第434話 王城地下に潜入? すでに先客が・・・
「アテラ姫殿下、僕は目隠しますね」
「......それは何か、せ、性癖的な意味合いで?」
ちげぇーよ。
現在、僕は急な訪問者、アテラ姫殿下と共に王城の地下施設へ向かう準備をしていた。
以前、タフティスさんと行ったときは、アーレスさんちに居る時点で目隠しをするよう強制されたのだが、それはもちろん理由があってのことだ。
王城の地下施設に通ずる転移魔法陣の在り処、転移先からアウロディーテ姫殿下が居る部屋までの道のり、それらを僕に知られないようにするために、タフティスさんは僕に目隠しをさせたのである。
なんで目隠しプレイ的な性癖として捉えるんだ、このお姫様は。
僕はそれらの説明をすると、彼女は納得した様子で答えた。
「なるほど。しかし今回はその必要がございませんわね」
「?」
「仮にスズキさんがお逃げになる際、帰り道がわからないとお困りになるでしょう?」
「ああ、なるほど」
という、尤もな回答が来たので、僕は目隠しプレイをやめることにした。
じゃなくて、“目隠し”。自分でプレイって言っちゃったよ。
目的の場所まで僕を誘導するために、美少女に手を引かれるという一大イベントが抹消されてしまった。
損した気分だよ。
「それに」
「?」
と、僕がそんなことを考えていたら、すでに歩を進め始めていたアテラ姫殿下がぼそりと呟く。
「と、殿方と手を繋ぐなんて......安易にできませんわ」
「......。」
それが本音なのね。
*****
「転移するときって、チンさむロードだよね」
『わかる〜』
『あなた、ち◯こ無いでしょう』
「ち、ちん......さむ?」
『無視していいぞ、いつもの下品な会話だから』
と、ドラちゃんがアテラ姫殿下に言う。
ちなみにドラちゃんの存在は早々に、彼女に伝えていた。
当初は驚いて、興味深そうに僕を見つめてきたが、それ即ち、異性と見つめ合うことと同じで、途中でそれに気づいた彼女は顔を赤くして、ドラちゃんへの観察をやめた。
本当に可愛いな、この姫さん。絶対に人を殴ったことないでしょ。帝国の姫さんは暴力的で強気なのに。
『にしても王城の地下に繋がる転移魔法陣が、アーレスんちの風呂場にあったとはな』
『あれ、転移で戻った際に、あの女が湯浴みをしていたら一発でアウトですよね』
「それが望ましい」
『そんときはオレがご主人の目を潰すから安心しろ』
どこに安心があるのかな?
やってきた地下施設は相変わらずの風景で、石造りの床や壁、点々と距離を置いて壁に掛けてある松明しか見受けられない。目の前に広がる通路は、そんな景色がしばらく続くほど殺風景だ。
ジメッとしてるし、淀んだ空気は少しだけ陰鬱な気分になってしまう。
「ほら、行きますわよ」
「あ、はい」
『鈴木さん』
アテラ姫殿下に催促されたので、彼女についてこうとしたら、姉者さんに呼び止められてしまった。
踏み出した一歩で止まった僕を不思議に思い、アテラ姫殿下が頭上に疑問符を浮かべる。
「どうされましたの?」
『前方、突当り付近からこちらへ向かってくる人が居ます。数は二人』
『マジか。まだここからじゃ見えねぇーな』
『騎士が巡回してるとか?』
姉者さんはすぐに【探知魔法】で、ここら一帯を調べてくれたことを報告してくれる。
ん? でもここって、関係者以外立入禁止で、その関係者とやらはごく一部の人間だけ、とタフティスさんが言っていた気がする。
そもそも王城の地下施設の存在は一般的に知られていないって聞いたし。
いや、巡回する騎士くらいなら配備するか。あ、もしかしたら、前回遭遇したルウリ王妃陛下かも。
「アテラ姫殿下、この地下施設には誰か来るんですか? ルウリ王妃陛下とか」
「? いいえ。お母様は公務で忙しくされていて、本日はアウロお姉様の看病はされないと聞いておりますわ」
『巡回してる騎士とか、親父さんも?』
「ええ。それに騎士でこの場を知っているのは、<
じゃあ、姉者さんが教えてくれた人たちは?
僕は意識を前方に向けた。
未だに姉者さんの言う二人は見えないままで、薄暗い通路が続いているだけだ。
でも、
「......うん、二人居るね。それも武装してる」
連中の殺気がここまで伝わってくるのがわかる。
僕の呟きに、姉者さんが感嘆の声を漏らす。
『ほう......。【探知魔法】を使ってもないのに、気配がわかるのですか』
「はは、姉者さんに言われるまでわからなかったけどね」
『かかッ。成長してるってことじゃねぇーか。もしかしたら傭兵稼業のスキルが活きたのかもな』
「あの、先程から何を仰って――」
そう、アテラ姫殿下が言い欠けた、その時だ。
アテラ姫殿下が把握していない人物が二人、姿を見せる。
その二人は――騎士だった。
王国騎士の装いで、腰に剣を携えた壮年の男が二人。こちらの存在に気づいて、ニタリと下卑た笑みを浮かべる。しかしそれは一瞬のことで、その二人はこちらへと近づいてきた。
その様子を目の当たりにしたアテラ姫殿下が戸惑う。
「な、なぜここに人が......」
「......アテラ姫殿下、あの二人を知ってますか?」
「い、いえ。
ふーん? あの騎士二人は知らないってことか。
将又、この姫さんが僕を騙すために......いや、さすがにそれはないか。偶々僕を連れてやってきたタイミングで、ばったり遭っちゃったと見るべきだろう。
やがてこちらへやってきた騎士二人が口を開く。
「これはこれは。探しましたぞ、アテラ姫殿下」
「わ、
「ええ。ルウリ王妃陛下より、アテラ姫殿下とアウロディーテ姫殿下を連れ戻すよう、拝命しております」
「っ?! あ、あなたたち、アウロお姉様のことを!!」
「ええ。我々はルウリ王妃陛下よりご用命を賜って、この地下施設におります」
「理由は?! お母様がなぜ
「アテラ姫殿下」
僕は何やら一人で混乱し始めるアテラ姫殿下に待ったをかけた。
騎士二人はそんな僕を見て、怪訝な顔つきになる。
「そうほいほいと人を信じちゃいけませんよ」
「す、スズキさん......」
「なんだと、貴様」
「アテラ姫殿下、この者は?」
そうアテラ姫殿下に問う騎士の男を他所に、僕は彼女に告げる。
「王城には<
「え? たしかにアギレス一人で城内を常に監視できますが、この地下までその監視能力は及びませんわ」
「おい、貴様、我々王国騎士に対して不敬を働く気か」
そう言って、強引に僕からアテラ姫殿下を遠ざけようと、うち一人の騎士が、鎧を纏う太い腕で彼女の手を取ろうとした、その時だ。
僕はその腕を掴んだ。
「っ?! す、スズキさん!」
「......おい、この手は何だ」
そんな怒気と殺気を孕んだ男の目が僕を捉える。
それでも僕はその男の手甲を掴みながら、睨み返す。
「不敬はどっちだ。あんたら血の臭いが酷いぞ。......汚い手で彼女に触んなよ」
おそらくだが、この騎士の格好は......どこからか、調達したものだ――本物の騎士たちを殺して。
すると男どもは見交して言った。
「「今殺すか」」
そんな男どもの殺意に満ちた瞳が、僕らを捉えるのであった。
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