第433話 ツインテお嬢様は大胆不敵
「お戻りになりましたわね」
「『『『......。』』』」
現在、アーレスさんの下までお弁当を届けに行って、家に戻ってきた僕は、不法侵入者と相対していた。
白緑色の長い髪をツインテールに結った、少しツリ目が特徴の美少女だ。胸元の谷間を強調するようなドレスを纏っていて眼福だが、僕にそれを堪能する余裕なんて無い。
第三王女アテラ・ギーシャ・ズルムケだ。
近くには護衛の人も使用人も見受けられない。なんで一人でここに居んの。
僕は番犬ならぬ、番虎ことヤマトさんを見やった。
『知らん。転移で勝手に来たぞ』
「?!」
ヤマトさんが声を発したのと同時に、アテラさんが驚く。
どうやら例に漏れず、大きな虎が喋り出したことに驚きを隠せなかったみたいだ。そんなことは知らんと言わんばかりに、ヤマトさんが続ける。
『この小娘、吾輩を前に興奮して「なんと大きな虎さんでしょう。なでなでしますわ」などと――』
「ひゃー! や、やめてくださいまし! この虎はなんですの?! 召喚獣でも人語を介するほど知能があるなんて、
「アテラ姫殿下は動物がお好きなんですか?」
『おい、小僧、吾輩を動物扱いするな』
『にしてもお姫さんが護衛もつれずに何しに来たんだ』
『使用人すら連れていないようなので、お茶すら淹れてませんね』
本当だ。まんまお嬢様って感じだな。
僕はとりあえず、お茶を淹れる旨だけ伝えてキッチンに向かい、お茶の準備をする。
そんな僕に対し、王女さんは訝しげに問う。
「......よく落ち着いていられますわね」
「え?」
「家に突然、一国の王女が居たら驚いたり、警戒したりしませんの?」
「まぁ、ええ、そうですね」
帝国皇女や聖女と、僕にとっては雲の上に住んでいるような人たちと散々関わってきたんだ。最初こそ緊張したけど、今はそうでもない。
僕はそう思いながら、いつぞやのバートさんから貰った、ロトルさんお気に入りのハーブティーを淹れて彼女に渡した。
アテラ姫殿下は特に怪しんだ様子もなく、受け取ったお茶を口にする。
少し目を見開いた後、静かに呟いた。
「美味しい......」
「でしょう? 僕のお気に入りなんですよ」
「えっと、スズキさん? 実はあなたとお話したいことがございまして、城とアーレスさんのご自宅を繋いでいる転移陣を利用して、こちらに参りましたの」
「はぁ。それはかまいませんが、護衛の人とか連れてこなかったんですか?」
「ええ。護衛の者には聞かせられない話ですので」
ということは、お姉さんのことかな? 第一王女アウロディーテのことを。
タフティスさんは呪われた身であるアウロディーテ姫殿下のことを僕に一任すると、上の人に相談するって言ってたし、アテラ姫殿下も家族として、そのことを聞いたのかもしれない。
「タフティスさんから色々と伺いましたわ。どうやらあなたは我が姉、アウロディーテを救ってくださるそうですわね」
「確証はありませんけど」
アテラ姫殿下はハーブティーを更に一口飲んだ後、落ち着いた声音で告げる。
「もし失敗したら、スズキさん、あなたに命は無いと思ってください」
急に物騒な話をしてきたぞ。
タフティスさんがそんなことを許すとは思えないけど......絶対じゃないしなぁ。僕の命を天秤に乗せて比べたら一目瞭然か。
「それは......僕がお役に立てないとわかったら、ただアウロディーテ姫殿下の存命を知るだけの......王家にとっては漏らされたくない情報を持っているだけの邪魔者となるからですか?」
『随分と勝手な話だな』
『まぁ、人間なんてそんな生き物です。あ、鈴木さんを除いて』
「ええ。それもありますが、なによりあなたの力は大きすぎますわ」
「?」
「先日の入団試験で、
「僕はただの美少女好きのヒーローですよ」
「......左様ですか。あくまで隠すおつもりなのですね」
『大真面目だぞ』
『ええ、大真面目ですね』
『大真面目だな』
大真面目だからね。
まぁでも、僕は聖国でかなり力をつけてしまった自覚はある。まだ使えないけど、バフォメルトの【固有錬成:賢愚精錬】が使えたら、戦術の幅はかなり広がると思うし。
他にもまだ覚醒してない【固有錬成】があるから、もし王国の敵になったら強敵認定されてもおかしくないな。
「とりあえず、やれるだけのことはします」
「か、軽く考えておりません?」
「まさか。......僕だって女の子にあんなことする奴、許せないんですから。本気でどうにかしてみせますよ」
「っ?!」
本気でどうにかして、本気で術者を捕まえてみせる。
アウロディーテ姫殿下に呪いをかけた奴は一体どんな気持ちで今を生きているんだろう。呑気にこの王都で生活していたとしたら......裁かないと駄目だよな。
そう考えていると、ヤマトさんが僕に注意してきた。
『小僧、殺気が漏れてるぞ』
「あ」
『鈴木さんって、女の子のことになると本当に沸点低いですよね』
と、姉者さんに言われて苦笑していたら、アテラさんが尋常じゃないほど汗をかいていた。顔色も白を通り越して青白いし。
も、もしかして怖がらせてしまっただろうか。
とりあえず謝ることにする。
「す、すみません。大丈夫ですか?」
「い、いえ。あなたがこの件に関して、真剣にお考えになっていることは理解できましたわ」
「それはなにより」
「つきましては、あなたが考えている計画について、
「それはできませんね」
「......なぜですか?」
「あまりズルムケ王国がどういった情勢を抱えているか知りませんが、今のアウロディーテ姫殿下の状況を作ったのは、王家の血が流れているから、ではありませんか?」
「......。」
アウロディーテさんの状態を知っているからって、呪いをかけた術者と繋がりが無いとは限らない。極端な話、これは王家の人を信じない、頼らないで実行すべき案件である。
現状、王位継承権は、王族派筆頭のアウロディーテ王女と、貴族派筆頭のヘヴァイス王子にあるから、素直に計画を教えるつもりはない。
計画に万が一でもあったらいけないのだ。
僕がそう考えていると、アテラさんが視線を鋭くして僕を睨んでくる。
「この
「......万が一でもあっちゃいけないんですよ。わかってください」
そう返すと、アテラさんは溜息を吐いて、自身を少し落ち着かせてから口を開く。
「わかりましたわ。ではこれから、あなたの考えた案を実行してくださらない?」
「今からですか? タフティスさんの許可待ちなんですけど」
「でしたら、王女として命令致します。今から
「えぇ......」
え、ちょ、なんて? 今この人なんて言った?
戸惑う僕に対し、アテラ姫殿下は意地の悪い微笑を浮かべて言う。
「今すぐにでもかまいませんわね?」
「まぁ、できますけど......」
「
「行動で示すって......。僕がアウロディーテ姫殿下の呪いを祓えば、アテラ姫殿下は僕を信じてくれると?」
「もちろんですわ。逆に
ほほう......。このお嬢様、かなり大胆な性格の持ち主だな。
実際、ルホスちゃんたちのこともあるし、僕が王国から逃げ出すかは別の話だけど、最終手段としてこの国を出るのもの選択肢の一つだ。
僕はアテラ姫殿下に従い、アウロディーテ姫殿下の下へ向かうのであった。
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