた。


 「ねぇ。気になったんだけど、わざとなのかい? その口調」


 などと、<1st>が言う。


 「何がです?」


 「いや、細かいところが気になってね。先の戦闘でさ、少年がワタシから剣を取り上げたときに『<1st>、その剣借りるよ』って良い声で言ってたでしょ」


 「い、良い声って......」


 「ワタシ的には少年と親しい間柄になりたいから、敬語なんて使わなくていいと思っている」


 「は、はぁ」


 こいつ、自分から本題に入ろうとしたくせに、しょうもないことで話を脱線させたな。


 「あ、今、ワタシのこと面倒な人だと思ったでしょ」


 「......。」

 

 「あはは、ズキズキ図星〜」


 思ってましたね。敬語使うのやめよ。


 というか、このやり取り、なんかミーシャさんを含めた三人の会話を思い出すな。


 ......あれ、よく考えたら、ミーシャさんと<1st>の口調って似てない?


 一人称とか、雰囲気とか......。


 僕は<1st>をじっと見つめた。


 「なにかな? じろじろとワタシを見てきて」


 「なんとなく思ったんだけど、<1st>って......女の人?」


 「ぶふぉ?!」


 きたな!!


 なぜかサースヴァティーさんが吹き出して、飲みかけていたワイン......じゃなくて、グレープジュースっぽい紫色の液体を僕にかけてきた。


 おいおい。ロリの吹き出したものを聖水と呼べるほど、僕はまだ上級者じゃないぞ。


 そんな僕らを他所に、<1st>はテーブルに頬杖を突きながら口を開いた。


 「ふふ。どっちだと思う?」


 「ヒントとして胸触っていい?」


 「もはや答えじゃないか」


 「お尻でもいいかな」


 「一応、君の前に居るのは、闇組織のボスなんだけど」


 全く自重しない僕にドン引きしている<1st>は、肩を竦めて言った。


 「秘密だ。なんたってワタシは陰に生きる者だからね」


 などと、どこか面白そうに言う<1st>。


 まぁ、ミーシャさんにしては身長高いし、肩幅とかも違うしな。


 僕はサースヴァティーさんに聞いてみることにした。


 「失礼かもしれませんが、<1st>ってどことなく雰囲気がミーシャさんに似てません?」


 「うぇ?! そ、そそそ、そうかなー?」


 だ、大丈夫か、この人。


 いや、さっきまで咽っていた人だ。話しかけたら可哀想か。


 ま、たぶんミーシャさんじゃないだろう。


 僕が心の中で結論づけると同時に、<1st>が話を戻した。


 「で、あのティアのことなんだけど、アレはとある王に仕える者たちの一人だ。見ての通り、妖精族だよ。少しやり取りしてわかったと思うけど、ヤバい奴」


 「“とある王”って誰のこと? どの国の王様なの?」


 「国は無いよ。強いて言えば、たった一つの城の主だ」


 城......王......。あれ、ギュロスさんが以前似たようなことを言っていた気がする。


 たしかとある古城の王の従者たちが居て、従者一人ひとりは種族が違っていて、全員やべぇ奴って......。


 僕がそんなことを思い出していると、<1st>が手のひらに光沢の無い黒色のフォークを生成して、僕の前にあるステーキの一切れを刺した。


 「ティアは従者の一人だ。異名は<月湖>。故郷を捨てて、とある王に加担した憐れな妖精だよ。そんな彼女が仕える王は......<最悪の王ワースト・ロード>」


 そして<1st>は一切れの肉を僕の口元へ持っていく。


 「次代は......君だ」


 それを口に含んだ僕は、その一切れの肉がいつの間にか冷めきっていたことに気づくのであった。

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